わからないまま
「タタラくんの話、私にはよくわかりませんでした」
あの後、ムクタさんが寝てしまい、いよいよ重たくなって足早に家に寝かせて私たちは帰路についた。
――全く!ムクタ様、ちゃんと上掛けをかけて下さい。風邪ひきますよ!
甲斐甲斐しく世話をやくタタラくんはなんだかお母さんみたいで微笑ましかった。
「大塩のお祭りが特別なんだろうって事はわかるんですけど……ククリ君はよそ者の私達がその祭りの主役みたいになるのが嫌なんでしょうか?」
ヒロさんは少し眉を寄せて、難しい顔をしている。
「そうだな。気になるが――カナエ、なぜタタラと私とでは話し方が違うんだ?」
――あれ?
なんだか違う話が飛んできて一瞬言葉に迷ってしまう。
「え?違いますか?うーん、意識してないんですけど……タタラくんは同い年くらいかなと思って」
「そうか……」
――何が気になったんだろ?
ヒロさんはなぜだか目が泳いでいた。
見つめていると、そっぽを向かれてしまった。
よくわからないけれど、首を掻いたりしてそわそわしているヒロさんはちょっと可愛かった。
崖の近くまで来た頃、ヒロさんが不意に立ち止まった。
黙ってあたりを見まわし、何かを見つけたように一点を見つめた。
「ヒロさん?」
「しっ!」
ヒロさんが私を制して耳をすませているようだった。
視線の先におぼろげな灯りがかすかに揺れている。思わずヒロさんの服の裾を掴んだ。
やがて光はゆっくりとこちらに近づいて――
下から照らし出された、赤黒い顔。汚れて破れた服、手に持った……血のついた斧。
「きゃーーーー!!」
***
「大袈裟なんだよ……」
サチさんの顔を乱暴にグリグリ拭いてやった。
暗闇から出て来たのはサチさんだった。
お酒で赤らんだ顔が煤で汚れたままだったし、服は破れてるし、何よりこんな手斧持ってたら怖いでしょうが!
「いてぇ!!自分でやる!!」
サチさんにタオルを取られてブスくれてしまった。
「まぁ、なんだ、そりゃあ驚くと思うぞ」
焚き火を起こし、お湯を沸かしたヒロさんが白湯を配ってくれた。
「お前は役得だったな」
「ん?なんの事だ?」
ヒロさんは本気でわからない顔をしている。
……びっくりして、ヒロさんにしがみついてしまった。穴があったら入りたい。
「しかし、ククリはそこまでして何がしたかったんだろうな」
ヒロさんが手斧を眺めながら呟く。
それぞれククリくんの事、タタラくんの事を話した。
……やっぱりよくわからない。
大塩の祭りってそんなに特別な物なんだろうか……。
「さぁな。ここはいい所だが、なんだか解せねぇ」
「そうですか?みんなとてもいい人達ですよ?」
みんなとてもあったかい人達だ。
何より、子供達が屈託なく笑う様子を思い出すと彼らを警戒しようなどとは思えなかった。
「それは否定しない。皆明るく働く。こういう国は長く続くと聞いた」
ヒロさんは同意してくれる。
「そこがまた妙なんだよなぁ……」
言って、サチさんは大きく伸びをして寝転んだ。
「まぁ、危険な訳でもなさそうだしな……お前ら明日からどうすんだ?」
「俺は島作りだな」
「私は子供達と一緒にお母さん達を手伝います!」
「じゃ、俺は散歩してくるわ」
「サチさん!働きましょうよ!」
私は抗議するけれど、すでにサチは夢の中だ。
「寝るの早くないですか?」
「早いな。……まぁいいさ、寝かしてしまおう」
「サチにも気になる事があるんだろう……それに島を作る時はサチにも手伝ってもらうつもりだ」
ヒロさんは心なしか、楽しそうだった。




