第十九話「隣の芝生は青い」
二一型がユニット室から出た数分後、同じように紫電改が出てくる。
「ふう…まさか二一先輩と模擬空戦することになってあんな結果で終わるとは…もうちょっと私こてんぱんにされてると思ったんですけど…」
そんな独り言をポツリと呟いて廊下に一歩を踏み出す。
するとドタドタと足音が聞こえてくる。
「…ん、あれ…?」
紫電改は疑問に思い、足を止める。
するとその音はだんだんと近づき、大きくなってきた。
「かーいちゃん!」
「わふっ…!?」
紫電改は飛んできた者をグッと抱き止める。
「…とと…し、紫電姉さん…飛んでこないでよぉ…」
「あはは、ごめんね〜?でも久しぶりに会えたからさ…?」
紫電は少しだけ申し訳なさそうに言う。
紫電改は自分の服の袖を軽く引っ張る。
「もう…いいけどさ…」
少々紫電改が眉を下げる。
「それにしてもすごかったよ〜?まさか二一型さんをあそこまで追い詰めるなんてさ。」
紫電が紫電改に微笑む。
その紫電の仕草に、紫電改は指で頬をなぞる。
「そんなことないよ…二一先輩が万全だったらあんな戦い方になってなかったと思う…きっと、あんな無茶な急降下も無しに私に押し勝ってた…はず。」
紫電改はポツリとそうやって言う。
「いや、そんなことないと思うわ。…というか、どんだけ自分に自信がないのよ…」
そんな紫電改の言葉に割って入ってくる声があった。
紫電改はその姿をみて、目を少し大きく開ける。
「あ…陸軍の…えぇっと…」
「む…っ!…って、そっか…今は初めましてね。第64飛行戦隊所属、四式戦闘機“疾風”よ。ちゃんと覚えといてよね!全くもう…!」
疾風は紫電改に名前を告げる。
すると、紫電は疾風に近づいていく。
「あれ?疾風ちゃん、お怪我大丈夫なの〜?」
疾風はコクリと頷いて答える。
「ん…えぇ。まぁ…まだ戦えるほどじゃないけど、結構治ってきたから。」
その疾風の言動に、紫電は微笑んで頷く。
「よかったわね〜…」
その紫電の言葉を聞いて、紫電改は少しだけ口を緩ませる。
そんな紫電改の行動に、疾風はムッとするように見つめる。
「…あの、疾風さん…私に何かついてますか…?」
紫電改は疾風の視線を疑問に思って聞く。
「…いや、そんなことないわ。少し気になっちゃっただけ。」
そんな視線を疾風はそう言って切り替えた。
すると、紫電改が首を傾げて口を開く。
「…というか、疾風さんって64戦隊所属だったんですか?」
「ん、あら。知らなかったの?大東亜戦争当時、確かに64戦隊は隼先輩から私に乗り換えなかったけど…実は私だって、所属自体はしてたのよ?」
疾風は腰に手を当ててふふんと鼻を鳴らした。
その発言に紫電改は少し面を食らったように目を開く
「そうなんですか…?すごいですね、私は知りませんでした…姉さんは…?」
紫電改の言葉に、紫電も思い出すように頬に人差し指を置く。
「んー…噂程度に聞いたことはあるけど本当だったとは思わなかったから、実際に所属してるって知ったのは今ね〜。」
こくこくと頷いてから納得したように手を降ろす。
「まぁ本当に少数だったから、私が64戦隊にいるのは違和感なんだけど。だって、所属としては22戦隊とか50戦隊がよく知られてるから…」
疾風は少々呆れたようにため息を吐く。
「…正直、私はアンタらに少し嫉妬してるというか…羨ましいと思うわ。」
疾風がポロッとこぼす。
思わず紫電改が聞き返す。
「え…?な、なんでですか?」
そんな紫電改の言葉に疾風は少し笑う。
「…あぁ…っふふ、言い方が悪かったわ。紫電改は…ほら、三四三空があるじゃない。華々しく活躍出来た…と言ったら、少し言い方が悪いわね…名が知れ渡ってるじゃない。旧帝国海軍最後の精鋭部隊…撃墜数が70機を超えるエースもいたらしいじゃないの。私はそんなことできなかったし、アンタたちの三四三空やら隼先輩の64戦隊ような大きく知られた部隊もないし。」
疾風がそう言うと、紫電改は少し複雑な表情を浮かべて口を開いた。
「…いえ、そんなこと…ないですよ。…私は逆に言うと、三四三空“しか”知らないんです。最新鋭の戦闘機が前線で使用された記録がよく残ってるのは、多く…広く活躍してるからだと思います。…疾風さんも、紫電姉さんも、零先輩も、隼さんとか、雷電さんとか…そう、なんだと思います。でも、私は…強いて言うなら横空くらいにしか他の部隊にいなかったんです。だから…私は、私の事をよくできた戦闘機とは思ってません。…そう言うとこは…少々、羨ましいですね。」
紫電改は目を伏せながら呟く。
疾風は意外そうな顔を浮かべる。
「…そっか…確かにそう捉えれるのね…」
「世間知らずというか…なんというか…すみません。」
紫電改は自分を戒めるように小さく頭を下げる。
そんな二人の表情を紫電は交互に見て口を開く。
「まぁ、そんな事考えてちゃ収集つかないし…それに、今は所属は違えど同じ場所を守る仲間だよ〜?何十何百年前のことで言い合ったって、変わんないものは仕方ないじゃん?だったら、今できることやってみよ〜!」
少しイタズラっぽく笑う紫電の姿に、二人は微笑む。
「…それもそうだね。あんまり言い合っても、気持ちのいい事じゃないし。」
疾風が腕を上に伸ばしながら言う。
そんな疾風の言葉に、紫電改も頷いた。
「…ありがとう、紫電姉さん。」
「いいのよ、どーせ私の言うことは強風姉さんか二一型さんの受け売りだしね〜」
紫電は紫電改にふふっと微笑む。
その紫電の言葉に、紫電改もふっと微笑む。
「…そっか…ありがとう。」
「あらあら、いいのよって言ってるのに…かいちゃんはやっぱり優しいわね〜!」
紫電は紫電改の頭をくるくると撫でる。
「あっちょ…もう…子供じゃないんだし…」
紫電改は若干照れながらも、甘んじてそれを受け入れた。
すると、コツコツと鳴り響く足音が近づいてくる。
五二型の声がふと聞こえる。
「紫電改ちゃん、いるー?ヘルたちとご飯食べるんだけど来ないー…?」
ひょこっと覗き込んできた五二型を止める間はなかった。
「あ…えと…零先輩…?」
紫電改は困惑を隠せずにきょとんと首を傾げる。
「…私も紫電改ちゃん撫でたい。」
「いいですよ〜」
紫電はニコニコと五二型に許可を出す。
その言葉を聞いて五二型はスッと紫電改に近づく。
「えぇちょっと…!?」
紫電改はなすすべないまま撫でられたのであった。
十九話をみてくれてありがとうございます。作者です。
個人的な話ですけど、僕ミリタリの世界に引き込んだのは某デストロイヤー大尉です。
なので紫電改が好きです。なんか溺愛みたいになってるけどそんなことないです。多分。
てか書くのにストック四話くらい消費しちゃった。やべー
次回もよろしくお願いします。では。




