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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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18/121

次の朝、ヒロさんは起きて来なかった。

「サチさんが飲ませ過ぎたんじゃないですか?」

「そんな飲んでねぇだろ。食いもんが合わなかったんじゃねぇか?」

ヒロさんの部屋をノックする。

「ヒロさん、朝ごはんできてますよー」

返事はない。

「おい、起きてるか?入るぞ」

「あ!ちょっとサチさん!」



「……え?」

ヒロさんにあてがわれた部屋はカナエの部屋と同じ作りなのに、どこか暗かった。

ヒロさんはベッドに横になり、静かに目を閉じている。

彼の輪郭から光の粒子がタバコの煙みたいに細く登って、消えていく。

アヤさんは彼のそばに立ってガラスのような瞳で見下ろしている。

耳鳴りがするほど静まり返った部屋で、ヒロさんは光に炙られて消えていきそうに見えた。


「なんだこれ……一体どうなってる!?」

サチさんが前に出る。

私は喉を締め付けられたように言葉が出ない。


「この男は元の世界に帰る……」

アヤさんが静かな声で言った。

「元いた場所に元いた時のまま……返す事になる」

途端に甦る……あの硝煙――。

「それは……」

銃撃の軌跡の先にー彼は居た。

「私が……この人を見つけた……あそこに?」

絞り出した声は震えていた。

アヤさんは彼を見つめたままうなづく。

「そんな事したら死んじゃう!!」

言って、体が揺れる。

「カナエ!落ち着け。おい!どういう事だ?そいつも招かれたってんじゃねぇのかよ?」

サチが私を支えながらアヤを睨みつけた。


「……縁が弱い」

アヤが彼の頬に指を添わすと、崩れるように光に散った。

足りない小鉢……。

声を掛けられるまで気付けない程の気配……。

「この男は支払った。だが、縁はこの男の望む物では無かった……」


「理に合わない……とどまる事は、できない」


「勝手な事ばかり抜かしてんじゃねぇぞ!」

サチさんの怒号が響いた。

「そっちの理屈で招いただのなんだの……俺は……俺たちはお前のおもちゃじゃねぇんだぞ!」

サチさんの声は内側から全て吐き出すみたいだ

「私が決めた事ではない」

アヤさんの表情はぴくりとも動かない。

綺麗な、人形みたいだ。

「……まって、待って下さい」

二人の視線が向く。


「助ける方法は……何かないんですか?生き延びたんです。せっかく生きてるんです」

血の匂いが鼻に、悲鳴が耳にこびりついている。

「……対価が必要だ」


あの場所にこの人を戻す――そんな事をしたら……。



――いい旅におし――



いつかの夕陽が静かに頬を撫でた気がした。


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