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いつもお読みいただき、かつ誤字報告をしていただき、ありがとうございます。
頑張って書いていきますので、最後までお楽しみください。
気を失っていたのはそう長くはなく、意識が戻ったのは居間の長椅子の上だった。
すぐにクレーシア様から水をもらい、眩みもないようだと伝えると安堵したようにほっと息をついていた。まだ青白いお顔を見ると、相当な心配をおかけしてしまったようだ。
「ごめんなさい。クレーシア様、私はどれくらい……?」
「それほど長くはなかったわ。ジークヴァルド様に運んでいただいてから、それほど経っていないわね」
クレーシア様に支えられていた体を起こし、ジークヴァルド様を捜してゆっくりと周囲を見回すが彼の姿はない。
出会って早々に倒れるなんて、ジークヴァルド様にしてみたら訳が解らず迷惑以外の何ものでもなかっただろう。そう思うと憂鬱になる。
私が気落ちしているのに気づいたのか、クレーシア様は横に座るとうつむいていた私をそっと覗き込んできた。
「……実はね、貴女について大半のことを大公様からお聞きしているの。以前はどこのご息女だったとか、これからのことなどをね。だから、乗馬をと乞われてジークヴァルド様が適任かと思ってお呼びしたのだけれど……」
「そのジークヴァルド様は、どちらへ?」
部屋にいないなら別室でお待ちなのかと思ってみたが、クレーシア様は侍女を呼ぶでもなく私のそばから離れない。早くお詫びをしなくてはと思っていたのに、ジークヴァルド様が出ていかれたとなるとこの後はどうしたら……。
「大公様のもとに行かれたわ。貴女も交えて話し合いを望んでいたようだけれど、こうなっては無理もできないだろうからと、大公様をお連れするそうよ」
「ああ……」
私が目を回した程度で大公殿下まで呼び出すなんて、ご子息に無様な姿を見せただけでも気がとがめるのに……。
私は呻くような声をもらして、手のひらに顔を埋めた。すると、クレーシア様は私の肩に腕を回して優しく抱きしめてくれた。
「エリュミナ様、悲観的に思ってはだめよ。貴女はなにも悪くはないの。悪いのは――まわりの大人たちなのよ」
「……いいえ。私がきちんと確かめないのが、いけなかったのです」
「何をかしら?」
「すべて……お芝居だと思っていたのです」
「まあ! なんですって!?」
私の告白を聞いたクレーシア様が、上品に唇に手を添えて声を上げた時だった。ジークヴァルド様と大公殿下がノックもなしに勢いよくドアを開け放って現れ、それに驚いた私たちは悲鳴を上げて慄いた。
荒い息をして立ち尽くし、険しい顔で私を見下ろすふたりの男性に、クレーシア様の厳しい叱責が飛んだのは仕方のないことだった。
◇◆◇
「では、詳しく話してもらおうかな。エリュミナ嬢がどんなふうに誤解していたのかを」
大公殿下が怖い顔で、じっとりとした視線を私に向けた。
怒っているのではないとわかっていても、正面から詰め寄られるのは怖い。私が震えたのを見て、ジークヴァルド様が脇から大公殿下の膝を叩いた。
「エリー。怯えないでくれ。父は、顔は怖いが物分かりの良い人だ」
「そうよ。大公様はお心がひろーい寛大な御方だから、多少の無礼なんて気にせず話しなさい」
私の隣にはクレーシア様が護るように抱きして座り、身を乗り出して迫る大公殿下からすこしでも遠ざけようとする。ふたりの茶化すような慰めは私を落ち着かせてくれ、ゆっくりとだけれど重い口を開いた。
「私は、大公殿下がロイグラムの策略を壊し、糾弾するために私を必要とされているのだと思っておりました。ロイグラムには私自身も恨みがありますし、できれば母の仇をとの思いもありましたし……」
「ならば、大公家に嫁ぐという話をそなたはどう解釈していた? こちらが縁組の話を出したのは、ロイグラムの企みを知る前だぞ?」
「それは、事がすんだ後にでもジュノー家の養女になり、頃合いを見て後添いに入るのだと……」
「それは……私が悪かった。そなたがそんな誤解をしておると思いもしなかったものでな。そなたの準備が整うまで、実は愚息が相手だということは隠しておいて、あとで驚かそうなどと思っておったのだ。すまん!」
大公殿下は険しかった表情を消すと、焦ったように膝に両手を置て私に頭を下げた。
慌てた私は腰を浮かせて、大公殿下が頭を下げるのを止めようとしたが、それより先にジークヴァルド様が割って入った。
「だから言ったでしょう? 父上の悪戯は度が過ぎると。エリーは世慣れしてないのですから、今後そういった扱いはしないでいただきたい!」
「ああ、わかった。本当にすまなかった」
「大公殿下! 頭をお上げください! 私の考えが足りなかっただけで、きちんと話を聞いていたらすぐに誤解が解けたのです。ただ、まさかご子息のジークヴァルド様との縁談だとは思ってもみなくて」
「……嫌か?」
まだ頭を下げたままの大公殿下は、ぎょろりと上目遣いで私に問う。
「いいえ! それどころか私などには勿体ないお話しですわ!」
「父上! いい加減になさってください! この状況で問われてもエリーが断れるはずがないでしょう!?」
目を尖らせたジークヴァルド様が大公殿下を睨み据えて、おろおろするばかりの私を庇う。
「そんなことはっ!」
「エリーも遠慮することはないんだ。自分の人生なんだから、妙なことは考えないで自分のためになる結論を――」
「遠慮ではありません。私はただ分不相応な――」
気づけば興奮して熱が入り、なぜかジークヴァルド様と言い合いになっていた。
「ふたりとも、すこし気を静めなさい!!」
今度は私とジークヴァルド様に、クレーシア様の大目玉が落とされたのは言うまでもない。




