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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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得たもの

アヤさんがスッと手をだして、呼ぶように振った。

私とサチさんの胸から光の粒子がふわりと広がって、やがて形を持ってテーブルの上に現れた。


サチさんの煙水晶。

私の映画の半券と双子帽子のどんぐり。


「最後の確認をしよう」

アヤさんは私とサチさんを交互に、確かめるように見て話し出す。


「お前たちは縁を集めた……サチは1つ、カナエは2つ。それを使って、元いた世界には無理でも、似た世界に行く事は出来るだろう。ここでの記憶も、持っていける」

アヤさんは私に視線を絞った。


「……どうする?」


どんぐりと言うには赤い木の実と、文字の読めないチケット。

片手でも収まるそれを、大切に両手に乗せた。


お母さんの宝物になりたいと思ったあの日を思い出した。

だから、がむしゃらだった。自分の分の自分が無いくらい……それに気づきもしないくらい。


たまには一緒に映画でもどう?って誘ってくれたお母さんを思い出した。

断った事が、今も胸に痛い。お母さんが、どんな顔をしていたかも思い出せない……きっと見てなかった。


この旅で、気づいた。


ただ、自分でいればよかったんだ。


優しく抱きしめるように、どんぐりとチケットを手の中に収めた。


「私は、ヒロさんの新しい世界に行きます」


こんなに穏やかに、言葉が出るなんて思わなかった。



「っはぁ〜……」

サチさんが、張り詰めたものを吐き出すように長く息を吐いた。

びっくりしてそちらに顔を向ければ、隣でアヤさんがニヤニヤしている。

「サチ、カナエが似た世界に行きたいと言ったら、どんな対価を払ってでも叶えるつもりだったんだろ?」

「えっ……」

サチさんはだまって顔を覆っている。

……耳が赤い。

「サチ、それは俺の役だぞ。カナエから一度対価をもらっている」

ヒロさんが前のめりになって言う。

ちょっと拗ねたような言い方だ。

「そしたらお前死ぬだろうが」

サチさんが顔を出して、呆れたように言う。

「む……弾幕ぐらい避けてみせる」

「お前やりかねねぇから怖ぇよ……」

アヤさんがふふっと笑って、場がほぐれる。


「サチさん……ヒロさん……」


――言葉にならない。




「サチさんは、どうするんですか?」

泣きそうになるけど、声を張ってサチさんに聞いた。


「ああ、そうだな……」


サチさんは片手で煙水晶を持って、親指でしばらく撫でた。


「ん」


そして、アヤさんの手にぽんと煙水晶を乗せた。

アヤさんは戸惑った顔でサチさんを見るが……サチさんは明後日の方を向いた。


「俺がどうするかはもう言っただろ」


長い沈黙……。

え?それだけ?と、私もヒロさんもサチさんの言葉を待つ。

茶器たちさえ、ジリジリしている。

しばらくそうしていると、痺れを切らした雑巾がサチさんの顔をバフ!っと叩いた。

「「ぶっ!!」」

あまりの事に吹き出しそうになる私とヒロさんはお互いの口に手を当てて耐えた。

「だぁ!何しやがんだ!」

サチさんは悪態をつくが、観念したようにそろりとアヤさんに向き直った。



「婚約指輪にゃ味気ねぇが……」




「もらってくれ」



「きゃーーー!!」

思わず雑巾を抱きしめて歓声を上げた。

ヒロさんはなんだか感動して涙ぐんでいる。

茶器たちも高い音を立てて興奮しているみたいだ。


「サチ……」


アヤさんの静かな声にみんな息を止めた。

細い指が、煙水晶を包んでいる。


「……嬉しい」


「……!!」

ヒロさんがついに泣いた。

私も、雑巾を握りしめてしまった。

痛いよ!と、暴れられて我にかえったけど。

茶器たちはサチさんとアヤさんに紅茶を注ぎ、これでもかと砂糖とミルクを入れている。

砂糖が溶け切らなくて山になっていておかしかった。


「保留、だがな」

「……上等だよ」


ニヤリと笑い合う2人を見ていて、心配する必要なんてないんだって思えた。

……2人の幸せを信じられる。


「さぁ、確認は済んだな」


アヤさんは私たちを見渡した。

そして、少し緊張したように続けた。



「明日、最後の世界につくよ」

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