一つ屋根の下
「あれ?」
紙飛行機でひとしきり遊んだあと、子供達にまた明日と手を振って、ヒロさんサチさんとも合流して、さぁ帰ろうと思ったら……。
入り口が見当たらないのだ。
「ここだったと思うが……記憶違いか?」
私たちは崖の裂け目から出てきた。同じような裂け目はいくらかあるかもしれない。
「いや、ここで間違いねぇ」
サチさんが裂け目に触れて言う。
「どうなってやがる……」
帰れないの?
三人とも困惑して裂け目を見つめていた。
「おーい!」
緊張感の無いムクタさんの声が響いた。
「ここから来たのかい?……私の時と同じだね。すっかり言い忘れていたんだけど、多分君たち刻限まで帰れないよ」
「「「はぁ!?」」」
あまりにのんびりとしたムクタさんに、ちょっとイラッとした。
***
「いやぁ、ごめんごめん。刻限になれば道は開くさ。ちょっと違う場所になるかもしれないけど……ちゃんと解るようになる。心配しなくても大丈夫だよ」
ムクタさんはサチさんから『なんで大事な事から言わねぇんだ!ボケてんのか!?』と、雷を落とされていた。
とんでもなく怖かったので私もヒロさんもむしろ冷静になれたのだけれど……ムクタさんは飄々としている。
「ここを使ってくれ。マレビトが来た時用に整えてあるんだ」
ムクタさんが案内してくれたのは麓からスロープのように削られた坂をあがり、岩棚をくり抜いて作られたスペースだった。
大切に手入れされているのか、広い空間が掃き清められている。壁には織物が飾られ、枯れ草に布を重ねて寝床が作られている。
貝殻で作られたランプにムクタさんが灯りを灯した。
「カナエさんだったね。じきに暗くなるし……今日は急だったから間に合わなかったが、明日には布を張って部屋を作ってもらうよ。抵抗があるようなら私の家を使ってくれてもいいよ?」
「あ、お構いなく……」
反射で日本人的な遠慮が出た。
「いや、このボケジジイ絶対忘れてただろ?半日あったんだぞ」
「ははは」
「笑ってんじゃねぇぞボケジジイ」
サチさんがムクタさんをこづく。
気を遣ってくれてるのは解るけれど……。
「サチさん、本当に大丈夫です。見て下さい…」
岩棚の縁に立つと、足元の向こうに集落が一望できた。
ミニチュアの家々から、夕飯の支度が始まったのかかまどの煙が立ち始めて、生活の温もりを感じる。
何より――温もりを包み込むような夕陽がさして、崖で切り取られた一枚絵のように美しかった。
ヒロさんが静かだと思ったら、目をキラキラさせて、夕陽に見惚れていた。
「きっと夜空も、朝日も綺麗です!一緒に見ましょう」
「本当にこの嬢ちゃんは警戒心がねぇな」
サチさんがやれやれと頭をかくが表情は柔らかい。
「すまないね、もう少ししたら夕飯を届けさせるよ」
ムクタさんはマイペースを崩さない。
緩んだ笑みはあったかくて、なんだかほっとした。
しばらくして、我に帰ったヒロさんに一緒に寝ますと言えば
「同衾だと!!!???」
と叫んだ。
サチさんは頭を抱えたけれど、私は大笑いしてしまった。




