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ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


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【第51話】焦熱の支配者


 プログレスの率(ひき)いる五千(ごせん)の精鋭(せいえい)を文字通(もじどお)り灰(はい)にしたシオンと七人(ななにん)の美女(びじょ)たちは、燃(も)え盛(さか)る大地(だいち)を突(つ)き進(すす)み、焦熱(しょうねつ)の火山地帯(かざんちたい)の最深部(さいしんぶ)へと到達(とうたつ)していた。


 目(め)の前(まえ)にそびえ立(た)つのは、赤黒(あかぐろ)い溶岩(ようがん)が滝(たき)のように流(なが)れ落(お)ちる、不気味(ぶきみ)に脈動(みゃくどう)する巨大(きょだい)な岩山(いわやま)。


 火炎公爵(かえんこうしゃく)フレアロードの居城(きょじょう)『爆炎(ばくえん)の魔宮(まきゅう)』である。


 周囲(しゅうい)の熱気(ねつき)はプログレスと交戦(こうせん)した境界線(きょうかいせん)の比(ひ)ではなく、ただそこに佇(たたず)むだけで衣服(いふく)が自然(しぜん)発火(はっか)しかねない極限(きょくげん)の環境(かんきょう)だった。


 だが、シオンを先頭(せんとう)に歩(あゆ)む彼女(かのじょ)たちの肌(はだ)には、一滴(いってき)の汗(あせ)すら浮(う)かんでいない。


 アルテミシアの背中(せなか)、ルミナリアの下腹部(かふくぶ)、リーナの額(ひたい)、ルナリスの両腕(りょううで)、セレナの胸元(むなもと)、シェリアの首筋(くびすじ)、ルビリアの太(ふと)もも。


 それぞれの秘部(ひぶ)で妖(あや)しく脈動(みゃくどう)する紫黒色(しこくしょく)の『刻印(こくいん)』が、周囲(しゅうい)の超高熱(ちょうこうねつ)をそっくりそのまま、彼女(かのじょ)たちを突(つ)き動(うご)かす悦楽(えつらく)の魔力(まりょく)へと変換(へんかん)していた。


 先(さき)ほどの蹂躙劇(じゅうりんげき)で主(あるじ)への絶対(ぜったい)の忠誠(ちゅうせい)を証明(しょうめい)し、さらなる全能感(ぜんのうかん)に満(み)たされた彼女(かのじょ)たちは、その瞳(ひとみ)に濃密(のうみつ)な欲情(よくじょう)と残忍(ざんにん)な光(ひかり)を宿(やど)し、次(つぎ)なる獲物(えもの)を求(もと)めていた。


「クフフ、ずいぶんと歓迎(かんげい)されているようだな」


 シオンが嘲笑(ちょうしょう)を浮(う)かべた瞬間(しゅんかん)、魔宮(まきゅう)の巨大(きょだい)な城門(じょうもん)が轟音(ごうおん)を立(た)てて開(ひら)き、中(なか)から溢(あふ)れ出(で)んばかりの熱気(ねつき)と共(とも)に、一人(ひとり)の魔族(まぞく)が姿(すがた)を現(あらわ)した。


 全身(ぜんしん)を流動(りゅうどう)する溶岩(ようがん)の鎧(よろい)で固(かた)め、頭上(ずじょう)には燃(も)え盛(さか)る炎(ほのお)の冠(かんむり)を戴(いただ)く巨漢(きょかん)。


 彼(かれ)こそが、魔王軍(まおうぐん)の四天王(してんのう)が一角(いっかく)、火炎公爵(かえんこうしゃく)フレアロード。


 その背後(はいご)には、先(さき)の軍勢(ぐんぜい)を遥(はる)かに凌(しの)ぐ、火炎(かえん)の魔獣(まじゅう)や岩石巨兵(がんせききょへい)で構成(こうせい)された一万(いちまん)の近衛兵団(このえへいだん)が、厳重(げんじゅう)な陣形(じんけい)を敷(し)いて控(ひか)えている。


「プログレスを瞬殺(しゅんさつ)したと思(おも)えば……バルゴスを破(やぶ)り、我(わ)が領地(りょうち)を侵(おか)す不届(ふとど)き者(もの)が、よもや人間(にんげん)の男(おとこ)だったとはな」


