爆炎の魔宮での濃厚な儀式を終えたシオンと七人の美女たちは、火炎公爵フレアロードを要塞の番犬、そして新たなる忠実な盾として従え、次なる目的地へと移動していた。
リーナの正確な案内によって導かれた先は、焦熱の火山地帯とは真逆の性質を持つ、漆黒の海原。
四天王が一人、海王リヴァイアが統治する『深海の大結界』。
その海原は不気味なほどに静まり返り、月明かりさえも吸い込むような深い藍色に染まっている。
だが、その海面下からは、並の船であれば一瞬で圧壊させるほどの凄まじい水圧と、何重にも張り巡らされた巨大な結界の魔力が放出されていた。
リヴァイアは、火山地帯が僅か数日で陥落したという報告を受け、すでに最高レベルの警戒態勢を敷いていたのだ。
「水の障壁か。燃え盛る炎の次は、全てを拒絶する深海というわけだな」
シオンは眼下の海を見下ろし、不敵に鼻で笑う。
その隣には、シオンの腕に、我先にと絡みつく美女たちの姿があった。
「シオン様、あのような貧弱な結界、私の光翼の刃で一刀両断にして差し上げましょうか?」
アルテミシアが、潤んだ瞳でシオンを見上げる。
彼女の肉体は、火山地帯での交わりを経てシオンの濃厚な魔力を完全に馴染ませ、以前よりも放つオーラが禍々しく、そして強大に変貌していた。
「いいえ、アルテミシア。ここは私の魔力と爆炎の要塞の出力を合わせて遠距離攻撃が最も効率的です」
リーナが、淡々と進言する。
「リヴァイアの結界は外からの物理衝撃には無敵でしょうが、魔族の魔力を同調させれば、内側から容易に腐食させることができます。特に、今の我が要塞にはフレアロードの全魔力が直結していますから」
「よし、リーナ、お前に任せる。あの海を、その力でどろどろに染め上げてやれ」
「了解よ、シオン」
リーナが魔道書に指を滑らせると、爆炎の要塞から一筋の閃光が発射される。
そこへ、精神を完全に破壊されたフレアロードの、狂ったような火炎魔力が強制的に注ぎ込まれていく。
リーナの魔力とフレアロードの熱が融合した超高密度の魔力が、海面に向かって一斉に照射された。
轟音と共に、照射された紫黒色の閃光が海へと突き刺さる。
次の瞬間、海水が激しく沸騰し、絶対に破られないと謳われた海王の結界が、ガラスが割れるような音を立てて次々と崩壊していく。
それだけではない。
リーナが放った魔力には、シオンの「性の捕食者」の波動が組み込まれており、純粋だった海水が、触れる者を狂わせる淫靡な性の毒水へと急速に変貌を始めていた。
「な、何事だ……!? 我が誇る絶対結界が、これほど容易く破られるとは……!」
沸き立つ海原の底から、無数の水飛沫を上げて姿を現したのは、巨大な三叉槍を携え、下半身が強靭な魚尾となった美しき魚人族の女王、海王リヴァイアであった。
四天王の中でも随一の魔力量を誇る彼女は、自慢の結界を無惨に汚され、怒りと驚愕でその顔を歪めていた。
彼女の背後には、数万を超える魚人の魔兵や、深海の巨大魔獣『クラーケン』の軍勢が、殺気立って控えている。
「よもや、フレアロードまで人間の奴隷に成り下がったか! 誇り高き魔族の面汚しめが!」
リヴァイアは、要塞の傍らで虚ろな目で佇むフレアロードを見て、激しい嫌悪感を露わにした。
そして、そのすべての元凶である甲板の男、シオンを鋭く睨みつける。
「人間風情が、調子に乗るのもここまでだ! 我が深海の藻屑となりて、悔いるが良い!」
「吠えるな、魚風情が。その鱗が、俺の魔力でどれほど淫らな色に染まるか、今から楽しみだ」
シオンが指を鳴らすと、美女たちが一斉に動き出す。
「さあ、海のゴミ掃除を始めましょう」
ルビリアが、海面に向かって制圧の魔眼を放つ。
彼女の放つ魅了の波は、海水を通じて瞬時に広がり、リヴァイアの足元にいた巨大魔獣クラーケンたちの脳髄を直撃した。
「ギガァァァッ!?」
悲鳴を上げた魔獣たちは、即座に理性を失い、主であるはずのリヴァイアの軍勢に向けて、その巨大な触手を振り下ろし始めた。
同士討ちの凄まじいぶつかり合いが、深海を瞬く間に赤く染めていく。
「あはは! 水の中って、私の魔導弾がよく響いて楽しいかも!」
ルミナリアが海中に数千の魔導陣を展開した。
放たれた不気味な紫黒色の魔導弾は、水中で次々と炸裂し、魚人族の兵士たちを肉体ごと内側から融解させていく。
シオンの毒を孕んだ爆発に巻き込まれた魔兵たちは、恐怖ではなく、脳を灼くような強烈な快楽の絶叫を上げながら、海の底へと沈んでいった。
ルナリスの拳が水圧を無視して海を引き裂き、シェリアの双剣が光の届かぬ海底で敵の首を次々と刈り取る。
セレナから放たれた呪縛の波動は、リヴァイアの近衛兵たちの動きを完全に封じ込め、ただの的に変えていた。
「バ、バカな……我が深海の精鋭たちが、たったこれだけの時間で……!」
リヴァイアは、目の前で繰り広げられる地獄絵図に、全身の血が凍りつくような恐怖を覚えた。
数万の軍勢が、文字通り塵のように消え去っていく。
そして、その戦場を支配しているのは、ただの破壊ではなく、全ての存在を強制的に屈服させ、自らの玩具へと変えようとする、底知れない「支配」の意思だった。
「次はお前の番だ、リヴァイア」
いつの間にか、シオンが水面の上に音もなく立っていた。
彼の周囲の海水は、完全に性の毒水へと変貌し、シオンの意のままに脈動している。
「お、おのれぇぇッ! 我は海王! 四天王が一人リヴァイアなるぞ! 人間に屈することなど、断じてあってはならんのだぁぁッ!」
リヴァイアはプライドを振り絞り、三叉槍を天に掲げた。
深海の全ての水流が集約され、シオンを圧殺せんと巨大な水の竜巻が立ち昇る。
一国の全土を海の底に沈めるほどの、天災級の一撃。
しかし、シオンは避ける仕草すら見せず、ただ冷酷な愉悦の笑みを浮かべて右手を伸ばした。
「無駄だと言っているのが、まだ分からんようだな」
シオンの指先から放たれた一筋の漆黒の魔力が、リヴァイアの最大級の一撃を正面から貫き、彼女の持つ三叉槍を粉々に砕いた。
その衝撃波と共に、シオンの濃密な「支配の魔力」が、リヴァイアの肉体へと直接突き刺さる。
「あ、が……はっ!? な、何だ、これは……身体が、熱い、……っ!?」
海王リヴァイアの、誇り高き陥落の序曲が、今ここに始まった。
第54話へ続く