発展途上
いつもの屋上、空は相変わらず星を流し、サチは雑巾と遊んでいる。
カナエはぼんやりと虚空を眺めながら、物思いに耽っていた。
「考えごとか?」
ヒロさんが茶器さん達を連れてやってきた。お茶の時間だ。
「そんな大層なことでも無いんですけど…」
書いていたノートを避けて、紅茶を受け取る。柔らかい熱が指先から伝わった。
「自分が、子供だなって自覚したので……どうすればいいんだろうって……」
サチさんが聞くとも無しに聞いているのが解る。だって、雑巾がサチさんの気持ちを汲んで静かにしているのだ。
サチさんにも当たり散らしてしまったな……。
サチさんの手の温かさが、羞恥心と紐づいて戸惑う。
「……焦る必要はないんじゃないか?」
ヒロさんが柔らかく笑んだ。
「俺はこんなにデカいのに発展途上だ。……焦っても、答えは出ないんだろう」
ヒロさんの凪いだ笑みを見て、いつか自分もこんな風に笑えたら……と思った。
***
次の異世界に着いた。
アヤさんは木戸の前で静かに向こう側を眺めていた。
「……この世界には何度も、招かれた者を送り出して来た」
アヤさんの声はいつもと変わらないのに、空気が震えた気がした。
「そんな事あるのか?……それも、お前の言う必要と必然か?」
サチさんが問うと、アヤさんはゆっくりうなづいた。
しばらく二人の視線が交わって、アヤさんが視線を落とした。
「お前達の旅が……良いものであるように……」
アヤさんの祈るような声に、サチさんは何も言わなかった。
***
訪れた異世界は抜けるような青空の、入江の集落だった。
三方を高い赤茶けた崖に囲まれ、布と僅かな木で出来た簡素な家が肩を寄せ合うように建っている。
集落の向こうに深い青からピーコックグリーンへとグラデーションをつくる海が僅かに見えた。
どこか懐かしい海に目を凝らしていると、大きな音でビクッと我に返った。
村人だろうか。幽霊でも見つけた様な顔でこちらを見ている。
足元に土器のかけらが散らばっている。これを落とした音だったんだ。
「……マレビト様だ。みんな!マレビト様がやって来たぞ!!」
大声を上げて集落の方へ転がるように駆けていった。
「穏やかじゃねぇな」
「カナエ、下がっていろ」
ただならない雰囲気にサチさんとヒロさんの緊張が伝わる。
この世界はいったいなんなんだ――。




