第十八話「関門海峡の罠」
**第十八話「関門海峡の罠」**
**第一章:激流の誘い**
至元十二年(1275年)晩秋、関門海峡。
長門(山口県)の沿岸には、鎌倉幕府が総力を挙げて送り込んだ数万の大遠征軍が押し寄せていた。白地に黒の三つ鱗や二つの引両が躍る旗印が海風にはためき、九州奪還を誓う東国武士たちの凄まじい執念が海を覆う。
一方、門司(福岡県)側に陣を張る元軍総督府のアタカイと忽敦は、焦りを募らせていた。景明の警告通り、長門の幕府軍は凄絶な士気で押し寄せており、関門の狭い海峡を突破しなければ九州防衛すら危うい。
「景明! 貴様の言う通り関門海峡で鎌倉軍を叩く! 水軍を出し、幕府軍を海上で押し潰せ!」
アタカイの怒号に対し、景明は恭しく頭を下げた。
「お任せください、総督殿。関門海峡の潮は間もなく『西から東』への激流に変わります。元の巨大船と火砲を海峡の中央に配置し、渡河しようとする鎌倉軍を挟み撃ちにすれば、一網打尽にできましょう」
アタカイと忽敦には、その提案が寸分の隙もないように思えた。元軍は景明の指示に従い、主力の大艦隊と千戸長率いる重装騎兵を乗せた巨大船を海峡の最狭部へと進出させた。
**第二章:赤き潮流の共倒れ**
しかし、景明が提示した潮の時間は、八十年間にわたり対馬の孤島で観察し続けてきた「平家秘伝の潮汐図」により計算された、わずかな誤差——生死を分ける悪魔のトラップであった。
元軍の大艦隊が海峡の中央へ差し掛かった瞬間、潮の流れは景明の言葉より一刻早く、渦を巻く狂乱の激流へと変貌した。巨船同士が激しく衝突し、操船不能に陥る蒙古の船団。
「な、なんだこの潮は!? 船が制御できん!」
パニックに陥る元軍に対し、長門側から機を逃さず突撃をかけたのは、北条一門率いる鎌倉幕府の精鋭たちであった。
「敵の船陣が乱れたぞ! 一騎打ちの栄誉を掴め!」
幕府軍の小舟群が激流を恐れず雪崩れ込み、混乱する元の巨船へ取り付いた。甲板上で繰り広げられる惨烈な白兵戦。蒙古の兵と東国の武士たちが血煙を上げ、互いを刺し違えて海へ落ちていく。
その凄絶な同士討ちを、門司側の高台から冷ややかに見下ろしていたのは、自らの水軍を引き揚げさせていた平景明であった。
「源氏の牙と、蒙古の毒蛇……互いに喰らい合い、血を流し尽くすがいい」
景明の罠により、元軍の主力艦隊と幕府の大遠征軍は関門海峡の渦潮の中で激突し、双方ともに再起不能なまでの大打撃を被った。海面は討ち取られた兵の血と壊滅した船の木屑で、まさに壇ノ浦を彷彿とさせる「赤」に染まっていく。
「さあ……舞台は整った」
景明は背の唐櫃を固く締め直し、混乱を極める博多へ向けて馬を走らせた。二つの巨大な牙が相討ちとなった今、九州の絶対的覇者として降臨する刻が来たのである。
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**次回(第十九話)のご案内**
第十九話「孤立の覇者」
関門海峡で両軍が壊滅的な打撃を受けた隙を突き、景明は博多の元軍総督府を包囲! 蒙古の支配を排し、九州に「独立平家王国」の樹立を宣言する。しかし、執念に燃える北条時宗と大都のフビライが、最後の牙を剥く!




