二十三話 絶望もまた本音の一部である
「私は...。」
そう言って口を閉じる。今にも泣き出しそうに、くしゃっと顔を歪めた。いっそ泣いて欲しかった。泣いて、泣いて、泣いて。胸に抱えたもやもやを全部吐き出して、最後に笑えたらなんて幸せなんだろう。
「この際、全部言わないか?どこで死にたいとかそんなんじゃない。お前が本当に望んでいることを俺に教えて欲しい。ちゃんと言葉にして欲しい。」
時雨に重ねた手に力を込める。
なにが怖いかなんて俺ははっきりわかっているつもりだ。生きるという希望が折れてしまうことが何よりも怖い。時雨だって初めからこうだったわけじゃないだろう。何度も何度も生きたいと願って、望んで、祈って、努力して。しかし、その全てが無に帰した。いつしかそれが恐ろしくなって一切を口に出すのをやめた。
やがてゆっくりと時雨が口を開いた。
「...もうわかってくれてると思うけど怖いんだよぉ、私は。死にたくないと願ったところで一体なにになるっていうのさぁ。」
肩を震わせ、涙をこらえ、必死に絞り出した声。波の音にも負けてしまいそうなほど小さく消え入りそうであったが、不思議と聴くのに困らなかった。
「幾度となく私の心は折られた。一度なんてもんじゃない。数十、いや百は超えてる気がするよ。頑張ってダメだったとしても次こそはって。それでまたダメなんだ。」
両手を広げ天を仰ぐ。勢いで俺の手は弾かれる。拒絶にも似たそれに俺の心がキシキシと音を立てる。
「ならいっそのこと受け入れてしまおうっておもったんだよ。なぜって、そのほうが楽だからさ。いい加減辛いんだ、心を折られるのは。希望が潰えるのは。私はとうの昔に諦めてしまった。聖の言った通り、周りの人間の思いを無視して。故に私は」
空に向けた顔を下ろし、再び顔を向かいあわせる。笑みは当然あるはずもなく、迷子の少女のように、
「本音を言葉にする資格も、勇気も、随分と前に失っちゃったよ...。」
呟いた。それ自身が本音であることも忘れて。
むしろ俺は嬉しかった。ようやく見え始めた兆しが、何よりも俺にとっての希望であった。
俺は忘れないだろう。ギラギラと照りつける真夏の太陽すら塗りつぶしてしまう時雨の絶望を。それでも止まらない、止まれない。次は希望の番なのだから。
スローペースで申し訳ないです。これからは一週間以上の間を開けないことを目安にします。




