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ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


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【第53話】深海の戦い


 爆炎(ばくえん)の魔宮(まきゅう)での濃厚(のうこう)な儀式(ぎしき)を終(お)えたシオンと七人(ななにん)の美女(びじょ)たちは、火炎公爵(かえんこうしゃく)フレアロードを要塞(ようさい)の番犬(ばんけん)、そして新(あら)たなる忠実(ちゅうじつ)な盾(たて)として従(したが)え、次(つぎ)なる目的地(もくてきち)へと移動(いどう)していた。


 リーナの正確(せいかく)な案内(あんない)によって導(みちび)かれた先(さき)は、焦熱(しょうねつ)の火山地帯(かざんちたい)とは真逆(まぎゃく)の性質(せいしつ)を持(も)つ、漆黒(しっこく)の海原(うなばら)。


 四天王(してんのう)が一人(ひとり)、海王(かいおう)リヴァイアが統治(とうち)する『深海(しんかい)の大結界(だいけっかい)』。


  その海原(うなばら)は不気味(ぶきみ)なほどに静(しず)まり返(かえ)り、月明(つきあ)かりさえも吸(す)い込(こ)むような深(ふか)い藍色(あいいろ)に染(そ)まっている。


 だが、その海面(かいめん)下(か)からは、並(なみ)の船(ふね)であれば一瞬(いっしゅん)で圧壊(あっかい)させるほどの凄(すさ)まじい水圧(すいあつ)と、何重(なんじゅう)にも張(は)り巡(めぐ)らされた巨大(きょだい)な結界(けっかい)の魔力(まりょく)が放出(ほうしゅつ)されていた。


 リヴァイアは、火山地帯(かざんちたい)が僅(わず)か数(すう)日(じつ)で陥落(かんらく)したという報告(ほうこく)を受(う)け、すでに最高(さいこう)レベルの警戒(けいかい)態勢(たいせい)を敷(し)いていたのだ。


「水(みず)の障壁(しょうへき)か。燃(も)え盛(さか)る炎(ほのお)の次(つぎ)は、全(すべ)てを拒絶(きょぜつ)する深海(しんかい)というわけだな」


 シオンは眼下(がんか)の海(うみ)を見下(みお)ろし、不敵(ふてき)に鼻(はな)で笑(わら)う。


 その隣(となり)には、シオンの腕(うで)に、我先(われさき)にと絡(から)みつく美女(びじょ)たちの姿(すがた)があった。


「シオン様(さま)、あのような貧弱(ひんじゃく)な結界(けっかい)、私(わたし)の光翼(こうよく)の刃(やいば)で一刀(いっとう)両断(りょうだん)にして差(さ)し上(あ)げましょうか?」


 アルテミシアが、潤(うる)んだ瞳(ひとみ)でシオンを見上(みあ)げる。


 彼女(かのじょ)の肉体(にくたい)は、火山地帯(かざんちたい)での交(まじ)わりを経(へ)てシオンの濃厚(のうこう)な魔力(まりょく)を完全(かんぜん)に馴染(なじ)ませ、以前(いぜん)よりも放(はな)つオーラが禍々(まがまが)しく、そして強大(きょうだい)に変貌(へんぼう)していた。


「いいえ、アルテミシア。ここは私(わたし)の魔力(まりょく)と爆炎(ばくえん)の要塞(ようさい)の出力(しゅつりょく)を合(あ)わせて遠距離攻撃(えんきょりこうげき)が最(もっと)も効率(こうりつ)的(てき)です」


 リーナが、淡々(たんたん)と進言(しんげん)する。


「リヴァイアの結界(けっかい)は外(そと)からの物理(ぶつり)衝撃(しょうげき)には無敵(むてき)でしょうが、魔族(まぞく)の魔力(まりょく)を同調(どうちょう)させれば、内側(うちがわ)から容易(ようい)に腐食(ふしょく)させることができます。特(とく)に、今(いま)の我(わ)が要塞(ようさい)にはフレアロードの全魔力(ぜんまりょく)が直結(ちょっけつ)していますから」


「よし、リーナ、お前(まえ)に任(まか)せる。あの海(うみ)を、その力(ちから)でどろどろに染(そ)め上(あ)げてやれ」


「了解(りょうかい)よ、シオン」


 リーナが魔道書(まどうしょ)に指(ゆび)を滑(すべ)らせると、爆炎(ばくえん)の要塞(ようさい)から一筋《ひとすじ》の閃光(せんこう)が発射(はっしゃ)される。


 そこへ、精神(せいしん)を完全(かんぜん)に破壊(はかい)されたフレアロードの、狂(くる)ったような火炎(かえん)魔力(まりょく)が強制(きょうせい)的(てき)に注(そそ)ぎ込(こ)まれていく。


  リーナの魔力(まりょく)とフレアロードの熱(ねつ)が融合(ゆうごう)した超(ちょう)高密度(こうみつど)の魔力(まりょく)が、海面(かいめん)に向(む)かって一斉(いっせい)に照射(しょうしゃ)された。


