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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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17/121

夕焼けの邂逅

「……本当に、異世界に行くんだな……」

ヒロさんの第一声だった。



次の異世界に着いたのはお昼もかなり回った後だった。この時間からは初めてだ。

「今度は危険はないんだろうな?」

サチさんの視線は鋭かった。

昨日の和やかさは無くなって、針の穴も見抜くような目でアヤさんを見ている。

「危険はない。刻限は1週間後の19時」

アヤさんは淡々と伝える

「サチさん!アヤさんも危険は無いって言ってますし。怖い事はないですよ」

「ビビってるわけじゃねぇ!」

「サチは怖いのか?」

「だからビビってる訳じゃねぇ!!」

サチさんは言い切ると大きくため息を吐いた

「はー……もういい。行くか」

「はい!」

そうして、私たちは木戸をくぐった。




ヒロさんの第一声を聞きながら、辺りを眺める。

抜けるような青空の下、細い通路の両側に露店がぎっしりと並んでいる。

赤や緑、青に黄色……原色の布屋根が連なり、その下には南国を思わせる色鮮やかな魚や果物、加工された食品が山と並んでいる。

売り手たちは慣れた手つきで包丁を動かし、客と威勢のいい声を交わしている。

人々は肩を寄せ合いながら通路を行き交い、買い物袋を手に立ち止まり、値段を確かめ、また流れに戻っていく。

活気のある、とても生き生きした街だ。

振り返ると、店はちょっとくたびれた土産物屋になっていた。きっと観光客も訪れるような場所なんだろう。

「……スリでも出そうだな。お前らは気をつけろよ」

サチさんは警戒を解かない。

無理も無いとは思う。あの世界は……今でも思い出して夜飛び起きてしまう。知っているのは茶器さん達だけだけど……。

「おにーさん!寂しい事お言いでないよ!」

サチさんの呟きを聞いていた近くの店員さんが声をかけてきた。

日焼けした肌で恰幅のいいおばさんだ。

「ここは港町さ!旅人が行き交うんだ。うちの街が悪く言われたらたまらないね!だから悪さする奴なんていないんだよ!」

サチさんをバシバシ叩いてニコニコ笑いながらおばさんは言う。

「あんた達夕飯は決まってる?まだならここまっすぐいけば屋台村に出るから。この辺のうまいもんは全部あるよ!食べていきな」

「だっ!いってぇな!馬鹿力だな!」

「はは!保護者が詰めた顔してたら若いのが楽しめないじゃないか!あんたは酒でも飲んどきな!」

豪快なおばさんがサチさんにビール瓶を持たせ、自分も一本空けて……。

「旅人に餞別だよ!」

カチンと瓶を合わせて乾杯して商売に戻って行った。

「豪快すぎるだろ……」

「ほんとに……でもなんか好きです!」



おばさんが教えてくれた屋台村は雑多だけど人の暖かみがあってとても楽しい。私達がそれぞれバックパカーみたいな身なりだからか、親切で試食を進めてくれるしサチさんに至ってはビールが何本目かわからない……。

「俺ってそんなくたびれて見えるのか?」

なんて、ちょっと落ち込んでたりした。

「サチはくたびれては見えない。やさぐれてるとは思う」

ヒロさんがそう言い出したのは屋台でご飯をいっぱい買い込んで、海の見える場所でさぁ食べようと言う頃だった。

ヒロさんは何を食べるか決められないようだったので、私がたくさん食べたいからわけっこしません?と誘ってうなづいてもらった。

「やさぐれって……ヒロ、お前直球すぎるって言われねぇ?」

ちょっと赤い顔のサチさんが言う。

「すまない、あまり役割以外で話したことが無くて……不快だったか?」

「不快はそこまででもねぇが……役割?」

「俺は、あの国の権力者……と言えばいいのか……そう言う人の影だったんだ」

ヒロさんがなんでもないことの様に言う

「それって、私達に話してもいいんですか?」

「問題ない。本当に異世界とやらにいる様だし、君たちもそうなら話したところで危険も無い」

ヒロさんの顔は全然動かなかった。

「その人に危険が及ばぬ様に、代わりに人目のある場所に立つ。趣味趣向も合わせるよう子供の頃から言われていたから……自分で選ぶ事は不慣れだな」

ああ……だから……。

「……酷い事するな……」

サチさんが何か呟いたけど聞き取れない。

「サチさん?」

「ヒロ!」

「なんだ、サチ?」

サチさんが飲みかけのビールをサチさんに押し付けずんずん屋台村に戻って、ビールを抱えて戻って来た。

「肴は、山ほどある!今日は飲め!」

サチさんがヒロさんの飲みかけのビールをひったくると新しいビールをヒロさんに手渡して、カチン。

「選べねぇのは知らねぇからだ!飲んで食うぞ!」

サチさんは買ってきたご飯を広げる

「カナエも食べとけ!お前はちゃんと食っていい女になれ!」

「ぶっ!なんですかそれ」

サチさんの照れ隠しはいつも不器用で、ちょっとかわいい。

「ヒロさん、食べましょ。サチさん拗ねちゃいますから」

「拗ねねぇし!」

ヒロさんは何がどうしてこうなったかわからない顔をしていた。

――その時夕陽が水平線に沈み出した。海面が光を反射する。波に踊って、不規則に飛ぶ光が三人を照らす。

柔らかい海風が頬をなでるのは太陽の熱に撫でられるような暖かさだ。

「凄い、綺麗ですね。…ヒロさん?」


ヒロさんは子供みたいな目で夕陽を眺めていた。

赤らんだ頬に緩む口元を噛み締めたようないびつな……けれどとても可愛らしい表情。

「ヒロさん、綺麗ですね」

「おー!見事なもんだなぁ!」

サチは夕陽よりも赤い顔だ。飲み過ぎだ。

「もう!サチさん!お水飲んで下さい!景色が台無しですよ!」

「いーじゃねーか!おい!ヒロ!お前飲めるだろ!乾杯だ!これを肴に飲まねぇなんてもったいねえ!」

「ああ……初めて見た。きっと見れなかった……。世界はこんなに美しいんだな」

なんだかこちらまで胸がいっぱいになるような声色だった。

「難しい話はいーじゃねーか!こういうのは酒でさらにうまくなるもんだ!経験しろ!ヒロ!」

「んんもーー!サチさん!台無し!」

「ははっーそうだな、経験したいよ。サチ、乾杯だ」


ヒロさんがはじめて自分の顔で笑ってる気がした。

ふと、もっとこんな顔を見たいと思った――。



叶わないかもしれないなんて、思いもしなかった。

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