硝煙
「……っ……」
突然の閃光と爆風に吹き飛ばされ、意識を失っていたらしい。高い音の耳鳴りがしてまともに音が聞こえない。
カナエは瓦礫を押し除けてなんとか立ち上がり、言葉を失った。
さっきまであった街がまるで別世界だ。
爆心地から外へ向かって全ての建物が薙ぎ払われ、火の手が上がっているところもある。
爆風で舞い上がる砂埃はあの吹雪のようだ。
「――!――!……カナ!」
グッと肩を掴まれて振り返ればサチさんだ。
よかった……サチさんも無事だ……。
呆けたようにサチさんを見ていると、顔の半分にあったかいタオルを垂らされたような違和感。
触って確かめれば手が真っ赤だ。
「――カ……エ!……カナエ!」
額のあたりに拍動と熱を感じて膝をつくと地面にパタタッ――と血が散った。
遅れて痛みがやってくる。
しかし、痛みのおかげで意識が戻ってくる。
サチは巻かれていた包帯を解いてカナエの額に強く押し当てる。
「カナエ!しっかりしろ!聞こえるか!?」
「大丈……夫。大丈夫です。聞こえてます」
サチは包帯をしっかり縛り付け、手のひらでカナエの顔を拭う。目線を合わせ、短く息を吐いた。
「肝が冷えた……。立てるか?戻ろう」
なんとか立ち上がりかけた。
その瞬間――。
ズダダダッ
すぐそばで音と共に地面が抉れていく。
思わず二人で倒れ込んで上を見れば、戦闘機だろうか、真っ黒の飛行機が風を巻き上げながら飛び去っていく。
「不味いぞ、身動きが取れねぇ……こう砂埃がひどいと右も左もわからん」
サチさんの舌打ちが聞こえる。
そしてまた短い音の爆弾……砂煙の向こうで赤が散ったのが一瞬見えた
ついで黒い飛行機がやって来て、風を巻き上げ砂埃が切れた隙間から人が――。
「!……見るな!」
サチがカナエの目を塞ごうと手をだしたが、カナエはそれを振り払った。
「お前!」
「……見えた」
「……あ?」
「サチさん!……多分、こっちです。」
カナエが指差す。
「な……どういう……」
「サチさんが雪山で言ってたやつです。帰る場所……逃げ道はわかるようにしとけって」
「店から、ここまでの壁の色、覚えてました」
サチの目が開いて、呵呵大笑する。
そしてゾクッとするほど鋭い顔で言った――。
「……お前にのる。走るぞ」
血の跡では無い朱がカナエの頬をさす。
カナエは意を決してうなづいた。
赤を踏み越え、カナエとサチは走った。
店まで、わずかに残った外壁の色を頼りに戻る。銃撃に警戒し、時に瓦礫の影に身を隠し……。
やべぇな……。
サチはカナエを見る。肩で息をして、真っ白な顔は砂埃の汚れのせいだけでは、きっと無い。
血を流し過ぎている。
あと少し……担いで行った方がいいか――。
また銃撃、一瞬晴れる視界に店が見えた。
カナエは店を見た。
――その前に立つ人も。
ただ立って、空を見ていた。
古木が枯れても、根が深くて倒れられないような――。
また砂埃がやって来て、彼の姿はすぐに見えなくなった。
「……店はすぐそばだ、突っ切るぞ!」
サチはカナエを担ぎ上げた
「っ!サチさん!私まだ――」
「黙ってろ!舌噛むぞ」
言ってサチさんが走り出した。
すぐに後ろから銃撃の音。
「だぁ!くそ!!」
サチさんがスピードを上げる
あの人にあたる!!
彼の横を通り過ぎる一瞬に、腕を引っ掴んだ。
「は!?お前!うわ!」
「サチさん!!このまま走って!お願い!」
「くっそ!ちくしょうが!!」
サチが渾身の力で最後の数歩を蹴り飛ばし、3人転がり込むように店に入った。