 轟音(ごうおん)と共(とも)に、照射(しょうしゃ)された紫黒色(しこくしょく)の閃光(せんこう)が海(うみ)へと突(つ)き刺(さ)さる。


 次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)、海水(かいすい)が激(はげ)しく沸騰(ふっとう)し、絶対(ぜったい)に破(やぶ)られないと謳(うた)われた海王(かいおう)の結界(けっかい)が、ガラスが割(わ)れるような音(おと)を立(た)てて次々(つぎつぎ)と崩壊(ほうかい)していく。


 それだけではない。


 リーナが放(はな)った魔力(まりょく)には、シオンの「性(せい)の捕食者(ほしょくしゃ)」の波動(はどう)が組(く)み込(こ)まれており、純粋(じゅんすい)だった海水(かいすい)が、触(ふ)れる者(もの)を狂(くる)わせる淫靡(いんび)な性(せい)の毒水(どくすい)へと急速(きゅうそく)に変貌(へんぼう)を始(はじ)めていた。


「な、何事(なにごと)だ……!? 我(われ)が誇(ほこ)る絶対(ぜったい)結界(けっかい)が、これほど容易(たやす)く破(やぶ)られるとは……!」


 沸(わ)き立(た)つ海原(うなばら)の底(そこ)から、無数(むすう)の水飛沫(みずしぶき)を上(あ)げて姿(すがた)を現(あらわ)したのは、巨大(きょだい)な三叉槍(みつまたやり)を携(かま)え、下半身(かはんしん)が強靭(きょうじん)な魚尾(ぎょび)となった美(うつく)しき魚人族(ぎょじんぞく)の女王(じょおう)、海王(かいおう)リヴァイアであった。


 四天王(してんのう)の中(なか)でも随一(ずいいち)の魔力量(まりょくりょう)を誇(ほこ)る彼女(かのじょ)は、自慢(じまん)の結界(けっかい)を無惨(むざん)に汚(よご)され、怒(いか)りと驚愕(きょうがく)でその顔(かお)を歪(ゆが)めていた。


 彼女(かのじょ)の背後(はいご)には、数万(すうまん)を超(こ)える魚人(ぎょじん)の魔兵(まへい)や、深海(しんかい)の巨大(きょだい)魔獣(まじゅう)『クラーケン』の軍勢(ぐんぜい)が、殺気立(さっきだ)って控(ひか)えている。


「よもや、フレアロードまで人間(にんげん)の奴隷(どれい)に成(な)り下(さ)がったか! 誇(ほこ)り高(たか)き魔族(まぞく)の面汚(つらよご)しめが!」


 リヴァイアは、要塞(ようさい)の傍(かたわ)らで虚(うつ)ろな目(め)で佇(たたず)むフレアロードを見(み)て、激(はげ)しい嫌悪感(けんおかん)を露(あら)わにした。


 そして、そのすべての元凶(げんきょう)である甲板(かんぱん)の男(おとこ)、シオンを鋭(するど)く睨(にら)みつける。


「人間(にんげん)風情(ふぜい)が、調子(ちょうし)に乗(の)るのもここまでだ! 我(わ)が深海(しんかい)の藻屑(もくず)となりて、悔(く)いるが良(よ)い!」


「吠(ほ)えるな、魚(さかな)風情(ふぜい)が。その鱗(うろこ)が、俺(おれ)の魔力(まりょく)でどれほど淫(みだ)らな色(いろ)に染(そ)まるか、今(いま)から楽(たの)しみだ」


 シオンが指(ゆび)を鳴(な)らすと、美女(びじょ)たちが一斉(いっせい)に動(うご)き出(だ)す。


「さあ、海(うみ)のゴミ掃除(そうじ)を始(はじ)めましょう」


 ルビリアが、海面(かいめん)に向(む)かって制圧(せいあつ)の魔眼(まがん)を放(はな)つ。


 彼女(かのじょ)の放(はな)つ魅了(みりょう)の波(なみ)は、海水(かいすい)を通(つう)じて瞬時(しゅんじ)に広(ひろ)がり、リヴァイアの足元(あしもと)にいた巨大(きょだい)魔獣(まじゅう)クラーケンたちの脳髄(のうずい)を直撃(ちょくげき)した。


「ギガァァァッ!?」


 悲鳴(ひめい)を上(あ)げた魔獣(まじゅう)たちは、即座(そくざ)に理性(りせい)を失(うしな)い、主(あるじ)であるはずのリヴァイアの軍勢(ぐんぜい)に向(む)けて、その巨大(きょだい)な触手(しょくしゅ)を振(ふ)り下(お)ろし始(はじ)めた。


