第十九話 姫様、お城を歩く
怪異の世界にも朝は訪れる。
黄金色の光が城を照らし、庭に咲く花々がゆっくりと開いていく。
「わあ……」
ルナは大きな窓から外を眺めた。
「きれい……」
人間界とは違う景色。
空には魚のような生き物が泳ぎ、色鮮やかな鳥たちが歌っている。
「姫様、お目覚めでございますか」
千眼の執事が部屋へ入ってくる。
「おはよう!」
ルナが笑顔を向けると、執事も優しく頭を下げた。
「本日は、お城をご案内いたします」
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広い廊下を歩くルナ。
壁にはたくさんの絵が飾られていた。
「これ……」
立ち止まる。
一枚の絵には、小さなルナが怪異たちと一緒に花畑で遊ぶ姿が描かれていた。
別の絵には、大きな鬼の肩車をされて笑う姿。
さらに別の絵には、泣いている怪異の子どもの頭を優しく撫でている姿があった。
「全部……私?」
「はい」
執事は静かに答える。
「姫様は、誰に対しても分け隔てなく接してくださいました」
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「だから、みんな私を守ろうとしてくれるの?」
「……ええ」
執事は少しだけ寂しそうに微笑む。
「今度こそ、同じ後悔を繰り返さぬために」
ルナはその言葉の意味を聞こうとした。
しかし。
「姫様ー!」
元気な声が廊下に響く。
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小さな狐耳の怪異が勢いよく飛びついてきた。
「おかえりなさい!」
「えっ、わわっ!」
ルナは慌てて受け止める。
「あなたは?」
「コハク!」
胸を張って名乗る。
「姫様の護衛見習い!」
まだ子どもの怪異らしく、尻尾をぶんぶん振っている。
「昔、姫様に頭をなでてもらったんだ!」
ルナは少し困ったように笑う。
「ごめんね……覚えてなくて」
「いいの!」
コハクは笑顔で首を振った。
「また思い出してくれたら、それで十分!」
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その笑顔を見て、ルナも自然と笑顔になる。
「じゃあ、これからよろしくね」
「うん!」
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城のバルコニーへ出ると、街が一望できた。
怪異たちが穏やかに暮らしている。
市場では笑い声が響き、子どもたちは元気に走り回っていた。
「……平和なんだね」
ルナが呟く。
「姫様が守ってくださった平和です」
執事が答える。
「だから皆、この日常を失いたくないのです」
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その時だった。
ゴォォォ……。
空が低く唸る。
紫色だった空に、黒い亀裂が走った。
「っ!」
執事の表情が変わる。
警鐘が城中に鳴り響く。
ゴーン、ゴーン……!
「敵襲!」
「災厄だ!」
「結界を展開しろ!」
怪異たちが一斉に武器を取る。
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黒い亀裂はゆっくりと広がっていく。
その奥から現れたのは、巨大な黒い手。
山ほどもある大きさの腕が、怪異の世界へと伸びてくる。
その場にいた全員が息を呑んだ。
「こんなの……」
ルナは言葉を失う。
執事が静かに前へ出る。
「姫様」
「どうか、お下がりください」
ルナは黒い手を見つめたまま、小さく首を横に振る。
「……ううん」
「みんなで守る」
その瞳には、確かな決意が宿っていた。




