【第64話】そして王都へ
魔王城の最奥、漆黒の玉座の間を完全に制圧したシオンの背後には、圧倒的な力によって屈服させられ、忠実な下僕へと成り果てた魔王がひざまずいている。
かつて幾多の国家を絶望に突き落とし、世界を我が物にしようと君臨していたはずの魔王は、いまやシオンの放つ「性の捕食者」としての絶対的な快楽と支配の魔力の前に自我を溶かされ、ただ主の寵愛を乞うだけの存在へと変わり果てていた。
シオンは冷徹かつ艶やかな笑みを浮かべながら背後を振り返る。
その視線の先には、共に戦い抜いてきた女魔導士のリーナ、妖精族のルミナリア、ウルフ族の族長の娘であるルナリス、人化の力を得たフェンリルのセレナ、ダークエルフのシェリア、そして今回の戦いでシオンに魅入られ新たに下僕となったサキュバスのルビリア、魔女のアルテミシア、魚人族のリヴァイアという八人の美女たちが控えていた。
シオンが満足げにうなずこうとしたその瞬間、足元で小さく身を震わせ跪いていた魔王が、恐怖と焦燥の色を滲ませた声で声を絞り出した。
「おそれながら、シオン様……! 私を下僕とされ、この城を完全に掌握していただいたのは悦ばしい限りですが……実は、私から一つ、重大なるご報告をせねばなりません……!」
「ほう、報告だと?」
「はい……! 実は、私があなた様と相対する直前、すでに人間界に向けて数万の魔物どもを出立させてしまいました。やつらはすでに私の制御を離れ、近隣の村や街、さらには王都へと向けて狂乱の進撃を開始しているはずです……! このままでは、人間界の都市群が文字通り蹂躙されてしまいます……!」
その魔王の言葉を聞き、シオンの傍らに控えていたリーナやルミナリアたちがわずかに眉をひそめた。
「なんですって……? 王都が危ないわね。魔王を倒したからといって、すでに放たれた軍勢が勝手に消えるわけではないか......なんてことしてくれてるのよ!」
リーナがシオンの顔色をうかがう。
「ふん、のんびり余韻に浸っている暇はなさそうだな。人間界が滅びる前に、俺たちがその軍勢を叩き潰さなきゃならないってわけだ」
シオンは腕を組み、冷徹かつ鋭い瞳で状況を分析する。
「放置すれば人間界が全滅しかねん。魔王軍の残党が王都へ到達する前に、我々も動き出す必要がある。まずは一度、北方にある氷雪の街『フロスト・ヘイム』に戻るぞ。あそこに残して来た仲間たちとも合流しなければならん。ルビリア、アルテミシア、リヴァイア、お前たちも着いてこい」
「シオン様、我々はどうすれば......」
魔王が恐る恐る口をひらく。
「お前たちはここで待っていろ!さすがに魔王は連れて戻れん。......ガルガロス、ヴァルグリム、ネクロス、魔王を頼んだぞ!」
シオンの一声により、一行は魔王城を後にし、急ぎフロスト・ヘイムへと向かうことになった。
要塞船を降り、険しい雪道を越え、街の北方にそびえる氷城の門をくぐる。
宿に着くと、そこには留守番を任されていた会計係のイリスと、氷城の巫女サクヤの姿があった。
シオンたちが無事に帰還した姿を見た二人は、これまでの不安や緊張が嘘のように解けたかのように表情をパッと明るくさせ、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「シオン様! 皆さん……っ! 無事に戻ってきてくださったのですね! よかったです、本当に、本当に心配していました……!」
イリスが胸を撫で下ろし、安堵の涙を瞳に浮かべながらシオンの腕に駆け寄る。
サクヤもまた、ホッとしたように小さく息をつき、その美しい顔に優しい笑みを浮かべた。
「お帰りなさい、シオン様。無事で何よりです……。私たちの祈りが届いたのですね」
しかし、その直後だった。
イリスとサクヤの視線が、シオンの後方に控える者たちへと移った瞬間、二人の動きがピタリと止まった。
シオンの後ろには、敵対していたはずの魔族!サキュバスのルビリア、魔女のアルテミシア、魚人族のリヴァイアの三人が、なぜか艶めかしい笑みを浮かべ、シオンにベッタリと寄り添っていたからだ。
「ちょっと、シオン様……? どうしてそんな危険な魔族の女たちが後ろにいるんですか? しかもなんだか、すごく馴れ馴れしく腕にしがみついていませんこと……!?」
イリスがほおを大きく膨らませ、不満そうに抗議の声をあげる。
サクヤもまた、じっと鋭い視線をルビリアたちに向けながら、呆れたようなため息をついた。
「まったく……シオン様は相変わらずですね。またこうして、戦いのたびに勝手に新しい女を連れて帰ってくるんですから。私たちの苦労も知らないで……」
「ふふっ、いいじゃありませんか。私たちはもうシオン様の最高の下僕であり、その愛に溺れる可愛い玩具なんですからね。ねえ、そうでしょう?」
ルビリアが妖艶に微笑みながらシオンの腕にふくよかな胸元を押し当てると、イリスはさらに顔を引きつらせ、頬を赤らめて怒りをあらわにする。
しかし、シオンはそんな彼女たちの小競り合いを軽く受け流し、すぐに険しい表情へと戻って告げた。
「のんきに言い合っている暇はない。魔王軍の残党がすでに人間界へ向けて進軍している。王都に向かわせたエルザとアルベルトのことも心配だ!俺たちはこれより、王都を救うために出発するぞ」
その重みのある言葉に、リーナやルナリスたちはすぐに戦闘態勢へと気持ちを切り替え、イリスとサクヤも険しい表情をしながらも力強くうなずいた。
新たな仲間と元敵の下僕たちを従え、シオンは差し迫った危機を退けるため、王都へ向けて力強く歩み出すのだった。
第65話へ続く




