第六話 姫様、人間を守る
その日は、いつもと変わらない朝だった。
「ルナ、おはよう!」
「おはよう、ユイ」
学校へ向かう道。
ルナは笑顔で歩いていた。
昨日、謎の怪異が現れたこと。
自分の過去が少しだけ蘇ったこと。
全部、まだ頭の中に残っている。
でも。
「今日は楽しい日にしたいな」
ルナはそう思った。
⸻
昼休み。
教室はいつものように賑やかだった。
「ねえルナ、この問題分かる?」
「うーん……」
ルナは真剣に悩む。
怪異の世界では、どんなことでも知っていた。
時間も。
世界の仕組みも。
でも。
「算数って難しいね」
「そこ!?」
ユイが笑う。
ルナも笑った。
こんな時間が好きだった。
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その時。
学校全体が揺れた。
「地震?」
誰かが呟く。
しかし。
ルナだけは気づいていた。
「……違う」
これは地面の揺れじゃない。
空気そのものが震えている。
「怪異……」
小さく呟く。
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校庭。
そこに、一体の巨大な怪異がいた。
黒い体。
赤い目。
人間を恐怖させるためだけに存在するような姿。
『姫様』
怪異が呟く。
『お迎えに参りました』
ルナの周囲にいた怪異たちが姿を現す。
「近づくな」
「姫様に触れることは許さん」
しかし。
その怪異は笑った。
『なぜ守る?』
『その姫は……また世界を壊すぞ』
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ルナは目を伏せた。
昔の記憶。
燃える景色。
泣く怪異たち。
自分のせいだと思った日。
「……違う」
ルナは顔を上げる。
「私は、もう壊さない」
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怪異が腕を振り上げる。
その瞬間。
「ルナ!」
ユイの声が聞こえた。
怖がっている。
でも。
逃げずに、ルナを呼んでいる。
「……ありがとう」
ルナは微笑んだ。
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次の瞬間。
世界が静かになった。
風が止まる。
音が消える。
そして。
ルナが一歩、前へ出る。
「お願い」
小さな声。
「帰って」
それだけ。
たったそれだけだった。
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巨大な怪異は動きを止めた。
『……命令ではない』
『お願い、だと?』
ルナは頷く。
「うん」
「あなたも、本当は苦しいんでしょ?」
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怪異の体が震える。
『……』
「怒っているように見えるけど」
「寂しいんだよね」
怪異たちは知っていた。
ルナの力は、相手を倒す力ではない。
理解する力。
救う力。
だからこそ。
怪異たちは彼女を姫と呼ぶ。
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巨大な怪異は、ゆっくり膝をついた。
『……敵わないな』
『昔から、お前には』
「昔から?」
ルナが聞く。
しかし。
怪異は答えなかった。
『いつか思い出せ』
『姫様』
⸻
事件の後。
人間たちは何が起きたのか分からなかった。
ただ一つ。
校庭に立つ小さな少女を見ていた。
「ルナ……」
ユイが呟く。
「あなたって……」
「普通の子じゃないよね?」
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ルナは少し困った顔をする。
「……うん」
そして。
小さく笑った。
「でも、ユイの友達ではいたいな」
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その言葉を聞いた瞬間。
ユイは笑った。
「じゃあ問題ないじゃん」
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遠くで見ていた怪異たちは涙した。
「姫様が……」
「人間の友を得られた……」
「今日は記念日だ」
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しかし。
誰も気づいていなかった。
あの怪異が最後に残した言葉。
『いつか思い出せ』
その意味を。




