潮溜り
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「呼び止めて悪かったね」
ムクタが湯呑みにお茶を注ぎ直しながら言う
何で作った物かわからないが、毒や麻痺を誘う物でない事はわかった。
「……慎重なんだな」
「なんの事だ?」
「別に……君がどんな生き方をしてきたかは知らない。でも君は私と似てる」
ムクタは視線を合わせてくる。
俺は合わせるようで、何にも対応出来るように視線を散らした。
「ほら、そう言うところだ。訓練されている。ククリの石を弾いたが……本当は受け止めて投げ返す事だって出来ただろう?」
図星だった。殿下を守るために鍛えられた。
それはつまり――。
「投げ返したら、相手を殺すと思って弾いたんだろう?」
この老人は何者だ?
「私はただ歳を重ねただけの老体だ。……警戒しないでほしい」
言いながら拙い土器を撫でた。
「君は私と似ている。……良ければ用事を頼みたいのだよ。構わないかな?」
ムクタの用事は何の意味も無いように思える物だった。
『干潮の時に現れる道の奥に島を作って欲しい。
出来上がる必要は無い。
時間のかかる物だろうから……。
ただ、やった事実と、贅沢を言えば痕跡が残って欲しいんだ。
私では……時間が足りないのだよ』
なぜそれが必要なのかはわからなかった。
ただ、ムクタの顔を見ていると拒否する事も出来なかった。
ムクタの家を出れば、少年が控えていた。
「お話が終わったら、案内をするように言われています。自分はタタラと言います。……さっきは弟が失礼をしました」
言って、彼はムクタのようにしっかりと頭を下げた。
筋肉はあるが、まだ細い……ちょうど子供と大人の間のような少年だ。
落ち着いた口調は大人びて聞こえるが、顔を上げれば垂れた目尻が年相応にみえた。
――カナエと同い年くらいだろうか……。
……もしかしたら、彼の弟を殺していたかもしれない。今はそれがとても恐ろしく思えた。
「弟か……。彼はなぜあんな事を?」
「ムクタ様に育てていただきました。血の繋がりはありませんが、弟と思っています。……マレビト様が訪れた時の大塩と祭りは特別なんです。…………それが嫌だったんでしょう」
タタラの言葉はどこか歯切れが悪い。
でも、彼はそれ以上何も言わなかった。
小さな集落で、見たところ外と交易をしている様子も無い……。排他的な土地なのだろうか。
だとしたら、急に現れた我々に敵意を向ける事もあるのだろうか……。
「ここです。今引き潮なので道も少し見えていますよ」
タタラの指す先で、透明な海面の下に白い道が見えた。沖に向かって青に飲まれている。
「干潮の間は道の先が少し広くなっているので、そこを島にして欲しいんだと思います」
「ムクタはなぜそんな事を頼むんだ?」
「さぁ……ただ、思い出なんだと言ってました」




