後悔の無いように
アヤは誰もいない店で一人、うつろう木戸の向こうを眺めていた。
朝の光も、夜の闇も無く、ただ虚ろが広がっている。
「……もう、終わりは近い……」
誰にも聞かれない呟きを落として、アヤは目を閉じた。
***
「言っておきたい事がある……」
次の異世界を前に、アヤさんの表情は少し固かった。
「なんだ、危険か?」
サチさんの声が鋭い。
緊張で無意識に指先を握り込んでしまう。
ヒロさんを見れば、緩くうなづいてくれる。
大丈夫、そう言い聞かせるように指先を解いて、アヤさんを見た。
「刻限を過ぎれば、その世界に残される。……もし、そこに留まりたければ、残ってもかまわない」
「お前達が選べ」
アヤさんがなぜ今そんな事を言うのかわからなかった。
『……戻れなかったら、どうなるの?』
『間はその世界から消えて次の世界へ動く。取り残されたなら、そのままだな』
アヤさんはそう言っていた。今初めて聞いた話でもない。
これからも、私たちの旅は続くはず。
なのに――。
サチさんも、ヒロさんも、何も言わなかった。
***
その異世界は砂漠だった。
黄色い空に、風に舞った砂がグラデーションを作り、境界は曖昧だ。
粒子の細かい砂は、踏み締めると沈み込むようで思うように歩けない。
不意に、ヒロさんが何かを見つけて駆け出した。
今にも砂に飲まれそうな城門の跡だった。
ヒロさんは、腰ほどまで砂に埋もれた門扉を見下ろしていた。
「……お前の国の物か?」
「いや、瓦の紋が違う……だがよく似ている」
ヒロさんが瓦を撫でた。
指先で触れたあたりが音もなく砂に還った。
「…………しばらく、一人にしてくれないか?」
ヒロさんの顔は見えなかった。
背中が寂しそうで、何か声をかけたかったけれど……何を言えばいいのか分からなかった。
「ヒロ」
「…なんだ?」
ヒロさんは、振り返らなかった。
「お前の、やりたいようにしろ」
「…………後悔の、無いようにな」
サチさんの声色は、初めて聞く柔らかさだった。
ヒロさんはゆっくり振り返って、困ったように笑った。
「あぁ……。サチ、カナエも。ありがとう。先に戻っててくれ」
私は騒ぐ胸をなんとか落ち着けて頷きを一つ返す。
後ろ髪を引かれながら、サチさんに促され店に戻った。




