男達
カナエは女衆とサトウキビを収穫へ向かい、ヒロとサチは男衆の元に向かった。
***
男達は今日の漁を終え、砂浜では魚を仕分ける者、網を繕う者が賑やかに声をかけ合いながら手を動かしていた。
「ヒロさん!サチさん!」
タタラがヒロを見つけて駆け寄って来た。
「おう、坊主!弟はいい子にしてるか?」
サチが片手を上げて答えた。
「いい子かどうかはわかりませんが、今朝様子を見に行ったら布を変えてるところだったので……素直に言う事を聞いてるようです。手伝わせてはくれませんでしたが……」
「やる事やってりゃ、上出来だ」
サチはニヤリと笑って独りごちた。
「タタラ、岩を切り出さず島を作る方法を思いついた。男達にも協力を頼みたい。話せるだろうか?」
タタラはうなづき、男衆の元に駆けていった。
集まった男達は、歳の頃はサチより少し上からタタラやククリの少し下くらいまで。皆よく日に焼けて、引き締まった筋肉はよく働く者のそれだ。
――全員で20名弱といったところか。
ヒロは成功の可能性に浮き足立ちそうな表情をなんとか堪えていたが……サチはヒロを横目で見つめ、腕を組んで口を硬く閉めた。
女衆はうまくいった。
だが、男はそうはいかねぇ。お前がやりたいんなら、お前が頭をとらねぇと。
「お手並み拝見だな」
誰にも聞こえないよう、小さく溢した。
ヒロは作戦を話した。
岩を積み、草で編んだ網を重ね、小石を詰める――女衆の協力、バケツリレー。
話し終えて、男衆を見ると、年嵩の男が声を上げた。
「ヒロさん、あんたの根性を俺たちは解ってる。」
男が後ろを親指で指す。
人垣が割れ、向こうに岩が積み上げられて山積みになっていた。
サチは目を剥くが、口を結んで何も言わなかった。
「たった半日であれだけの山だ。腕っぷしもかなりのもんだろう。網引きでもサチさんとあんたには世話になった。」
「同じ仕事に汗して、一緒に酒を飲んだあんたらの事は仲間だと思ってる」
――男の言葉が素直に嬉しかった。それは作戦がうまくいくかも知れないからじゃ――無い。
自分の胸に熱いものが広がる感覚をヒロは初めて知った。
「だから、俺たちはあんたには従わない。特に、ここにいる若いのは大事な次の働き手だ。無理させて、怪我なんかされちゃたまらねぇんだ」
「そんな!これは――」
タタラが声を上げた。『ムクタの頼みだ』とでも言うつもりなのだろう。
ヒロは手でタタラを制した。
仲間と言ってくれた者に、ヒロは自分のわがままを精一杯で伝えたかった。
「従う必要は、ない」
ヒロは柔らかい目で、男とその周りにいるみんなに声をかけた。
「一緒にやりたいと、思って欲しいんだ」
サチがほぅ、と息を吐いた。
「あなたは右利きだな?」
「そうだが……?」
「だが、利き足は左のようだ。さっきから左に重心が傾いてる」
男は思わず自分の足元を見た。左足の方が砂浜に沈んでいる。
「それから、後ろのきみは左手の方がいくらか長そうだ。多分、左利きなんだろうが、力を込める時に左に負荷がかかりすぎてる。肘を壊すぞ」
声をかけられた者が皆、足を、手を確認して驚いている。
「体の使い方にはコツがいる。やってみるか?」
ヒロは岩を指差した。
「俺がやる」
男達の中で一番大きな男が前に出た。
「ふん!」
男が岩に力を込める。腕には血管が浮かび、足の指が砂を捕まえるように縮こまるが、岩はほんの少し上がるだけで動かす事はできなかった。
「なんだー?見掛け倒しかー?」
「うるせえ!!」
ヒロは静かに岩のそばに寄り、膝を曲げて岩を体に近づけた。
「ふっ!!」
短く息を吐いて、岩を持ち上げ、大男の前に落とした。
「なるべく重心を落として、岩に体を近づけるんだ。腕じゃなく、下半身を使って上げてみてくれ。――君なら俺よりずっと簡単なはずだ」
砂浜は静まり返っていた。
男はヒロに言われるように、岩を抱き込むように近寄って、力を込めた。
「上がった!」
「すげーー!!」
男達は大興奮で声を上げた。
男は岩を持ち上げたまま、一歩、二歩と進み、波打ち際に石を投げた。
「おい!ヒロだったな!すごいぞ!強くなったみたいだ!」
男は拳を突き上げながら大笑いだ。
「強くなったんじゃ無い。元々強い。みんなもだ」
そう言って、ヒロはみんなを振り返って、それぞれと目を合わせるように語りかけた。
「力の使い方は教えられる。怪我はゼロにはならないが」
「一緒に作ろう。俺はみんなと作りたい。終わったら、またみんなで宴がしたい」
ヒロの笑みに、最初の男が答えた。
「こりゃあ、うん、と言わなきゃ男が廃るな。一緒にやろう。うまくやって、また酒を飲もう」
「うぉおお!やったらぁあああ!!」
大興奮の男達にヒロはもみくちゃにされた。
「ムクタさんに頼まれたって言えば、楽だったのに」
そう言いながらも、タタラの顔は楽しそうだ。
「あいつが初めて自分でやりたいと思ったんだ。花持たせてやれや」
「サチさんも、ずいぶん嬉しそうですね」
「言うなよ…………苦労したんだ」
そう言ったサチの顔を夕陽が暖かく包んでいた。




