二十二話 他に言いたいことはない
お久しぶりです。
この感情をなんと呼べばいいのだろうか?頭の中でいろんな言葉が渦巻いて、胸の奥では様々な想いがグルグルと。なんで泣いたんだろう?悲しいからだろうか。それはあながち間違いでもないのかもしれない。でも、本当の気持ちってのはきっと、
怒りに近いものだろう。
長く立ち止まっていたようで、時雨に気付かれた。
「どうして泣いてるの?」
「...潮風が目にしみたんだよ。」
そーかいそーかいと言いながら海へと目を向ける。それに合わせて車椅子を海辺へと近づけて行く。波の届くところまで行くと、恐る恐る時雨が足を伸ばして水に触れる。
「ははっ!なんとまぁ美しも広大なこと。命生まれし場所、か。」
俺は俯いたまま、何も言えずにただただその言葉に耳を傾けることしかできなかった。なんだかこの広い海を見ていると、自分が無力であることをひたすらに伝えられているような気がしたから。いい加減俺も気付くべきなのかもしれない。世の中には到底覆ることなどないことが存在する事実に。いくら頑張ったって、時雨自身が変わらないのなら、全部無駄なんだ。
「ねぇ、聖。」
「...何?」
「私さ、死んでしまうのなら病室なんかじゃなくてこの場所がいいなぁ。色の抜け落ちたような病室で最期を迎えるくらいなら、海に抱かれて死んで行きたいよ。」
「...めろ。」
「ん?」
胸の奥から溢れ出すこの感情はやはり怒りだ。全部無駄なのかもしれない。それでも諦めきれないから俺は怒っているんだ。時雨は未だ本音を言葉にしない。なら先に、俺の本音をぶつけよう。
「やめろって言ってんだよ!」
突然の大声に時雨が震える。
「お前が一番死ぬのが怖いくせにそれを受け入れたふりばっかりして、周りの気持ちも知らないで!」
言いたいことなら山ほどあった。流れるように言葉が出て来た。あぁ、俺もこんなに溜め込んでたってことか。
「俺だって初めは変なやつ程度にしか思ってなかったさ。でも、本気で助けたくなったんだよ!お前の想いを知ってから、あの夜から俺は!」
車椅子から手を離し時雨の真正面へと回る。しゃがみ込み目線を合わせた。時雨の手に俺の手を重ね、今まで見せたことない表情の時雨を見つめた。
「俺は...時雨が好きだ。死んで欲しくなんてない。ずっと、ずーっと生きててほしい。これが俺の本音だ。一切の曇りない俺の気持ちだ。」
俺は君の言葉が欲しい。
「私は...。」




