第二話「島影の誓い」
**第二話「島影の誓い」**
**第一章:嵐の巣窟**
壇ノ浦の惨劇から八十年余。対馬の北、玄界灘の激流と断崖に守られた孤島「黒島」は、表向きは荒れ果てた無人島であったが、その実、平家の残党が八十年の歳月にわたり潜伏し続けた暗黒の砦であった。
彼らは単に息を潜めていたのではない。関門海峡から朝鮮半島、果ては宋国へ至る海路を熟知する「海の民」となり、海賊や密貿易船として暗躍しながら、膨大な資金と船術を蓄えていたのである。
祖父・景春から「神器」と「怨念」を受け継いだ平景明は、三十の坂を迎えていた。その体躯は海の風に鍛え上げられ、両眼は夜の海原をも見通すように冷たく冴えわたっていた。
「景明様、高麗(朝鮮半島)の商人より文が届きました。蒙古の兵船が、江華島を完全制圧したとのこと」
従者の一人が報じる。景明は孤島の断崖に立ち、荒れ狂う玄界灘を見下ろしながら静かに頷いた。
高麗は蒙古の鉄砲と圧倒的な騎兵、そして物量によって膝を屈した。蒙古の勢力は今や高麗の港を埋め尽くし、次は海を隔てた日本へとその巨大な爪を伸ばそうとしている。
「幕府の御家人どもは、いまだ鎌倉のぬるま湯で眠っている。海の向こうに、自らを呑み込む化け物が迫っていることすら知らずにな」
景明の手には、古い海図が握られていた。玄界灘の潮の満ち引き、風向き、そして「神風」と呼ばれる猛烈な台風が吹く時期と避けるべき季節の全てが、平家八十年の観測によって克明に記されていた。
**第二章:覇者の影と策士の決断**
景明は少数の手勢とともに、交易船に扮して朝鮮半島の港町・開城へと渡った。
そこで景明が目にしたのは、異様な光景であった。
無数の巨大な軍船がドックで造られ、甲冑に身を包んだ蒙古兵と高麗兵が、漆黒の鉄砲や弓矢を積み込んでいる。蒙古の絶対的君主・フビライ・ハーンの命により、日本征服の準備が着々と進められていたのだ。
だが、景明の鋭い観察眼は、蒙古軍の致命的な「弱点」を見逃さなかった。
「奴らは陸の覇者だが、海を知らぬ。風を読めず、潮を知らず、ただ力任せに舟を出すつもりだ」
このまま蒙古が日本に押し寄せれば、玄界灘の激しい荒波と秋の台風(神風)によって自滅するか、鎌倉武士の捨て身の抵抗に阻まれる。それでは、幕府に「勝利」を与えてしまう。
(幕府を勝たせてはならぬ。蒙古を完勝させ、鎌倉の牙城を根底から粉砕せねばならぬ)
景明は開城の暗がりで、自らの内に煮えたぎる平家の血を感じていた。
「蒙古に『目』を与えてやるのだ。海を渡る風を教え、神風の吹かぬ時期を告げ、博多の防衛を破る道を提示する」
景明の狙いは、単なる蒙古の先導役ではない。元軍の武力を最大限に利用し、福岡(博多)を攻略させた後、そのまま熊本・鹿児島へと南下させ、九州全土から鎌倉幕府の威光を削ぎ落とすことにある。そして、その混乱に乗じて「九州平家王国」を創り上げるのだ。
「いざ、大都(北京)へ」
景明は、背に秘めた「三種の神器」を確かめるように強く押し当てた。
フビライ・ハーンという巨大な竜の背に乗り、源氏の世を地獄へと変えるための大賭博が、いま始まろうとしていた。
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**次回(第三話)のご案内**
第三話「大都の謁見」
フビライ・ハーンとの直接交渉。景明はいかにして元の皇帝を心服させ、「九州の支配権」と「南下侵攻」の約定を取り付けるのか?策士・景明の頭脳戦が描かれます。




