↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/70

【第69話】王者シオン


 王都(おうと)の中心(ちゅうしん)に君臨(くんりん)する巨大(きょだい)なファイヤードラゴンが放(はな)つ熱線(ねっせん)と圧倒的(あっとうてき)な殺気(さっき)は、かつてないほどの絶望(ぜつぼう)を人々(ひとびと)に植(う)え付(つ)けていた。


 放(はな)たれた灼熱(しゃくねつ)のブレスの余波(よは)だけで石畳(いしだたみ)は溶(と)け落(お)ち、駆(か)けつけた近衛騎士(このえきし)たちや冒険者(ぼうけんしゃ)が次々(つぎつぎ)と吹(ふ)き飛(と)ばされて地面(じめん)に倒(たお)れ伏(ふ)している。


 魔導士(まどうし)リーナが展開(てんかい)した強力(きょうりょく)な魔導結界(まどうけっかい)も、ドラゴンの無限(むげん)とも思(おも)える魔力量(まりょくりょう)の前(まえ)に軋(きし)みをあげ、ついに細(こま)かなヒビ割(わ)れを生(しょう)じさせた。


 妖精族(ようせいぞく)のルミナリアやウルフ族(ぞく)のルナリス、そして豹族(ひょうぞく)のレオナたちが素早(すばや)い身(み)のこなしで接近(せっきん)し、それぞれの武器(ぶき)で硬質(こうしつ)な紅蓮(ぐれん)の鱗(うろこ)を狙(ねら)うが、その装甲(そうこう)は鉄壁(てっぺき)の如(ごと)く弾(はじ)き返(かえ)し、決定的(けっていてき)なダメージを与(あた)えることができない。


「なんて頑丈(がんじょう)な鱗(うろこ)なの……! これじゃあ、まともに攻撃(こうげき)が通(つう)じないわ!」


 ルミナリアが悔(くや)しげに歯噛(はが)みしながら飛(と)び退(の)く。


 その傍(かたわ)らでは、神聖(しんせい)な光(ひかり)を纏(まと)ったセレナや闇(やみ)の術式(じゅつしき)を操(あやつ)るシェリアが必死(ひっし)に負傷(ふしょう)した兵士(へいし)たちの救護(きゅうご)と後方支援(こうほうしえん)を行(おこな)っているが、ドラゴンの放(はな)つ圧倒的(あっとうてき)な熱量(ねつりょう)と重圧(じゅうあつ)の前(まえ)に、戦況(せんきょう)は完全(かんぜん)に膠着(こうちゃく)していた。


 さらに、魔族(まぞく)であるルビリアの魅惑(みわく)の術(じゅつ)や、魔女(まじょ)アルテミシアの紅蓮(ぐれん)の炎(ほのお)、魚人族(ぎょじんぞく)リヴァイアの水撃魔法(すいげきまほう)を重(かさ)ね合(あ)わせても、古龍(こりゅう)の強靭(きょうじん)な肉体(にくたい)と精神(せいしん)の耐性(たいせい)は揺(ゆ)るがなかった。


 圧倒的(あっとうてき)な格上(かくうえ)の存在(そんざい)を前(まえ)に、流石(さすが)のシオンの一行(いっこう)も苦戦(くせん)を強(し)いられていた。


 だが、その最前線(さいぜんせん)の混乱(こんらん)のなかへ駆(か)けつけたエルザとアルベルトは息(いき)を呑(の)みながらもシオンの背中(せなか)を見(み)つけた。


 さきほどまで広場(ひろば)に降(お)り立(た)って冒険者(ぼうけんしゃ)たちと激(はげ)しい一戦(いっせん)を交(まじ)えていたはずのその巨体(きょたい)が、突如(とつじょ)として大空(おおぞら)へと飛(と)び立(た)った。


 凄(すさ)まじい風圧(ふうあつ)をまといながら上空(じょうくう)へと舞(ま)い上(あ)がった古龍(こりゅう)を前(まえ)に、誰(だれ)もがその圧倒的(あっとうてき)な脅威(きょうい)に息(いき)を呑(の)んでいたのだ。


 そんな緊迫(きんぱく)した戦場(せんじょう)の最中(さなか)、シオンは背後(はいご)に気配(けはい)を感(かん)じて振(ふ)り返(かえ)った。


 そこにいたのは、王国(おうこく)の危機(きき)を救(すく)うために先行(せんこう)させていた王女(おうじょ)エルザと、アルベルトだった。


「シオン様(さま)……!」


 過酷(かこく)な戦(たたか)いをくぐり抜(ぬ)けて再(ふたた)びシオンと巡(めぐ)り合(あ)えた歓喜(かんき)を噛(か)みしめるように表情(ひょうじょう)を輝(かがや)かせた。


