第十二話 姫様、運動会の練習をする
朝のホームルーム。
「みんな、来月は運動会があります!」
先生の一言で教室が盛り上がる。
「やったー!」
「リレー楽しみ!」
「玉入れ勝つぞ!」
ルナは首を傾げた。
「うんどう……かい?」
隣のユイが笑う。
「運動会も知らないの?」
「うん」
「走ったり、みんなで競争したりする学校行事だよ!」
「競争……」
ルナの瞳がきらりと輝いた。
「楽しそう!」
⸻
昼休み。
校庭では早速リレーの練習が始まった。
「ルナも走ってみよう!」
「うん!」
スタートラインに並ぶルナ。
先生が笛を鳴らす。
「位置について、よーい……」
ピッ!
ルナは一歩踏み出した。
次の瞬間。
「……え?」
クラス全員が固まる。
ゴール地点には、すでにルナが立っていた。
「終わったよ?」
本人は不思議そうに首を傾げる。
⸻
教室が静まり返る。
「い、今の見えた?」
「一瞬で消えたよな?」
「えっと……」
ルナは困ってしまう。
その時、千眼の執事の声が耳元に届いた。
「姫様」
「はい?」
「少々、本気を出しすぎました」
「あっ……」
ルナはようやく気づいた。
「ご、ごめんなさい……」
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先生は苦笑いする。
「ルナさんは……その……少しだけゆっくり走ってみようか」
「うん!」
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二回目。
ルナは「ゆっくり」を意識した。
すると今度は――。
ビリだった。
「えぇっ!?」
ユイが驚く。
「ルナ、さっきと全然違う!」
「ゆっくりって難しい……」
ルナは肩を落とした。
⸻
放課後。
怪異たちは大真面目な会議を開いていた。
「姫様が運動会に参加される」
「これは一大事だ」
「転倒の危険があります」
「校庭の石を全て取り除こう」
「砂も柔らかくするべきだ」
「日差しが強い。雲を呼べ」
黒鎧の騎士が静かに言う。
「競技中は私が姫様の影となり、万が一転ばれた際には――」
「却下」
執事が即答した。
「姫様は普通の子として参加したいと望まれています」
「ですが!」
「姫様の願いを叶えることこそ、我らの務めです」
怪異たちは静かに頷いた。
「承知」
⸻
翌日。
「ルナ!」
ユイが笑顔で近づいてくる。
「昨日はびっくりしたよ!」
「ごめんね」
「謝ることじゃないよ!」
ユイはニッと笑った。
「でも、本番では一緒に頑張ろう!」
「うん!」
ルナも嬉しそうに笑った。
⸻
その様子を、校舎の屋上から見つめる人影があった。
黒いローブをまとった人物。
「楽しそうですね」
優しい声。
けれど、その瞳には悲しみが宿っていた。
「姫様……」
「どうか、その笑顔だけは失わないでください」
そう呟くと、人影は静かに姿を消した。




