第九話 姫様、かくれんぼをする
月曜日。
「ルナー!」
「おはよう、ユイ!」
二人はいつものように学校へ向かっていた。
「昨日のお買い物楽しかったね!」
「うん!」
ルナは満面の笑みを浮かべる。
「また行きたいな」
「今度はみんなで行こう!」
「みんな?」
「クラスのみんな!」
ルナは少し嬉しそうに頷いた。
「うん!」
その様子を電柱の影から見守る怪異たち。
「姫様がお友達を増やそうとしておられる……!」
「なんと尊い……」
「商店街より学校を買い取るべきでは?」
「だから買わなくていいよ!」
ルナのツッコミが飛ぶ。
⸻
昼休み。
「今日は外で遊ぼう!」
ユイの一言で、クラスのみんなは校庭へ飛び出した。
「何して遊ぶ?」
「鬼ごっこ!」
「ドッジボール!」
「かくれんぼ!」
「かくれんぼ!」
ルナの目が輝いた。
「やってみたい!」
⸻
「じゃあ鬼はルナね!」
「十数えたら探して!」
「うん!」
ルナは目を閉じる。
「いーち……にーい……」
みんなが走っていく。
そして。
怪異たちまで慌て始めた。
「姫様が鬼だ!」
「隠れろ!」
「いや、我々は護衛だ!」
「しかし姫様に見つかるのも光栄……」
「どうすればいい!」
執事が静かにため息をつく。
「……落ち着きなさい」
⸻
「じゅう!」
ルナは振り返る。
「探しに行くよー!」
木の後ろ。
遊具の影。
校舎の裏。
みんな上手に隠れている。
「見つけた!」
「わー!」
楽しそうな笑い声が校庭に響く。
ルナも自然と笑っていた。
⸻
その時だった。
ルナの足が止まる。
「……?」
校舎の屋上。
誰かが立っている。
黒いローブをまとった、小さな人影。
顔は見えない。
けれど。
その視線だけは、はっきりとルナへ向いていた。
「……だれ?」
一瞬。
人影は笑ったように見えた。
次の瞬間には消えていた。
⸻
「ルナ?」
ユイが駆け寄る。
「どうしたの?」
「……今」
ルナは屋上を見る。
もう誰もいない。
「ううん」
「気のせいだったのかな」
⸻
その頃。
校舎から少し離れた屋上。
黒いローブの人物が静かに空を見上げていた。
「やはり……」
フードの奥から、小さく笑う声が漏れる。
「姫様は記憶を失っている」
「ならば、まだ間に合う」
その足元から黒い霧が立ち上る。
「目覚める前に」
「こちらへ迎えなければ」
⸻
一方、怪異たちの集会。
「報告します」
一体の怪異が跪く。
「姫様の周囲で、災厄の気配を確認しました」
広間が静まり返る。
黒鎧の騎士がゆっくり立ち上がる。
「……来るか」
千眼の執事も静かに頷いた。
「ええ」
「姫様が戻られた以上、あちらも黙ってはいないでしょう」
誰も口にはしなかった。
だが全員が同じことを考えていた。
――今度こそ、姫様は守り抜く。
たとえ、この命が尽きようとも。
⸻
その夜。
ルナはベッドに入りながら、窓の外を見つめていた。
「今日のあの人……」
胸の奥がざわつく。
怖いわけではない。
けれど、懐かしい。
「どこかで……会ったことがあるのかな……」
そのまま、ルナは静かに眠りについた。
夢の中で、誰かが優しく名前を呼んでいた。
「……姫様」




