番外編:帰らずの帰宅
「世界の幹なんて……私は望んでなかった……」
つぶやいた声を連れていくような風が吹いて、あの人達はいなくなった。
私が帰る道も、無くなってしまった。
彼らに会えたのさえ奇跡だろう。
なのに、無くなってしまった。
もう、2度ときっと……。
「ユメ!!」
お母さんの声、思わずぶたれてしまうんじゃ無いかと思って身構えた。
母は厳しい人だった。
志望校に落ちた時の、目が忘れられない。
期待はずれだったと……温度のない目が伝えていた。
何日も家出した私を、もう許しはしない。
固くなった肩を、母が包んだ。
「ごめんね!授かるなんて思わなくて……寂しくさせたね」
――こんな事、お母さんが言うはずない。
「ユメ、心配したんだ……本当に良かった」
お父さんが反対側から抱きしめてくる。
――お父さんだって、こんな事言うはずない。
実家と言う逃げ場所があったお母さんに代わって、仕方なく家にいたのが父だった。
厄介者……言葉少なに話す父の思いはいつだって透けて見えた。
――なのに、なんで……。
2人から、嗅ぎ慣れた甘い柔軟剤の匂いがする。
私が小さい頃は貧乏だった。
電車の音が響くような小さなアパートで……それでも、仲良く暮らしてた。
お父さんの事業が上手くいって、全部無くなった。
あの頃嗅いでいた、懐かしい匂いがした。
途端に、何もかも、それでいいと思えた。
帰りたかった。
でも――。
「お父さん!お母さん……!」
叫んで、2人にしがみついて泣いた。
帰りたかった……。
でも、ここでなら――。
「帰ろう、ユメ……君が笑っていたら、それでいいから」
「寂しくさせてごめんね。好物、たくさん作るからね」
ただの、私でいてもいいのかもしれない。




