水飴
「なにこれ!?しゅごーい!!」
翌朝。
サチさんヒロさんと共にぶどう畑の世話をしているみんなのところへ行き、出来上がった茶色い水飴を見せた。
茶色いネタネタした見た目に、みんな距離をとったけれど――
私が元気な事、そして。
「な!うまひだりょ??」
サチさんがとっても気に入ってくれて、今もみんなと一緒になって、棒につけた水飴を頬張りながら喋っている。
「あの雑草が、こんないいものになるなんてねぇ」
お母さん達も感心しきりで、お祭りの時にはサトウキビも株を取って供えよう、という話になっていた。
「みんなが気に入ってくれて良かったな」
ヒロさんがこそりと私につぶやく。
甘味に馴染みがないみんなの顔は、緩んでいて、明るい。
「うん!」
みんなに負けないくらい、私も嬉しい。
ヒロさんは私に一つうなづいて、お母さん達に向き直った。
「この雑草――サトウキビはたくさん生えているのだろうか?」
水飴に夢中になっている子供達を眺めながら、お母さんの一人が答えた。
「崖のそばで、水が染み出してるとこにはだいたい生えてるよ。集めたら結構な量になりそうね」
「枯れ草はカゴを編んだり後にしたりするんでしたよね?」
私はひょっこりと顔を出して続ける。
「そうそう!でも、お供え用にいくらか作り足すけれどさほど量は使わないわ。枯れると邪魔になるから集めるけれど、余るから火口に使ったりしてるわね」
「魚を捕まえる仕掛けを作ったりもするわね!」
「水に強いと言うことか!?」
ヒロさんが頬を紅潮させてお母さんに詰め寄った。
「ひゃっ」
小さく悲鳴が上がる。
「あ、いや……驚かせてすまない。実は――」
ヒロさんはムクタさんに島作りを頼まれている事をお母さん達にもに話した。
――ムクタは思い出を作りたいらしい。
ヒロさんがそう言った時はお母さん達も何か思う事があるようだった。
「石は運べる物は粗方集めたが、足りない。崖から切り出すのも、厳しい」
「集めたって……あなた一人で?村のまわりを全部?」
「ん?あぁ、半日かかってしまった」
「……半日で終わる仕事じゃ無いだろうよ。マレビト様が妙な事してるってのはあんたのことだったのかい」
お母さん達は、呆れた、というように肩をすくめた。
「サトウキビが余るなら、編んで板のような物を作れないだろうか?それがあればおそらく島は出来る」
ヒロさんの目はまっすぐだった。
「話はわかった、あんたの根性もね」
網引きの時も、ひときわ大きな声を張り上げている、豪快なおばさんが腕を組む。
「この草で編んだ籠は丈夫だよ。何年だって使える、海の中でもね。でも、作ってなんになる?」
おばさんの目はヒロさんを見つめた。
「マレビト様には申し訳ないが、私らにも仕事がある。あんたの自己満足なら付き合えないね」
おばさんの厳しい声に場は張り詰め、子供達のはしゃいだ声が急に遠くなった。
ヒロさんは視線を外さなかった。
「俺の自己満足である事は否定しない」
瞬きもしてないんじゃないかと思うほど、力のこもった目だった。
「だが、この島は育つ」
「育つだぁ?」
おばさんが片眉を上げてヒロさんを見る。
「そうだ。最初の一歩さえ作れたら、潮の満ち引きを力にして育つ。潮が運んだ砂を網が受け止め石が支えるんだ。いつか、草木も芽吹く島になるかもしれない」
ヒロさんの目が、ほんの少し緩んだ。
「みんなで作れたら、素敵だと思わないか?」
言い切ったら、ヒロさんはもう笑っていた。
おばさんがどかっと座って前を指した。
「あんたも座りな。」
「どうするつもりかちゃんと聞こうとじゃないか――私達は何をすればいい?」
おばさんがニッと笑った。
ヒロさんは脱力するようにおばさんの前に座った。
「考えがあるんだ、聞いてくれ――」
楽しそうに、作戦を話し出した。
私も子供達の隙間からサチさんも、それを暖かく見つめた。




