第二十話 姫様、皆を信じる
ゴゴゴゴ……。
黒い巨大な腕が空を裂きながら怪異の世界へと伸びてくる。
その圧倒的な存在感に、街中の怪異たちは足を止めた。
「災厄だ……!」
「結界が持たない!」
悲鳴があちこちで響く。
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城の最上階。
千眼の執事は静かに杖を掲げた。
「全結界、最大出力。」
青白い光が城を中心に広がり、街全体を包み込む。
しかし。
バキッ。
黒い腕が結界を掴む。
まるで紙を握り潰すように、結界に亀裂が走った。
「……っ!」
執事の額に汗が滲む。
「想定以上です……!」
⸻
「私も行く!」
ルナが一歩前へ出る。
だが、黒鎧の騎士が立ちはだかった。
「なりません。」
「でも!」
「姫様。」
騎士は膝をつき、真っ直ぐルナを見つめる。
「我らは、何のために剣を振るうと思われますか?」
「……。」
「あなたに笑っていていただくためです。」
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ルナは唇を噛む。
怪異たちは皆、命懸けで戦おうとしている。
自分を守るためだけに。
「それでも……」
ルナは小さく首を振る。
「私は、一人だけ守られるのは嫌。」
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その言葉に、周囲は静まり返った。
ルナは一人ひとりの顔を見る。
執事。
黒鎧の騎士。
コハク。
城の兵士たち。
「私はみんなを信じてる。」
「だから……」
「みんなも、私を信じて。」
⸻
優しい風が吹いた。
ルナの言葉に呼応するように、白い光が体から溢れ出す。
その光は怪異たちを包み込み、傷ついた者たちの傷がゆっくりと癒えていく。
「傷が……!」
「治っていく!」
兵士たちが驚きの声を上げる。
執事は目を見開いた。
「これは……『姫の祝福』。」
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黒鎧の騎士は静かに笑った。
「ようやく……戻られたのですね。」
ルナは不思議そうに首を傾げる。
「祝福?」
「姫様だけが持つ力です。」
「あなたは昔から、誰かを倒すより、誰かを守ることを選ばれていました。」
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その時。
黒い腕が結界を突き破る。
轟音とともに、巨大な影が街へ降り立った。
ズドォォォン!!
大地が大きく揺れる。
姿を現したのは、漆黒の巨人。
顔のない異形。
胸の中央には、赤黒く脈打つ巨大な核が埋め込まれていた。
「グオォォォォォッ!!」
咆哮だけで、建物の窓ガラスが震える。
⸻
「総員、迎撃!」
黒鎧の騎士が剣を掲げる。
「姫様の世界を守れ!」
「「おおおおっ!!」」
怪異たちが一斉に駆け出した。
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ルナはその背中を見つめる。
「みんな……」
握りしめた手に、温かな光が宿る。
「お願い。」
「誰も傷つきませんように。」
その願いとともに、光はさらに強く輝き始めた。
そして、その光を見つめる黒い巨人の奥で——
誰かが静かに笑っていた。
「やっと……目覚めましたか。」




