10話
朝日の差し込む村の中央広場。
活気にあふれた空気の中、俺は集まった各グループのリーダーたちを見渡しながら指示を出した。
「それじゃあ、ギド長老はコボルト達と共に新しい水路の開拓を頼む。セロもその護衛に当たってくれ」
『承知いたしました。必ずやご期待に添えるよう尽力いたします』
ギド長老が深々と頭を下げ、横に立つセロが意気揚々と腰の剣の柄に手を当てた。
『護衛も任せてください! 仲間達は絶対に守ります!』
「ハーティーは仲間達と共に開拓エリアの見回りを頼む。万が一、魔物が向かってきたらすぐに俺とルシオラに知らせてくれ」
『見回りね、了解。ほら行くわよ、みんな!』
ハーティーがパッと色鮮やかな翼を広げて声をかけると、妹のパティーが不服そうに唇を尖らせた。
『あーん、もう? もう少しだけレーベン様と一緒が良い!』
『そのレーベン様にいいところを見せるチャンスでしょ! ほら急ぐ!』
首根っこを掴まれるようにして、パティーはハーティーと共に空へと飛び立っていった。
「エデンは引き続き、新しく入ってきた住民と共に農地へ向かってくれ。水不足の問題も解消される手筈だから、農地の拡張も視野に入れてくれ」
『任せて! 畑を広げるなら僕の魔法で一発だよ! すぐに終わらせて来るからね!』
エデンが胸(のような部分)を張って、翼をパタつかせ農地へ向かっていく。
「お、おい! あんまり無茶するなよ!? また寝込まれても困るからな!」
みんながそれぞれの作業へと散っていく中、美しい蒼銀の髪と凛々しい瞳を持つ、女性の竜人となったルシオラが静かに俺の前に佇んでいた。
『主様。私はどうすればいい?』
「ルシオラはいつも通り、村の中を見回ってくれ。俺への意見とか、要望とか、あったら逐次知らせて欲しい」
『……護衛は、必要ないか?』
すこし寂しそうに、ルシオラが縦長の瞳を伏せる。
女性だと知って以来、どうにも照れくさくて距離の取り方に悩んでいた俺は、慌てて補足した。
「えっと、今のところは必要ないかな」
『そうか……。』
「い、いや、後から必要になるかもしれない!」
『そうか。必要ならいつでも呼んでくれ、主様』
ルシオラは少しだけ嬉しそうに頷くと、しなやかな足取りで警備へと向かっていった。
◆
一人になった俺は、祠の祭壇の前に立ち、これまで集めた魔石と仲間たちの進化記録を見つめながら、思考を巡らせていた。
「魔石の組み合わせ次第では、もっと高いランクに進化できそうだな。それに……エデンの時はEランクからAランクまで進化した。普通の進化とは比べ物にならない上昇量だ。なにか条件があるのか……?」
考えられるのは、あの祠にあった古代の魔石が特別だったという可能性。
そして、当時のエデンと特別に相性が良かったという可能性だ。
実際、これまでの仲間たちの進化を振り返ると、ほとんどの場合がDかCランクで止まってしまっている。Bランク以上に進化できたのは、まだエデンとルシオラだけだ。
なぜエデンとルシオラだけが、それほど劇的な進化を遂げられたのか。
俺は二人と出会ったときの状況や、交わした言葉を必死に思い出してみた。
「そうか、進化することへの明確なビジョンがあるんだ」
干からびていたエデンであれば、二度と飢えや渇きに脅かされないよう、命の実りをもたらすことに特化した『エデンスライム』に進化した。
そしてルシオラは、仲間を奪った火山竜の圧倒的な炎の脅威からこの村を守れるよう、水属性の上級剣士系である『リヴァイアサン・フェンサー』に進化した。
「自分なりの理想の姿。それが進化の能力を引き出す鍵か」
魔石の純度やモンスターとの相性ももちろん存在はするだろう。
だが重要なのは強くなりたいという曖昧な欲望ではなく、「何のためにどんな姿になりたいか」という切実で明確なビジョンと覚悟だ。
それこそが、進化の力を極限まで引き出すトリガーなのだ。
◆
その日の夕方。
管理小屋に各リーダーたちを再び集め、俺は発見した進化の法則について説明した。
「ということだ。進化を希望する者、あるいは望んでいる者を知っている場合は、なんでも俺に相談してくれ!」
『ハイハイハ〜イ! わたしも、お姉さまみたく、もっと早く飛べるようになりたい!』
ハーティーの妹であるパティーが元気に手を挙げる。ハーティーも深く頷いた。
『そうね、遠くまで見渡せる目の数は、多いことに越したことはないわ』
『希望者とはちょっと違いますけど、進化した仲間が鍛冶師関連のスキルを持ってると嬉しいですね。道具とか武器の修理ができると助かります』
セロが腰の剣を見つめながら提案する。
『ふむ、となるとエデン殿に頼りきりの医療関連のスキルも必要に思いますな』
ギド長老も深く頷く。村の人数が増えるにつれ、専門の職人や医者の不足が顕著になってきているのだ。
『じゃあ僕も! もっとレーベンの役に立つように進化したいよ!』
エデンが身体をポヨンと跳ねさせてアピールしてくる。
「そうしたいのは山々だけど、エデンはAランクだからなぁ。これ以上の進化ってなると、もっと高級な魔石とか必要になるかもしれないな」
『そ、そっかぁ〜……。』
シュンと身体を小さくするエデン。その横から、ルシオラが静かに口を開いた。
『主様、住人達から直接聞くというのはどうでしょう?』
「その手が一番かな、やっぱり」
『はい、手筈はこちらで整えておきますので』
『そうですな。一度、住民を集めて話を聞くべきでしょう』
「あ、集めて? 聞いて回るんじゃなくて?」
俺が思わず目を丸くすると、ルシオラとギド長老は真面目な顔で頷いた。
『いえ、主様はこの村の長。大集会にて、話をするのが相応しいかと』




