それぞれ
りんごを食べていると、乱暴に階段を駆け上がるような音の後、爆ぜるような勢いでドアを開けてヒロさんがやってきた。
「カナエ!大丈夫なのか!?出血があるんだろう?それも毎月だなんて……!死んでしまうんじゃないのか?」
私とサチさんが固まった。
「……アヤ」
サチさんが低く呼んだ。
肩で息をしているヒロさんの後ろからアヤさんがゆっくりとやってきた。
「説明の途中で、走り出してしまった」
サチさんが長く深いため息を吐いて項垂れた。
「ヒロ、お前ちょっと来い」
サチさんが立ち上がり、ヒロさんの首根っこを掴んで引きずっていった。
「な!でもカナエが!!」
「いいから。お前、補講な」
ヒロさんの抗議に静かに答えるサチさんの声と共に二人は去って行った。
だいぶ体も落ち着いたからと、夕飯は食堂に降りてきた。
ヒロさんが部屋の隅で落ち込んでいるのに焦ったが、サチさんが「触れるな」とでも言うように、黙って首を振ったので触れない事にした。
「ところで、アヤ。アレはなんだ」
「スープだ」
アヤさんのスープはコンロが悲鳴をあげそうなくらい大きな寸胴鍋になみなみと入っていた。
「バカほど作るじゃねぇか」
「……探り探り作ると、増える」
アヤさん、わかります。
「ふふ……心配してくれたんですね。嬉しいです」
サチさんが困った顔で笑い、アヤさんも緩んだ顔をしている。
「ヒロさんも!食べましょ!」
部屋の隅で悶々としているヒロさんにも声をかけた。真っ赤な顔をしているのが少しくすぐったい。
「いただきます!」
スープは少し、懐かしい味がした。
「……あぁ、これは染みる味だな」
その後、とにかくもう少し休めと言われ、港町に来たのはもう最終日。
「縁探しできませんでしたね」
今日はヒロさんと二人だ。サチさんには体を大事にしろといわれ、寝てるように言われたがヒロさんにわがままを言って一緒に来てもらった。
「あ!あぁ、うん。……すまない」
心ここにあらずで焦るヒロさんは前よりずっと話しやすい。
サチさんの補講?が効いたらしく、とても心配してくれるのだが、距離を測りかねているようだ。
「ヒロさん。心配してくれて嬉しかったですよ。その……色々聞いて戸惑ってくれるのも、ヒロさんの優しい気持ちだと思うので、私は嬉しいです。だから、あんまり気にしないで下さい」
ニカッと笑えば、ヒロさんも安心したのか肩の力を抜いてくれた気がした。
「それにしてもサチさんどこ行ったんですかね?」
そうなのだ、サチさんは私が休んでいる間に何度も一人で港町に行っていたらしい。
「サチも気にするなと言っていたが……あ、あれはサチじゃないか?」
ヒロさんが人混みの向こう、路地裏に入って行くサチさんを見つけた――。




