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【歴史if小説】元寇は、壇ノ浦の戦いで滅んだ平家の残党の陰謀だった  作者: 松本 俊介


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第十話「虎と狼の均衡」


**第十話「虎と狼の均衡」**


**第一章:掠奪の炎**


熊本平野を制圧した翌日。旧坪井川沿いの街並みには、異様な緊迫感が漂っていた。


勝者となった蒙古・高麗の兵たちが、肥後の民家へ雪崩れ込み、兵糧や財物を強奪し始めていたのだ。あちこちから民の悲鳴と泣き叫ぶ声が上がり、黒煙が天を突く。


「やめよ! ここはすでに我らの領地だ!」


旧平家系の肥後武士たちが制止しようとするが、言葉の通じぬ異国の兵は嘲笑い、刀を突きつける。史実において大陸や朝鮮半島で繰り広げられた容赦なき「掠奪と殺戮」の爪痕が、この肥後の地にも広がろうとしていた。


その惨状の中に、一騎の馬が躍り出た。平景明である。


景明は、民家に火を放とうとしていた蒙古の千戸長(将校)の眼前に馬をつけ、抜き払った太刀の先を相手の首元へ突きつけた。


「そこまでだ」


千戸長が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。


「何を立ちすくんでいる! 我らはハーンの命で戦う蒙古の勇士ぞ! 敗者の財も女も、すべて我らの正当な獲物だ!」


**第二章:策士のジレンマ**


「獲物ではない。ここはハーンに捧げられし、我が平家の領土だ」


景明の冷徹な一言とともに、背後に控えていた平家水軍の精鋭たちが一斉に弓を引き絞った。一触即発の殺気が場を包み込む。


騒ぎを聞きつけた総司令官・忽敦(クドゥン)が、護衛を引き連れて駆けつけてきた。


「景明! 我が兵に刃を向けるとはどういうつもりだ!」


景明は馬から降りると、不敵な笑みを崩さぬまま、忽敦の正面に立った。


「将軍、ハーンのお言葉をお忘れか。『九州を完膚なきまでに制圧し、鎌倉および南宋・東南アジアへの不沈の補給基地とせよ』——これがハーンの下された大命にございます」


景明は燃え盛る民家を指し示した。


「民を殺し尽くし、田畑を焼き払えば、明日からの兵糧は誰が作るのです? 補給基地となるべきこの肥後が荒野と化せば、我らはただの野盗と同じ。自ら首を絞めることになりますぞ」


忽敦は苦々しい顔で沈黙した。景明の理屈は完璧であり、反論の余地がない。


「……良かろう。兵たちに民への無用な殺生と放火を禁ずる。ただし、兵糧の徴発は手加減せんぞ」


忽敦が兵を引き揚げさせると、その場に残された肥後の民や旧平家系の武士たちは、安堵の息をつきながら景明の前にひれ伏した。


「景明様……お救いいただき、誠にありがとうございます……!」


感謝の言葉を述べる民の姿を見下ろしながら、景明の手は静かに震えていた。


(救う、だと……? 冗談ではない。私は幕府への復讐のために、異国の悪鬼をこの国へ引き入れた張本人なのだぞ)


元軍の圧倒的な武力を利用して幕府を潰す——その目的のために「虎(蒙古)」の手綱を握っているつもりだった。しかし一歩間違えれば、その虎は九州の民すべてを喰らい尽くす。


「利用しているのか……それとも、利用されているのか……」


景明は自らの内に芽生えた深い葛藤を押し殺し、暗い眼光で南の空を見つめた。


己の野望と、引き連れてきた悪鬼の残虐性。その危うい均衡を保ったまま、軍勢は九州最後の砦・薩摩(鹿児島)へと進軍を開始する。


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**次回(第十一話)のご案内**


第十一話「シラス台地の防衛線」

南下を続ける元軍と景明の連合軍。立ちふさがるのは、南九州の雄・島津勢。蒙古の騎兵戦術やてつはうが通用しない薩摩独特の地形「シラス台地」と山岳地帯を利用し、島津の精鋭が猛抵抗を開始する!

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