【第61話】最後の四天王落ちる
パキパキと高い音を立てて崩壊していく漆黒の鎧の破片が、冥府の谷の冷たい地面へと転がっていく。
最強と謳われた執行者の胸当ての奥深くへと突き刺されたシオンの指先からは、禍々しくも甘美な紫黒色の魔力オーラが絶間なく流出していた。
それは「性の捕食者」としての絶対的な支配の力であり、あらゆる防壁を融解させる快楽の奔流だった。
「ひ、ぎぅあぁぁぁっ……!? 熱い、魂の芯が、灼かれる……! 我が……我が純粋なる死の概念が、このような不浄な生に、塗り潰されるなど……!」
感情を排していたはずの執行者ネクロスの声は、いまや抑えきれない快楽の衝撃と、自身の根源を書き換えられる絶望によって激しく震えていた。
鎧が完全に弾け飛ぶと、その中から現れたのは、蒼白い魂の炎で形成された肉体を持つ、驚くほど端正で線の細い美しき武人の精神体だった。
しかし、その清廉な精神体も、シオンの指先から伝わる快楽の泥にまみれ、じわじわと淫らな紫黒色へと染まりつつある。
「クフフ、心地よいだろう? お前が拠所にしていた冷徹な死など、俺の放つ圧倒的な生の前ではただのうたた寝に過ぎん。ほら、もっとその魂を震わせて、俺の征服欲を満たしてみせろ」
シオンは冷酷に微笑みながら、突き刺した指先をさらに深く、精神核の奥へと捩り込んでいく。
その瞬間、ネクロスの精神核へと「性の捕食者」の絶対的な紋章が焼き付けられた。
最強の武人としての誇りは快楽の暴力によって瞬時に粉砕され、その蒼白い瞳は瞬く間に陶酔の光へと塗り替えられていく。
かつて魔王城の絶対的な門番として君臨していた執行者が、いまやシオンの足元に力なく崩れ落ち、己の精神体を艶めかしくくねらせながら、その脚元へ這いつくばって許しを乞う。
その光景を、シオンの背後に控える八人の美女たちが、それぞれの感情を宿した瞳で見つめていた。
「さすが、シオンね。魔王軍最強の武人すらも、あなたの前ではただの子供に過ぎないわね」
リーナが深い敬愛に満ちた視線をシオンへと向ける。
その隣では、妖精族ルミナリアが、傲慢な笑みを浮かべてネクロスを見下ろしていた。
「本当ね。あれだけ大口を叩いておいて、シオン様の指先一つでこれほど無様に堕ちるなんて。でも、これで本当に四天王は全滅。いよいよ魔王城の喉元ね」
「ふん、当然の結果よ。シオン様の愛の素晴らしさを知れば、死人だろうと何だろうと抗えるはずがないわ」
ウルフ族ルナリスが勝ち誇ったように胸を張る。
その豊満な胸が揺れるのを横目に、サキュバスのルビリアが嫉妬を煽るようにシオンの腕へと自らの双丘を擦り付けた。
「クフフ、私の愛欲の術式が効いたのも、シオン様から注がれた極上の魔力のおかげですわ。ねえ、シオン様? この後、あの新しい下僕も交えて、もっと私を内側から満たしてくださいませ……?」
ルビリアの挑発的な言葉に、魔女アルテミシアが陶酔した表情でシオンのもう片方の手を両手でそっと握りしめる。
「ルビリア、シオン様を煩わせるものではありません。アルテミシアはいつでも、あなた様がその高貴な渇きを癒すための器として、お側でお待ちしております」
「アルテミシアの言う通りです……。シオン様、お疲れではございませんか? 私の神聖魔術で、あなた様のお身体を極上の快楽とともに癒して差し上げます」
人化したフェンリルのセレナが銀色の髪を揺らしながら歩み寄り、慈愛に満ちた、しかしどこか狂信的な瞳でシオンを見める。
その背後からは、エルフのシェリアが潤んだ瞳をさらに潤ませ、シオンの服の裾を控えめに掴みながらコクコクと深く頷いていた。
「シェリアも……シェリアもシオン様のお役に立ちたいです……。どんな汚れ仕事でも、あなた様のためなら、この命のすべてを喜んで捧げます……っ」
そして、魚人族のリヴァイアが、艶やかな身体をシオンの背中へとぴったりと寄り添い、その首筋に甘えるように息を吹きかける。
「シオン様……この冥府の谷の奥にある魔王城へ行くには、このネクロスの力も必要ですが......でも、一番にあなた様に愛されるのは、私ですよね……?」
八人の美女たちからの狂おしいほどの寵愛と独占欲を向けられながら、シオンは足元で恍惚に震えるネクロスの背中を乱暴に踏みつけた。
ネクロスはそれすらも極上の愛撫であるかのように、背中を反らせて甘い悲鳴を上げる。
「クフフ、良い鳴き声だ。ネクロス、お前のその『死』を切り裂く大鎌と権能、これからは魔王城の結界を概念ごと噛み砕くための最高の牙になってもらう。それまでは精々、俺のためにその精神体を震わせていろ」
「はっ……御心のままに、我が絶対の主様……!」
ネクロスはシオンの靴を舐めるようにして平伏した。
これで魔王軍四天王は完全にシオンの下僕へと成り下がり、彼の飽くなき支配欲の肥やしとなったのだ。
「素晴らしいわ、シオン様、これで世界は完全にあなた様のものになりますね」
アルテミシアが歓喜に瞳を輝かせる。
シオンは黒石の門を見上げ、その奥に眠る魔王の莫大な魔力と、それを奪い尽くした後に手に入る真の絶対支配の快感を思い描き、喉の奥で低く笑った。
「行くぞ、お前たち。魔王という最後の玩具を、俺たちの欲望の海へと沈めてやる」
「はっ!!」
八人の美女たち、そして完全に理性を奪われたフレアロード、泥状から少年の姿へと固定されたファントムロード、そして新たに下僕となった執行者ネクロスが、一斉に歓喜と興奮に震えながら平伏する。
黒石の門が、シオンの放つ圧倒的な紫黒色の覇気によって内側から爆散し、魔王城へと続く最後の道が開かれた。
無敵の軍勢を引き連れ、絶対の捕食者シオンは、世界の頂点へと歩みを進めるのだった。
第 62話へ続く




