第十三話 姫様、初めて負ける
運動会まで、あと一週間。
校庭では今日も練習が行われていた。
「ルナ!」
ユイが手を振る。
「今日は障害物競走の練習だよ!」
「しょうがいぶつきょうそう?」
「走るだけじゃなくて、網をくぐったり、平均台を渡ったりする競技!」
「楽しそう!」
ルナは目を輝かせた。
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「位置について!」
先生の笛が鳴る。
「よーい……スタート!」
ルナは勢いよく走り出す。
網をくぐり、
平均台を渡り、
跳び箱を飛び越え――
「わっ!」
最後の土のうで足を取られ、尻もちをついた。
「いたた……」
その瞬間。
校庭中にいた怪異たちの空気が変わる。
「姫様が転ばれた!」
「誰だ! 土のうを置いたのは!」
「運動会を中止にしろ!」
「世界を止めるか!?」
執事が鋭く睨む。
「落ち着きなさい。」
「しかし!」
「姫様をご覧ください」
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ルナは一人で立ち上がると、服についた砂を払った。
「大丈夫!」
そして、少し照れたように笑う。
「転んじゃった」
その笑顔に、怪異たちは安心してその場に座り込んだ。
「ご無事……」
「姫様がお怪我をなさらず、本当によかった……」
黒鎧の騎士は胸に手を当て、小さく息を吐いた。
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練習が終わり、ユイが隣に座る。
「ルナでも転ぶことあるんだね」
「うん」
ルナは笑った。
「負けちゃった」
「悔しい?」
少しだけ考えてから答える。
「ううん」
「みんなと一緒に走れたから楽しかった!」
ユイも笑顔になる。
「それならよかった!」
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その頃。
学校から離れた廃工場。
黒いローブの人物が窓の外を見つめていた。
「姫様は変わりませんね……」
その背後から黒い霧が集まり、一体の怪異のような影が姿を現す。
「まだ連れ戻さないのか」
ローブの人物は静かに首を振る。
「まだです」
「姫様には、笑っていてほしい」
「ですが、災厄はもう動き始めています」
「分かっています」
ローブの人物は拳を握った。
「だからこそ……急がなければ」
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一方、怪異たちの広間。
「報告します」
一体の怪異が駆け込んできた。
「災厄の封印が、一つ破られました」
広間が静まり返る。
黒鎧の騎士がゆっくりと剣を抜く。
「……始まるか」
執事は静かに頷いた。
「姫様には、まだ知らせません」
「姫様の日常は、我らが守ります」
怪異たちは一斉に頭を下げた。
「必ず」
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その夜。
ルナはベッドの中で、小さく呟く。
「明日も学校、楽しみだなぁ」
窓の外では、誰にも見えない怪異たちが静かに夜空を見上げていた。
その空に、小さな黒いひびが入っていることを知る者は、まだ誰もいなかった。




