【第65話】アクア・ヴェイル防衛
魔王城を制圧し、王都へ向かう道すがら、シオンの一行が最初に立ち寄ったのは、美しい水路と白亜の建物が立ち並ぶ水の都アクア・ヴェイルだった。
豊かな水の加護と美しい歌声に満ちていたこの水の都は今、魔王軍が放った数多の魔物たちによって激しい攻撃を受け、水は濁り建物は破壊され深刻な危機に瀕していた。
水の都の入り口付近では、地元のギルドに所属する冒険者たちが必死に防衛線を張っていたが、次から次へと押し寄せる凶暴な魔物の群れの前に、徐々に押し切られつつあった。
前線で剣を振るう冒険者たちの表情には、疲労の色と絶望が濃く滲んでいる。
「くそっ、数が多すぎる! このままでは都が壊滅させられてしまうぞ!」
冒険者の一人が悲鳴に似た声を上げたその時、空気を切り裂くような鋭い風圧と共に、紫黒色の魔力光が戦場の真ん中へと降り立った。
「そこまでだ。これ以上、無関係な人々の平穏を乱すことは許さない」
冷徹かつ圧倒的な存在感を放ちながら現れたのは、シオンだった。
その背後には、魔導書のページをめくるリーナ、詠唱を始めた妖精族のルミナリア、2本の戦斧を光らせるウルフ族のルナリス、神聖な加護をまとったフェンリルのセレナ、闇の術式を操るダークエルフのシェリア、そして新たにシオンの下僕となった魔族、サキュバスのルビリア、魔女のアルテミシア、魚人族のリヴァイアという八人の美女たちが完璧な陣形を組んで控えている。
「シオン様、お言葉どおりに。この都を荒らす愚か者どもには、私たちの力を見せつけてあげましょう」
ルビリアが艶めかしく微笑みながら一歩踏み出し、妖艶な魅惑の術で前方の魔物たちの動きを完全に縛り上げた。
ルビリアに動きを止められた魔物たちに対し、ルミナリアとルナリスが疾風のようなスピードで斬り込み、次々とその巨体を両断していく。
アルテミシアの放った強力な炎の魔法が魔物の群れを焼き払い、シェリアの影の術式を纏った双剣が死角から迫る敵を容赦なく貫いた。
さらに、セレナが上空から神聖な光の矢を雨のように降り注がせ、冒険者たちが守りきれなかった死角を完璧にカバーする。
圧倒的な実力差を見せつける美女たちの華麗なる連携の前に、数で勝るはずの魔物の群勢は瞬く間に圧倒され、戦意を喪失していった。
混乱する戦場の中心で、シオンはアクア・ヴェイルの守護者である歌姫フィオナの姿を見つけ、静かに歩み寄る。
美しい青のドレスを纏ったフィオナは、魔物との激しい戦いで息を切らせていたが、シオンの姿を確認すると、その瞳に驚きと安堵の色を浮かべた。
「シオン......ゎ...私は......」
フィオナは言葉が続かず泣き崩れてしまう。
「もう大丈夫だ。よく頑張ったな。あとは俺たちに任せろ」
シオンが穏やかに告げると、フィオナは胸に手を当てて深く頭を下げた。
「ありがとうございます、シオン様……! 私の歌の力だけでは、この大群を押し返すのがやっとでした。あなた様が来てくださり、心から救われました」
フィオナが美しい歌声を再び響かせようと息を整えたその時、都の水路からひときわ巨大な水棲の魔獣が凄まじい水飛沫を上げてシオンたちに襲いかかる。
その巨体から放たれる水圧の刃は、周囲の石畳をも一瞬で粉砕するほどの威力を持っていた。
「リヴァイア来い!」
シオンの声とともに現れたのは魚人族のリヴァイアだった。
「魔族!......どうして魔族が......」
シオンが後ずさるフィオナをそっと抱き寄せる。
「安心しろ彼女も俺の女だ」
「はじめましてフィオナさん私は魚人族のリヴァイア。詳しいお話は後にしてこの魔獣をなんとかしましょう。フィオナさん手伝ってくださいますか」
魔獣が再び水路から襲いかかる。
その刹那、リヴァイアの纏う水属性の魔力と、フィオナが紡ぎ出す神秘的な歌声の魔力が重なり合う。
水と歌の共鳴は瞬く間に周囲の水路一帯を包み込み、巨大な魔獣の動きを完全に封じ込める高密度な水の結界へと変化した。
「ええ、このアクア・ヴェイルを...私たちの故郷を汚す者には、容赦しません!」
フィオナの澄んだ歌声が戦場に響き渡ると同時に、リヴァイアが手にした三叉槍から放たれた極限の水流が螺旋を描きながら魔獣へと直撃した。
属性の相乗効果によって極限まで高められた水撃は、巨大な魔獣の装甲を容易く貫き、一撃の元に粉々に粉砕した。
最強の歌姫と魚人族の女王による見事なコンビネーションにより、アクア・ヴェイルを脅かしていた最後の脅威は見事に排除されたのだった。
戦闘が終わり、静けさが戻った都の広場には、シオンたちの一行と、救われた地元の冒険者たちが集まっていた。
アクア・ヴェイルの防衛と魔物の掃討は見事に成功し、都の人々は歓喜の声を上げている。
しかし、シオンが立ち止まることはなかった。
魔王の口から語られた通り、魔王軍の残党や暴走した魔物の群れは、人間界の各地へ散らばっている。
アクア・ヴェイルの復興をフィオナたちに託し、シオンは次なる目的地を見据えた。
「水の都の安全は確保した。だが、まだやるべきことは残っている。次は、牙の森に住む豹族のレオナが待つ『獣人の森』に向けて出発するぞ」
シオンの力強い号令に、八人の美女たちは満足そうな笑みを浮かべ、それぞれの武器を整えた。
アクア・ヴェイルの戦いを経て、さらに絆と支配力を深めたシオン一行は、次なる戦地である牙の森のへと歩み出すのだった。
第66話へ続く