 エルザはその抑(おさ)えきれない想(おも)いのまま、一気(いっき)にシオンの胸元(むなもと)へと飛(と)び込(こ)み、しっかりと身体(からだ)を預(あず)ける。


 シオンは優(やさ)しくその背中(せなか)に腕(うで)を回(まわ)し、穏(おだ)やかな笑(え)みを浮(う)かべた。


「二人(ふたり)とも、よくやったな」


 シオンがそう労(ねぎら)いの言葉(ことば)をかけると、エルザは潤(うる)んだ瞳(ひとみ)で嬉(うれ)しそうに頷(うなず)いた。


 続(つづ)いて、シオンはその視線(しせん)をエルザのすぐ傍(かたわ)に立(た)つアルベルトへと向(む)けた。


「アルベルト、少(すこ)し見(み)ない間(あいだ)に随分(ずいぶん)と男(おとこ)らしくなったじゃないか」


 シオンの称賛(しょうさん)に、アルベルトは胸(むね)を張(は)り、より一層(いっそう)頼(たの)もしい面構(つらがま)えで深(ふか)く頭(こうべ)を下(さ)げた。


 だが、感傷(かんしょう)に浸(ひた)っている時間(じかん)は長(なが)くは続(つづ)かない。


 上空(じょうくう)からは、再(ふたた)び狂乱(きょうらん)の炎(ほのお)を纏(まと)ったファイヤードラゴンが鋭(するど)い咆哮(ほうこう)を轟(とどろ)かせ、地上(ちじょう)へと凄(すさ)まじいプレッシャーを浴(あ)びせかけていたからだ。


「……さて、再会(さいかい)の挨拶(あいさつ)はこれくらいにしておくか」


 シオンが冷徹(れいてつ)かつ絶対的(ぜったいてき)な自信(じしん)をたたえた双眸(そうぼう)で、上空(じょうくう)で威嚇(いかく)を続(つづ)けるファイヤードラゴンをじっと見据(みす)える。


 シオンは一歩(いっぽ)前(まえ)に踏(ふ)み出(だ)し、周囲(しゅうい)を包(つつ)み込(こ)む混濁(こんだく)した熱気(ねっき)を切(き)り裂(さ)くように、その右手(みぎて)をゆっくりと掲(かか)げた。


「確(たし)かに、これまでの魔物(まもの)や魔王軍(まおうぐん)の幹部(かんぶ)とは桁違(けたちが)いの耐久力(たいきゅうりょく)だな。だがそれがどうした」


 シオンが低(ひく)く、しかし戦場(せんじょう)全体(ぜんたい)に響(ひび)き渡(わた)る声(こえ)で呟(つぶや)いた瞬間(しゅんかん)、その足元(あしもと)から世界(せかい)そのものをねじ曲(ま)げるような濃密(のうみつ)な紫黒色(しこくしょく)の魔力(まりょく)オーラが爆発的(ばくはつてき)に噴(ふ)き出(だ)した。


 それは物理的(ぶつりてき)な衝撃波(しょうげきは)ではない。


 存在(そんざい)の根源(こんげん)、魂(たましい)の深部(しんぶ)に直接(ちょくせつ)刻(きざ)み込(こ)まれる「性(せい)の捕食者(ほしょくしゃ)」としての絶対的(ぜったいてき)な支配(しはい)と快楽(かいらく)の侵食(しんしょく)だった。


 ファイヤードラゴンがその異様(いよう)な魔力(まりょく)を察知(さっち)し、脅威(きょうい)を感(かん)じ取(と)ったかのように、さらに巨大(きょだい)な炎(ほのお)の渦(うず)を口元(くちもと)に集中(しゅうちゅう)させる。


 これ以上(いじょう)ないほどの最大火力(さいだいかりょく)のブレスが、王国(おうこく)を一飲(ひとの)みにしようと上空(じょうくう)から放(はな)たれた。


 ドラゴンの咆哮(ほうこう)と共(とも)に放(はな)たれた紅蓮(ぐれん)の奔流(ほんりゅう)が、空間(くうかん)を焼(や)き尽(つ)くしながらシオンへと直撃(ちょくげき)する。


 凄(すさ)まじい閃光(せんこう)と爆風(ばくふう)が王都(おうと)の広場(ひろば)全体(ぜんたい)を包(つつ)み込(こ)み、あまりの熱量(ねつりょう)に周囲(しゅうい)の建物(たてもの)すらも崩壊(ほうかい)していく。


「シオン様(さま)――っ!」


 エルザが思(おも)わず悲鳴(ひめい)を上(あ)げ、リーナやルミナリアたちも息(いき)を呑(の)んでその光景(こうけい)を見(み)つめるしかなかった。


 しかし、爆煙(ばくえん)と炎(ほのお)が徐々(じょじょ)に晴(は)れていくと、そこにいたのは無傷(むきず)で立(た)ち続(つづ)けるシオンの姿(すがた)だった。


 放(はな)たれたはずの最強(さいきょう)のブレスは、シオンの周囲(しゅうい)に展開(てんかい)された不可視(ふかし)の障壁(しょうへき)によって完全(かんぜん)にねじ曲(ま)げられ、まるで無力(むりょく)な微風(びふう)のように掻(か)き消(け)されていた。