 同士討(どうしう)ちの凄(すさ)まじいぶつかり合(あ)いが、深海(しんかい)を瞬(またた)く間(ま)に赤(あか)く染(そ)めていく。


「あはは! 水(みず)の中(なか)って、私(わたし)の魔導弾(まどうだん)がよく響(ひび)いて楽(たの)しいかも!」


 ルミナリアが海中(かいちゅう)に数千(すうせん)の魔導陣(まどうじん)を展開(てんかい)した。


 放(はな)たれた不気味(ぶきみ)な紫黒色(しこくしょく)の魔導弾(まどうだん)は、水中(すいちゅう)で次々(つぎつぎ)と炸裂(さくれつ)し、魚人族(ぎょじんぞく)の兵士(へいし)たちを肉体(にくたい)ごと内側(うちがわ)から融解(ゆうかい)させていく。


 シオンの毒(どく)を孕(はら)んだ爆発(ばくはつ)に巻(ま)き込(こ)まれた魔兵(まへい)たちは、恐怖(きょうふ)ではなく、脳(のう)を灼(や)くような強烈(きょうれつ)な快楽(かいらく)の絶叫(ぜっきょう)を上(あ)げながら、海(うみ)の底(そこ)へと沈(しず)んでいった。


 ルナリスの拳(こぶし)が水圧(すいあつ)を無視(むし)して海(うみ)を引(ひ)き裂(さ)き、シェリアの双剣(そうけん)が光(ひかり)の届(とど)かぬ海底(かいてい)で敵(てき)の首(くび)を次々(つぎつぎ)と刈(か)り取(と)る。


 セレナから放(はな)たれた呪縛(じゅばく)の波動(はどう)は、リヴァイアの近衛兵(このえへい)たちの動(うご)きを完全(かんぜん)に封(ふう)じ込(こ)め、ただの的(まと)に変(か)えていた。


「バ、バカな……我(わ)が深海(しんかい)の精鋭(せいえい)たちが、たったこれだけの時間(じかん)で……!」


 リヴァイアは、目(め)の前(まえ)で繰(く)り広(ひろ)げられる地獄(じごく)絵図(えず)に、全身(ぜんしん)の血(ち)が凍(こお)りつくような恐怖(きょうふ)を覚(おぼ)えた。


 数万(すうまん)の軍勢(ぐんぜい)が、文字通(もじどお)り塵(ちり)のように消(き)え去(さ)っていく。


 そして、その戦場(せんじょう)を支配(しはい)しているのは、ただの破壊(はかい)ではなく、全(すべ)ての存在(そんざい)を強制(きょうせい)的(てき)に屈服(くっぷく)させ、自(みずか)らの玩具(おもちゃ)へと変(か)えようとする、底知(そこしれ)れない「支配(しはい)」の意思(いし)だった。


「次(つぎ)はお前(まえ)の番(ばん)だ、リヴァイア」


 いつの間(ま)にか、シオンが水面(すいめん)の上(うえ)に音(おと)もなく立(た)っていた。


 彼(かれ)の周囲(しゅうい)の海水(かいすい)は、完全(かんぜん)に性(せい)の毒水(どくすい)へと変貌(へんぼう)し、シオンの意(い)のままに脈動(みゃくどう)している。


「お、おのれぇぇッ! 我(われ)は海王(かいおう)! 四天王(してんのう)が一人(ひとり)リヴァイアなるぞ! 人間(にんげん)に屈(くっ)することなど、断(だん)じてあってはならんのだぁぁッ!」


 リヴァイアはプライドを振(ふ)り絞(しぼ)り、三叉槍(みつまたやり)を天(てん)に掲(かか)げた。


 深海(しんかい)の全(すべ)ての水流(すいりゅう)が集約(しゅうやく)され、シオンを圧殺(あっさつ)せんと巨大(きょだい)な水(みず)の竜巻(たつまき)が立(た)ち昇(のぼ)る。


 一国(いっこく)の全土(ぜんど)を海(うみ)の底(そこ)に沈(しず)めるほどの、天災(てんさい)級(きゅう)の一撃(いちげき)。


 しかし、シオンは避(さ)ける仕草(しぐさ)すら見(み)せず、ただ冷酷(れいてつ)な愉悦(ゆえつ)の笑(え)みを浮(う)かべて右手(みぎて)を伸(の)ばした。


「無駄(むだ)だと言(い)っているのが、まだ分(わ)からんようだな」


 シオンの指先(ゆびさき)から放(はな)たれた一筋(ひとすじ)の漆黒(しっこく)の魔力(まりょく)が、リヴァイアの最大級(さいだいきゅう)の一撃(いちげき)を正面(しょうめん)から貫(つらぬ)き、彼女(かのじょ)の持(も)つ三叉槍(みつまたやり)を粉々(こなごな)に砕(くだ)いた。


 その衝撃波(しょうげきは)と共(とも)に、シオンの濃密(のうみつ)な「支配(しはい)の魔力(まりょく)」が、リヴァイアの肉体(にくたい)へと直接(ちょくせつ)突(つ)き刺(さ)さる。


「あ、が……はっ!? な、何(なん)だ、これは……身体(からだ)が、熱(あつ)い、……っ!?」


 海王(かいおう)リヴァイアの、誇(ほこ)り高(たか)き陥落(かんらく)の序曲(じょきょく)が、今(いま)ここに始(はじ)まった。




第(だい)54話(わ)へ続(つづ)く





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