ヒロという男
サチさんに連れられて食堂に来てみれば、アヤさんとあの人――ヒロさんというそうだ――がお茶をしていた。
何と言うか、これはとても――。
「異世界に迷い込んでます?」
「もう引きずり込まれてんだが……言いたい事は解る」
二人は午後の日差しが差し込む食堂でお茶をしている。それだけなのだが……。
茶器は居住まいを正し、背筋を伸ばしている様だし。雑巾はヒロさんの膝の上で撫でられ感激した様子でプルプル震えている。
アヤさんは現実味の薄い美しい人なのはいつもの事。
そしてヒロさん――。
背筋をのばしてティーカップの取手を指先でつまみ、唇にそっとあて口に含む。
一拍してカップをソーサーに戻すが小さな音一つ立たない……なんと言うか、洗練されているのだ。
マフィアのドンか、どこかの王様みたいな風格まである。
つい――とヒロさんの視線がこちらに向いた。
「君は……」
「カ、カナエといいます」
噛んじゃった。恥ずかしい!
「俺はサチだ。このお嬢ちゃんがお前の命の恩人だ。礼はしとくんだな」
サチさんは平常運転だ。
私の頭をポンポン叩きながら話すので、子供扱いされたみたいでますます恥ずかしい。
「君が……そうか。礼を言う、ありがとう」
ヒロさんがこちらに向き直り頭を下げる。
「あ!いえ!大した事では!それに、引っ張ってくれたのはサチさんですし……」
「落ち着けまったく。こういう礼は素直にとっとけ」
きっちりと下げられた頭に焦って顔の前で両手を振っていると、サチさんに頭をはたかれた。
ますます――ますます恥ずかしい。
顔に熱が集まってくる。
「……正直なんだな。感謝している」
……大人しかいない。
なんだか居た堪れなくなって、頬をかいて目を泳がせた。




