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【歴史if小説】元寇は、壇ノ浦の戦いで滅んだ平家の残党の陰謀だった  作者: 松本 俊介


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第十七話「二つの牙」


**第十七話「二つの牙」**


**第一章:大都からの総督**


至元十二年(1275年)秋、博多港。


大都からクビライ直属の特使であり、征東等処行中書省(九州総督府)の総督に任命された蒙古の大貴族・アタカイが、数千の元軍親衛隊を引き連れて上陸した。


アタカイは着任するや否や、博多の館へ景明を呼び出し、高圧的な態度で言い放った。


「平景明よ、ハーンの御恩により九州は平定された。これよりこの地の年貢、軍権、および港の管理権はすべて我が総督府が接収する。お前にはハーンから『九州案内役』の称号が賜られた。今すぐ三種の神器と軍の指揮権を渡せ」


傍らに立つ元の総司令官・忽敦(クドゥン)も、冷ややかな視線を景明に送っている。元軍にとって、九州平定を成功させた景明はもはや不要であり、むしろ旧平家系武士や民の信望を集める景明の存在は邪魔立てでしかなかった。


しかし、景明は微動だにせず、薄い笑みを浮かべた。


「総督殿。私はハーンと『九州の治権は平家に委ねる』と約定を結びました。神器は平家の魂であり、渡すわけにはまいりません」


アタカイの顔が怒りで引きつり、腰の刀に手をかけた。


「ハーンの命に逆らうか! 貴様ら異国の亡霊など、我が蒙古のてつはうと千騎の馬でひとたまりもなく踏みつぶせるのだぞ!」


景明は静かにアタカイの目を見据え、一歩前に踏み出した。


「お忘れですか。この九州の港を動かし、水先案内を務め、関門海峡の激流と気象を知り尽くしているのは誰なのかを。私を討てば、蒙古軍は海で孤立し、鎌倉の大軍の餌食となりましょう」


**第二章:絶体絶命の二重包囲**


館を辞した景明の前に、暗雲の立ち込める玄界灘が広がっていた。


元軍総督府との決定的な決裂。すでに博多の街中では、景明を監視する蒙古兵の姿が急増し、いつ背後から刃が襲いかかってもおかしくない緊張感が漂っていた。


さらにそこへ、長門(山口県)に潜ませていた平家の密使から、絶望的な報せが届く。


「景明様! 鎌倉の執権・北条時宗が率いる数万の『幕府追討軍』が長門に集結し、関門海峡を越えて九州奪還へ向けて出撃の準備を完了いたしました!」


東からは、平家と元軍を九州ごと押し潰そうと怒涛の勢いで押し寄せる鎌倉幕府の大遠征軍(源氏)。


内部からは、平家を都合の良い傀儡として利用し、用済みとなれば牙を剥く元軍総督府(蒙古)。


「前には源氏の巨浪、背には蒙古の毒蛇か……」


まさに絶体絶命の「二つの牙」に挟まれた景明。しかし、その漆黒の瞳には諦めではなく、狂気すら孕んだ冷徹な策謀の光が宿っていた。


景明は懐から「丸に揚羽蝶」の印章を取り出し、黒島の平家水軍幹部たちを集めた。


「時が来た。源氏と蒙古、双方に等しく絶対の絶望を味わわせる『最後の仕掛け』を動かす」


幕府軍と元軍、そして平家一門の命運を賭けた歴史上最大の決戦の火蓋が、関門海峡で落とされようとしていた。


---


**次回(第十八話)のご案内**


第十八話「関門海峡の罠」

長門から押し寄せる鎌倉幕府の大遠征軍に対し、景明は元軍を前面に押し立てつつ、関門海峡の「死の潮流」を利用した大規模な誘導作戦を決行する。鎌倉軍と元軍を同士討ちさせ、共倒れを狙う景明の悪魔的な罠とは!

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