牙の森での激闘を制し、ウルフ族と豹族の絆をさらに強固なものとしたシオンの一行は、次なる目的地、王都へ向けて出発した。
魔王城の決戦から始まった旅路は、いまや途中で合流した者たちを巻き込み、壮大な規模へと拡大していた。
シオンの背後には、女魔導士リーナ、妖精族のルミナリア、ウルフ族のルナリス、フェンリルのセレナ、ダークエルフのシェリア、そして魔王軍から下僕となったサキュバスのルビリア、魔女のアルテミシア、魚人族のリヴァイアという八人の美女たちが控えている。
さらに今回の牙の森での戦いを経て、豹族の族長であるレオナが加わり、シオンを取り巻く美女たちは総勢九人となっていた。
それだけではない。
牙の森の平和を守り抜き、シオンの圧倒的な強さと慈悲深さに心酔したウルフ族と豹族の中から、選りすぐりの精鋭戦士たちが「シオン様を直接お守りする」と志願し、一行の後続として同行することになったのだ。
魔族、妖精、エルフ、人間、そして獣人という種族の壁を完全に超越した大軍勢が、王都を目指して街道を進む姿は、もはや一つの国家の行軍にも等しい威容を誇っていた。
数日の行程を経て、シオンの一行がついに|この国の心臓部である王都の近郊へと差し掛かった時、遠くの空がもうもうと立ち上る黒煙によって異様な赤みに染まっているのが見えた。
耳を澄ませば、鋼鉄がぶつかり合う音や、魔物たちの狂乱の咆哮、そして人々の悲鳴が混ざり合って風に乗ってくる。
「……どうやら、間に合ったようだな。王都の防衛線はすでに限界ギリギリのようだ」
シオンが冷徹な瞳で前方を凝視しながら呟くと、リーナやルナリスたちも武器に手をかけ、戦闘態勢へと移行する。
一行は足を緩めることなく、一気に王都の城壁へと急行した。
王都の門前、そして大通りに広がる戦場は、すでに凄まじい地獄絵図と化していた。
王都の冒険者ギルドから駆けつけた歴戦の冒険者たちと、王国の誇る直属の近衛騎士団が一体となって、無限に湧き出るかのような魔物や魔獣の群れを相手に死闘を繰り広げている。
しかし、押し寄せる魔物の数はあまりにも多く、前線を守る騎士たちの防衛線はあちこちで破られかけていた。
手負いの魔獣の突撃を受け、近衛騎士が地面に倒れ込む。
それを救おうと冒険者が飛び出すが、次なる魔物が容赦なく牙を剥く。
疲労の色が濃く滲んだ騎士や冒険者たちの表情には、恐怖と絶望の色が浮かび始めていた。
「くそっ、次から次へと……! このままでは王城の門が突破されてしまうぞ! 全員、踏み止まれ!」
近衛騎士団の副団長が血まみれになりながら大声を張り上げるが、その声にも疲労の色が隠せない。
誰もが絶望の淵に立たされたその瞬間、戦場の空気を一瞬で凍りつかせるほどの圧倒的な紫黒色の魔力光が、王城の前に閃いた。
「そこまでだ。これ以上、王都の民を傷つけることは俺が許さない」
響き渡ったシオンの静かな、しかし有無を言わせぬ威圧感を放つ声が、戦場の喧騒を完全に押し流した。
疾風の如く戦場の中央へ現れたシオンの背後から、九人の美女たちと、ウルフ族・豹族の精鋭戦士たちが一斉に展開する。
「シオン様のご命令です! 王都を脅かす愚か者どもを一匹残らず叩き潰しなさい!」
レオナが高らかに号令を上げると同時に、戦闘の火蓋が切って落とされた。
先陣を切ったのは、新たに加わった豹族とウルフ族の戦士たちだった。
優れた動体視力と俊敏な身のこなしで魔物たちの懐へ飛び込み、鋭い爪と一撃の重みで次々と魔物たちの陣形を切り崩していく。
その後方では、リーナの展開した広範囲の魔導陣が魔物たちの動きを縛り付け、ルミナリアの魔術とルナリスの戦斧が疾風の如き連撃で敵の首筋を刈り取っていく。
セレナが放つ神聖な光の矢が闇を払い、シェリアの影魔法が死角から迫る魔獣を確実に沈黙させた。
さらに、魔族であるルビリアの魅惑の術が数体の強力な魔獣を同士討ちさせ、アルテミシアの放った紅蓮の炎が群れを焼き尽くす。
リヴァイアは水流を操り、暴れる魔獣たちの足元を瞬時に凍結させて動きを封じた。
そして、シオン自身の放つ圧倒的な「性の捕食者」としての支配の波動が戦場全体を包み込む。
シオンの姿を見ただけで、一部の強力な魔獣ですら恐怖ではなく陶酔と服従に膝を折り、戦意を完全に喪失していった。
圧倒的な実力差と、完璧すぎる連携の前に、王都を蹂躙していた魔物の群れは、わずか数十分でみるみるうちに数を減らし、ついに最後の一匹となっていた巨大なオークの巨獣が、ルミナリアの一撃によって両断され、地面に崩れ落ちた。
「やった……! 魔物をすべて討ち果たしたぞ……!」
「王都が……救われた……!」
戦いを生き延びた近衛騎士たちや冒険者たちから、割れんばかりの歓喜の歓声と安堵の涙が沸き起こった。
血に染まった王都の広場に、人々の笑顔と希望が戻ったかのように思われた。
しかし、その歓喜に満ちた平穏は、あまりにも短かった。
「……待て、空の色がおかしいぞ……?」
誰かのその恐怖に満ちた呟きを合図に、王都を覆う雲が激しい熱風によって一瞬で吹き飛ばされた。
上空の裂け目から現れたのは、太陽の光を遮るほどの巨大な翼を広げた、紅蓮の鱗を持つ伝説の怪物......。
巨大なファイヤードラゴンだった。
その巨体が放つ圧倒的な熱量と殺気が、救われたばかりの王都を再び絶望の底へと突き落とそうと、ゆっくりとその翼を羽ばたかせるのだった。
第68話へ続く