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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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煮詰める

夕暮れの終わり、サチは一人家路についていた。


あの後――。

ヒロはもう一度崖の周りを見て回ると言って行ってしまい、ククリ、タタラとも解散となりぷらぷらと村を歩いた。

宴で仲良くなった村人は気さくに話しかけてきて、仕事をいくらか手伝って、帰る頃には土産だとワインや夕飯の足しをいくらか持たせてくれた。


途中会った女衆や子供らにはやけにカナエを心配されたが……はて、あの嬢ちゃん何をしたやら。



上り坂を上がり切り、焚き火台の灯りが見えると、カナエとヒロの声が聞こえてきた。



「ヒロさん、もっと腰入れて下さい!」

「無理だ、これ以上やったら壊れてしまう」

「私だって汗だくなんです、頑張って下さい!」


「お前ら、なにやってんだ……?」


カナエは鍋に入ったなんだかわからない茶色い液体を汗だくになって混ぜているし、ヒロは何がなんだかわからない顔で木の枝をすりこぎで叩いていた――。


***


「これがそのサトウキビねぇ」

サチさんは珍しそうにサトウキビを手にとった。

「はい!ヒロさんにとってもらった搾り汁を煮詰めると、砂糖になる……はずです」

やった事は無い……鍋の中で茶色いネタネタになった液体に不安がよぎる。

「そういう物があるのは知っていたが、実物は初めて見る。そうか、これが砂糖になるのか……」

ヒロさんはすり鉢に入れたサトウキビをすりこぎで潰しつつ、布で越して鍋に注いでくれた。

「お前何も知らねぇで手伝ってたのかよ」

サチさんが呆れた顔でこちらを見る。

お前ちゃんと説明してやれよって顔に書いてあって、ちょっと居た堪れない。


――だって言いづらい……。


私がサトウキビを抱えて帰ってきた時、ヒロさんは岩棚の壁を見つめて座り込んでいた。

何があったかわからないけれど、とても落ち込んでいるみたいだった。

何があったのかと声をかけても、いつもの顔じゃなかった。初めて会った時みたいな顔だった。


それが無性に寂しくて、嫌で、腹いせ混じりに仕事を振ったんだ。


――私って、やっぱり幼い。



「いや、逆に良かった」

ヒロさんの声に我に返った。

ヒロさんは鍋にゆっくり搾り汁を注ぎながら続けた。

「無心になって作業すると……なんと言えばいいのか、整理されるんだな。知らなかった」

注ぎ終えてヒロさんが私に目を合わせた。いつものヒロさんの顔だ。

「今まで、色々思う事も無かったから……どうしたらいいかわからなかったんだ。助かったよ」

いつもの、ヒロさんが笑った。

ちょっと安心して力が抜けてしまう。

「あ!おい!!焦げちまうぞ!」

サチさんが慌てて私からしゃもじを取って混ぜ出した。

「味見は俺にもさせろよ。いい匂いだ」

サチさんが甘党なのかな……目線が優しいのは、妹さんも甘いものが好きだったのかもしれない。


「味見は俺も是非お願いしたいな。…………それと、二人に話を聞いて欲しいんだ」


ヒロさんのはにかんだ顔はとても幼く見えた。


「うん!聞くよ!」


思わず、同い年に言うように返事をしてしまったけれど、ヒロさんはとても嬉しそうだった。

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