 ファイヤードラゴンは、自身(じしん)のすべてを賭(か)した攻撃(こうげき)が無力化(むりょくか)された信(しん)じがたい現実(げんじつ)を前(まえ)に、金色(こんじき)の巨大(きょだい)な瞳(ひとみ)を驚愕(きょうがく)に見開(みひら)いた。


 かつて幾多(いくた)の時代(じだい)をその暴力(ぼうりょく)と恐怖(きょうふ)で支配(しはい)し、恐(おそ)れられてきた古(いにしえ)の龍(りゅう)の誇(ほこ)り高(たか)い精神(せいしん)が、恐怖(きょうふ)ではなく別(べつ)の未知(みち)なる波動(はどう)によって揺(ゆ)らいでいく。


「お前(まえ)のその強靭(きょうじん)な肉体(にくたい)も、誇(ほこ)り高(たか)い魂(たましい)も、すべて俺(おれ)の欲望(よくぼう)の海(うみ)に沈(しず)めてやる。終(お)わりだ!」


 シオンが瞬時(しゅんじ)に距離(きょり)を詰(つ)め、空(そら)を舞(ま)うドラゴンの巨大(きょだい)な頭部(とうぶ)へと一気(いっき)に跳躍(ちょうやく)した。


 その右手(みぎて)から放(はな)たれた極限(きょくげん)の魔力(まりょく)が、ドラゴンの額(ひたい)に直接(ちょくせつ)触(ふ)れた瞬間(しゅんかん)、空間(くうかん)そのものが大(おお)きく歪(ゆが)んだ。


(あ、がっ……!? なんだ、この熱(ねつ)は……! 魂(たましい)の芯(しん)が……淫(みだ)らな快楽(かいらく)の波(なみ)に、溶(と)かされていく……っ!)


 古龍(こりゅう)の絶叫(ぜっきょう)が王都(おうと)の空(そら)に轟(とどろ)く。


 どれほど物理的(ぶつりてき)に頑丈(がんじょう)な鱗(うろこ)を持(も)っていようとも、魂(たましい)の根源(こんげん)から浸食(しんしょく)してくる「性(せい)の捕食者(ほしょくしゃ)」の絶対的(ぜったいてき)な支配(しはい)の前(まえ)には、抵抗(ていこう)する術(すべ)など存在(そんざい)しなかった。


 ドラゴンの冷徹(れいてつ)だったはずの眼光(がんこう)は瞬(またた)く間(ま)に陶酔(とうすい)の色(いろ)へと染(そ)まり、その巨体(きょたい)はまるで愛(あい)を乞(こ)う牝犬(めすいぬ)のように、力(ちから)を失(うしな)いながら震(ふる)え始(はじ)めた。


 空(そら)を覆(おお)っていた圧倒的(あっとうてき)な熱気(ねっき)とプレッシャーが嘘(うそ)のように消(き)え去(さ)り、王都(おうと)の上空(じょうくう)には再(ふたた)び穏(おだ)やかな青空(あおぞら)が戻(もど)ってきた。


 完全(かんぜん)に従順(じゅうじゅん)な下僕(げぼく)へと落(お)とされ、シオンに巨大(きょだい)な頭部(とうぶ)を擦(す)り付(つ)けるファイヤードラゴンの姿(すがた)を目(ま)の当(あ)たりにして、広場(ひろば)に集(あつ)まっていた近衛騎士(このえきし)たち、冒険者(ぼうけんしゃ)たち、そしてエルザやアルベルトたち王族(おうぞく)の面々(めんめん)は、言葉(ことば)を失(うしな)い、ただ呆然(ぼうぜん)とその光景(こうけい)を見(み)つめるしかなかった。


「ま、まさか……あの伝説(でんせつ)のファイヤードラゴンすらも、屈服(くっぷく)させてしまったというのか……」


 アルベルトが冷(ひ)や汗(あせ)を拭(ぬぐ)いながら、乾(かわ)いた笑(え)みを漏(も)らす。


 エルザは胸(むね)に手(て)を当(あ)て、安堵(あんど)と崇拝(すうはい)が入(い)り混(ま)じった熱(あつ)い瞳(ひとみ)でシオンを見上(みあ)げていた。


 魔王(まおう)を討(う)ち、牙(きば)の森(もり)の危機(きき)を退(しりぞ)け、そして王都(おうと)を襲(おそ)った最後(さいご)の脅威(きょうい)であるファイヤードラゴンすらも自(みずか)らの下僕(げぼく)へと変(か)えたシオン。


 その歩(あゆ)みはもはや誰(だれ)にも止(と)めることはできない。


 手(て)に入(い)れた圧倒的(あっとうてき)な力(ちから)と、数多(かずおお)くの美女(びじょ)や戦士(せんし)たちを引(ひ)き連(つ)れ、シオンは真(しん)の支配者(しはいしゃ)として、新(あら)たな時代(じだい)の幕(まく)を開(あ)けるのだった。






第(だい)70話(わ)へ続(つづ)く





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。