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【歴史if小説】元寇は、壇ノ浦の戦いで滅んだ平家の残党の陰謀だった  作者: 松本 俊介


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第八話「暗躍する赤間関の影」


**第八話「暗躍する赤間関の影」**


**第一章:火の国の動揺**


至元十一年(1274年)十月下旬。博多落城の激震は、瞬く間に肥後(熊本)の地へと伝播していた。


肥後の有力御家人である菊池武房(きくち たけふさ)や阿蘇惟時(あそ これとき)らは、白川の畔に陣を張り、緊迫した面持ちで軍議を開いていた。博多を守る防塁が完膚なきまでに打ち破られ、蒙古の鉄騎兵と異形の火器が筑紫平野を南下しつつあるという報せは、彼らに絶望的な衝撃を与えていたのである。


「鎌倉からの加勢はいつ届くのだ! このままでは肥後が呑み込まれるぞ!」


「博多の防塁が内側から破られたというのは誠か? 肥前や肥後の豪族の中に、異国に寝返った者がおるという噂だ……」


疑心暗鬼と恐怖が陣内に渦巻く中、夜陰に乗じて一人の男が菊池陣営の背後に潜入していた。平景明である。


景明は、かつて平重盛(清盛の嫡男)が肥後・筑後の武士たちに施した多大な恩義の記憶と、彼らの家系図を完全に把握していた。御家人として幕府に従いながらも、北条氏による冷遇と重税に不満を抱く肥後武士たちの不協和音——景明が突くべきは、まさにその心の隙間であった。


**第二章:闇のなかの対峙**


深夜、景明は菊池一族の重鎮である老将の寝所へ、風のように忍び込んだ。


「何者だ!」


老将が抜きかけた太刀を、景明は手にした漆黒の扇で静かに制した。


「声を上げられぬ方が身のためです。私は、壇ノ浦の深淵より戻りし者……平清盛公の血を引く者」


景明は懐から、一通の連判状と「丸に揚羽蝶」の家紋が刻まれた古い木札を取り出した。そこには、すでに蒙古に下り、博多攻略で手柄を立てた肥後各地の旧平家系豪族たちの署名が連なっていた。


「な……肥後武士の半数が、すでに寝返っているだと……!?」


蒼白になる老将に対し、景明は静かに、しかし刃のように鋭い声で語りかけた。


「鎌倉の源氏どもは、九州の武士をただの防人の捨て石としか思っておりません。蒙古の圧倒的な物量と火器の前に、幕府の加勢が間に合うとお思いか? 今この肥後で立ち向かえば、一族は根絶やしとなりましょう」


景明は背の唐櫃から布を払い、闇の中に妖しく光る三種の神器の威光を示した。


「蒙古の手を借り、鎌倉の支配を断ち切るのです。我らに降れば、肥後の領地と一族の誇りは平家が永久に保障いたす。源氏のために死すか、新しき九州の覇者とともに生き残るか……選ばれよ」


老将の手から力が抜け、太刀が畳の上に落ちた。


翌朝、熊本平野の目前まで迫った元軍の前に、肥後御家人たちの足並みは完全に揃わぬまま、決戦の火蓋が切られようとしていた。


---


**次回(第九話)のご案内**


第九話「熊本平野の合戦」

肥後(熊本)へとなだれ込む元軍と景明の連合軍。阿蘇氏・菊池氏ら幕府側御家人が死力を尽くして迎え撃つが、景明の心理戦と裏切り、蒙古の猛攻により熊本が陥落する!

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