 フレアロードの声(こえ)は、まるで火山(かざん)が噴火(ふんか)するかのような重低音(じゅうていおん)となって空間(くうかん)を震(ふる)わせた。


 その双眸(そうぼう)は、シオンの後(うし)ろに控(ひか)える七人(ななにん)の美女(びじょ)たちを冷酷(れいこく)に見据(みす)える。


「そこの女(おんな)ども!……放(はな)つ魔力(まりょく)が尋常(じんじょう)ではないな。だが、我(わ)が焦熱(しょうねつ)の絶対(ぜったい)領域(りょういき)においては、いかなる敵(てき)が来(こ)ようとも我(わ)が炎(ほのお)の苗床(なえどこ)に過(す)ぎん。人間(にんげん)風情(ふぜい)にその身(み)を委(ゆだ)ねた愚行(ぐこう)、我(わ)が爆炎(ばくえん)の露(つゆ)となって悔(く)いるが良(よ)い!」


「面白(おもしろ)い。お前(まえ)のその傲慢(ごうまん)が、いつまで保(も)つか見(み)ものだな」


 シオンは不敵(ふてき)に微笑(ほほえ)み、一歩(いっぽ)後(うし)ろへと下(さ)がった。


「お前(まえ)たち、その自称(じしょう)・絶対(ぜったい)の炎(ほのお)の魔族(まぞく)に、俺(おれ)の与(あた)えた力(ちから)がどれほどのものなのか存分(ぞんぶん)に見(み)せてやれ」


「御意(ぎょい)。主(あるじ)の敵(てき)に、容赦(ようしゃ)なき絶望(ぜつぼう)を」


 アルテミシアが冷徹(れいてつ)な声(こえ)を響(ひび)かせ、先陣(せんじん)を切(き)って跳躍(ちょうやく)した。


 背中(せなか)の刻印(こくいん)から噴(ふ)き出(だ)した紫黒色(しこくしょく)の光翼(こうよく)が、火山地帯(かざんちたい)の赤(あか)い空(そら)を侵食(しんしょく)するように広(ひろ)がる。


 彼女(かのじょ)が神速(しんそく)で大剣(たいけん)を振(ふ)り下(お)ろすと、最前線(さいぜんせん)にいた岩石巨兵(がんせききょへい)の集団(しゅうだん)が、一撃(いちげき)で粉々(こなごな)に砕(くだ)け散(ち)った。


「私(わたし)の呪詛(じゅそ)からは、誰(だ)れであろうと逃(にげら)れないわよ?」


 セレナが胸元(むなもと)の刻印(こくいん)を激(はげ)しく発光(はっこう)させ、両手(りょうて)を掲(かか)げる。


 彼女(かのじょ)の指先(ゆびさき)から放(はな)たれたのは、熱気(ねつき)さえも凍(こお)りつかせるような、黒紫色(こくしよく)の波動(はどう)だった。


 フレアロードが使役(しえき)する火炎(かえん)の精霊(せいれい)たちは、その呪(のろ)いを受(う)けたとたん、自(みずか)らの炎(ほのお)を制御(せいぎょ)できずに暴走(ぼうそう)し、周囲(しゅうい)の味方(みかた)を巻(ま)き込(こ)みながら次々(つぎつぎ)と自爆(じばく)していった。


「あはは! どんどん燃(も)えちゃえ、いや、溶(と)けちゃえー!」


 ルミナリアが下腹部(かふくぶ)の刻印(こくいん)を明滅(めいめつ)させ、周囲(しゅうい)の溶岩(ようがん)の川(かわ)そのものを自身(じしん)の魔力(まりょく)で乗(の)っ取(と)った。


 彼女(かのじょ)の操作(そうさ)によって逆流(ぎゃくりゅう)した溶岩(ようがん)の津波(つなみ)が、フレアロードの近衛兵団(このえへいだん)を容赦(ようしゃ)なく呑(の)み込(こ)んでいく。


 炎(ほのお)の耐性(たいせい)を持(も)つはずの魔兵(まへい)たちが、シオンの「支配(しはい)の毒(どく)」が混(ま)ざった溶岩(ようがん)に触(ふ)れた瞬間(しゅんかん)、肉体(にくたい)だけでなく精神(せいしん)まで腐食(ふしょく)させられ、悶絶(もんぜつ)の声(こえ)を上(あ)げて消滅(しょうめつ)していく。


