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認識する者される者 2

 おのれ、この男どうしてくれよう。

 と、息巻いている所に声を掛けて来たのは、同じクラスの影縫さんだった。


「こんな所で何をしてるの、浅香さん?」


「いえ、今先輩と……」


(いない!)


 先程まで目の前で話していた足利先輩は忽然と姿を消していた。

 何という神出鬼没な人だ。

 そう言えば、よく分からないクラブを作って、あちこちで問題行動を起こしては、先生に追いかけられている姿を見たことはあるが、先輩が捕まっている所は見た事がない気がする。

 一度こっぴどく叱られればいいのだ。

 なんなら、私が捕まえるのに協力してもいい。


(ふっふっふ……)


「浅香さん? そろそろ、授業が始まっちゃうわよ」


 邪悪な笑いに気づかれては、……いないわよね。

 よしよし、気を付けなくちゃ、先輩だけじゃなく私まで変人だと噂されてしまう。


「あっ、そうだった。数学の徳川先生は、いつも出席番号順で当てるから、毎回、私からなんだよね……」


 数学教師と言うものは発想の転換が出来ないのか。

 前回の番号の続きとか、素数順とか、等差数列にするとか、等比数列でも……ダメか、初めはやっぱり1になってしまう。

 そもそも、数列は1から数えるから、どんな順番でも初めだけは変わらないのだ。

 出席番号1番の苗字が恨めしい。


「あー、なんで出席番号1番なのよ。影縫さんも、私の次に当たるわよね」


「うん」


 気のない返事をした影縫さんの髪に、赤いリボンが揺れていた。

 そうだ。

 何も出席番号順じゃなくても、リボンをつけている順番とかでもいいのに!

 確か、上野さんも似たようなリボン着けてたし、他にもリボンを着けている女子が居る筈だ。

 リボンを着けている順番って何だろ?

 席に座っている順番でリボンを着けている生徒を……それだと、結局リボンを着けた出席番号順になってしまうではないか。

 違う違う、それなら、リボンの色の順番。

 ……えーっと、色には、番号があったような?

 数学教師が、そんな事を知っているはずもない。

 眼鏡をかけている順番とか……。

 そうこうしている内に、最も手近な数列、出席番号へと導かれてしまうのか。


「毎回毎回、理不尽な出席番号という順番にとらわれて、私、影縫さん、上野さんの順番で、当てられて……あれ?」


 出席番号順のはずなのに、ア行の浅香の次が、どうして、カ行の影縫になるの?

 影縫さんより、上野さんの方が先に当てられるはずだ。それなのに、いつも授業で当てられるのは、私の次に彼女だった。

 私の勘違い?

 いや、私の後ろの席に座っているのは、上野さんではない。

 うちのクラスの席順は出席番号順なのだ。

 もう一度視線を向けた影縫さんの髪に、リボンがついていた。

 振り返った時見たリボンはもっと小さかったような。

 今見えているリボンよりも遠くにあったのかもしれない。

 上野さんと同じリボン?

 上野さんのリボン?

 影縫さんは、リボンが結べるほど髪が長かったっけ?

 確か陸上部で、……影縫さんの髪型って、どんな感じだっけ?

 目は? 口は? 

 考えれば考えるほどあやふやになる。

 思い出せなくても影縫さんは、目の前にいるのだ。

 目を開けば彼女の姿を確かめる事が出来る。

 どんな目をしていたか、どんな口をしていたか、どんな髪型をしていたか……を、はっきりと見ようと目の前の彼女に視線を向けると、注意して視線を向けた部分がチラチラと入れ替わって影のように黒く塗りつぶされて行く。

 人型に切り取られた影の奥で赤いリボンが小さく揺れていた。


「あっあなたは……」


「どうしたの? 浅香さん……」


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