黒石の門が内側から爆散し、微粒子と化した破片が紫黒色の奔流に乗って四散していく。
その向こう側に広がっていたのは、太陽の光すら届かない永遠の黄昏に包まれた、禍々しくも圧倒的な威容を誇る魔王城の中庭だった。
空には血を思わせる深紅の月が浮かび、冷たい霧が地面を這うように流れている。
シオンは背後に控える無敵の軍勢を見返り、冷酷な笑みを浮かべた。
その後ろには、かつての冷徹さを完全に失い、ただ主の寵愛を乞う下僕と成り果てた執行者が這いつくばっている。
「よく見ろ、ここが最後の城だ。お前たちが束になっても守り抜けなかった、絶望の巣窟だ」
シオンが低く告げると、八人の美女たちはそれぞれに艶めかしい笑みを浮かべ、あるいは闘志を燃え上がらせてうなずいた。
リーナは魔導書を軽く開き、城内から漏れ出す魔力の潮流を冷静に分析し始めている。
「シオン、城の内部から強い魔力の反応を感じるわ。どうやら魔王は最奥の間で、私たちを待ち構えているんだわ」
「ふん、待っていたところで結果は同じよ。一族の怨み込めて魔王の鼻を明かし、シオン様の足元にひざまずかせてあげるわ」
シェリアが双剣を構え、先陣を切るように一歩踏み出す。
その隣ではルナリスが戦斧を構え、不敵な笑みを浮かべていた。
シオンたちは城の正門を潜り抜け、重厚な石造りの回廊へと足を踏み入れる。
そこはかつて魔王軍の精鋭たちが守りを固めていた難所だったはずだが、いまやシオンの放つ圧倒的な「性の捕食者」としての覇気と、四天王たちの調伏された魔力が充満しており、侵入者を拒む気配は微塵もない。
「シオン様、お体が冷えては大変です。私の結界で、常に心地よい温もりを維持して差し上げます」
セレナが優雅に歩み寄りながらシオンの腕にそっと触れ、信奉に満ちた瞳を向ける。
その反対側からは、リヴァイアが艶やかな胸を揺らしながら寄り添い、甘い吐息を落としていた。
「ねえシオン様、最奥にいる魔王を倒したら、その次は私たちをたっぷり可愛がってくれますよね? この城のすべてを、私たちの愛で満たしましょう?」
「クフフ、心配せずとも、お前たちの欲望を満たし尽くすだけの時間は十分に用意してある。魔王という最後の玩具を壊し尽くした後のご褒美だ、期待しておけ」
シオンのその言葉に、ルビリアやアルテミシア、シェリアを含む全員が歓喜の震えを覚えたように頬を染め、一層激しい独占欲を瞳に宿す。
回廊を抜けた先には、幾重もの魔法陣が刻まれた巨大な大扉がそびえ立っていた。
そここそが、魔王が君臨する玉座の間へと続く最後の関門です。
執行者ネクロスは震える声でその大扉を見上げて甲高い声で告げた。
「あぁ、我が絶対の主様……! あの扉の向こうには、かつて私ですら近寄ることを許されなかった魔王の玉座がございます。ですが、今の主様の御前では、あのような結界など紙屑同然……!」
「ああ、知っている。見るがいい、俺の力でその扉をこじ開けてやろう」
シオンが右手を掲げると、その指先から渦巻くような紫黒色の魔力オーラが膨れ上がった。
それは周囲の空間を歪め、概念そのものを侵食するほどの濃厚な快楽と支配の奔流だった。
シオンが指先を振り下ろした瞬間、大扉に刻まれていた幾重もの結界が、悲鳴を上げるようにメキメキと音を立てて亀裂が走っていく。
物理的な衝撃ではなく、存在そのものを書き換えられるような侵食によって、強固な防壁は数秒も持たずに粉々に砕け散った。
砕け散った扉の向こうから、圧倒的な質量を持つ王者の魔力が押し寄せてくる。
しかし、シオンはその威圧を鼻で笑い飛ばし、一歩も引くことなく堂々とその中へと歩みを進めた。
玉座の間の最奥、漆黒の玉座に腰掛けていたのは、世界を震え上がらせてきた魔王であだった。
しかし、その表情にはかつての絶対的な威厳はなく、侵入してきたシオンの放つあまりにも異質な、そして底知れない快楽の気配を目の当たりにして、わずかに動揺の色が浮かんでいる。
「……お前が、我が四天王を次々と屠り、ここまで辿り着いたという人間の男か。ただの異物ではないな、貴様はいったい……何者だ」
魔王が重く低い声で問いかける。
その眼光は鋭く、全身から噴き出す魔力は確かに圧倒的なものだったが、シオンの唇には冷ややかな余裕の笑みが貼り付いていた。
「俺か? 俺はただの、ホストさ!お前のような存在を含めて、この世界のすべてを味わい尽くす者だ。『性の捕食者』として、お前のその強大な魔力も、誇りも、すべてを俺の欲望の海に沈めてやる」
シオンが告げた瞬間、空間の温度が急激に跳ね上がり、八人の美女たちと下僕たちが一斉に殺意と狂おしいほどの愛執を込めた視線を魔王へと向けた。
魔王は己の身に迫る異様な気配を察知し、初めて真の意味での恐怖を覚えたように立ち上がろうとする。
しかし、すでにシオンが放った紫黒色の網は玉座の間全体を完全に覆い尽くしており、逃げ場などどこにも残されていなかった。
「さあ、最後の営業の時間だ。泣き叫ぼうとも、俺の腕の中で永遠に溺れるがいい」
シオンの号令とともに、世界を揺るがす最後の決戦が、淫らで圧倒的な熱量を伴って幕を開けようとしていた。
第63話へ続く