 ルナリスの拳(こぶし)が空気(くうき)を爆裂(ばくれつ)させ、シェリアの影(かげ)の双剣(そうけん)が光(ひかり)を切(き)り裂(さ)く。


 リーナの遠隔爆撃(えんかくばくげき)が魔宮(まきゅう)の防壁(ぼうへき)を正確(せいかく)に撃(う)ち抜(ぬ)き、ルビリアの魅了(みりょう)の魔眼(まがん)が敵(てき)の指揮官(しきかん)たちを狂(くる)わせ、同士討(どうしう)ちを始(はじ)めさせる。


 わずか十数分(じゅうすうふん)のうちに、一万(いちまん)を誇(ほこ)ったフレアロードの近衛兵団(このえへいだん)は、影(かげ)も形(かたち)もなく壊滅(かいめつ)していた。


「な、何(なに)が、何(なに)が起(お)きている……!? 我(わ)が精鋭(せいえい)たちが、これほど容易(たやす)く……!」


 フレアロードの顔(かお)が、驚愕(きょうがく)と恐怖(きょうふ)で歪(ゆが)む。


 自身(じしん)の絶対(ぜったい)的(てき)な優位性(ゆういせい)が、たった七人(ななにん)の女(おんな)たちの手(て)によって、信(しん)じられないほどの速度(そくど)で蹂躙(じゅうりん)されていく。


 しかも、彼女(かのじょ)たちの攻撃(こうげき)の根底(こんてい)にある魔力(まりょく)は、かつて感(かん)じたことのない、底(そこ)なしの階層(かいそう)から湧(わ)き出(で)るような淫靡(いんび)で冷酷(れいこく)な「支配(しはい)」の波動(はどう)だった。


「クフフ、四天王(してんのう)とやらの実力(じつりょく)も、この程度(ていど)か」


 シオンがゆっくりと、歩(あゆ)み寄(よ)る。


 その圧倒的(あっとうてき)な覇気(はき)を前(まえ)に、フレアロードは本能(ほんのう)的(てき)な恐怖(きょうふ)を覚(おぼ)え、思(おも)わず後退(あとずさ)りした。


「お、おのれぇ! 舐(な)めるなよ、人間(にんげん)風情(ふぜい)がぁぁッ!」


 フレアロードは絶叫(ぜっきょう)し、自身(じしん)の全魔力(ぜんまりょく)を解放(かいほう)した。


 魔宮(まきゅう)全体(ぜんたい)から爆炎(ばくえん)が吹(ふ)き荒(あ)れ、彼(かれ)の右腕(みぎうで)に超巨大(ちょうきょだい)な火炎(かえん)の球体(きゅうたい)が形成(けいせい)される。


 火山地帯(かざんちたい)のすべての熱量(ねつりょう)を集約(しゅうやく)した、一国(いっこく)を文字通(もじどお)り消滅(しょうめつ)させうる一撃(いちげき)。


「死(し)ねぇーいッ!」


 放(はな)たれた究極(きゅうきょく)の爆炎(ばくえん)が、シオンを完全(かんぜん)に呑(の)み込(こ)んだかに見(み)えた。


 だが、凄(すさ)まじい爆発(ばくはつ)の煙(けむり)が晴(は)れた中心(ちゅうしん)で、シオンは傷(きず)一(ひと)つなく、ただ愉悦(ゆえつ)の笑(え)みを浮(う)かべて立(た)っていた。


 彼(かれ)の右手(みぎて)には、フレアロードの放(はな)った最大(さいだい)火力(かりょく)の炎(ほのお)が、小(ちい)さな紫黒色(しこくしょく)の球体(きゅうたい)へと圧縮(あっしゅく)され、弄(もてあそ)ばれるように転(ころ)がっている。


「な、何(なん)だと……!? 我(わ)が最大(さいだい)火力(かりょく)の炎(ほのお)を、素手(すで)で……!?」


「言(い)ったはずだ、おまえのその傲慢(ごうまん)さがいつまで保(も)つのかと。お前(まえ)のその強固(きょうこ)な肉体(にくたい)とプライドが、俺(おれ)の毒(どく)にどこまで耐(た)えられるのか今(いま)からじっくりと試(ため)してやる」


 シオンの瞳(ひとみ)が、漆黒(しっこく)の支配(しはい)の光(ひかり)を放(はな)ちフレアロードの絶望(ぜつぼう)に満(み)ちた絶叫(ぜっきょう)が、崩壊(ほうかい)を始(はじ)めた爆炎(ばくえん)の魔宮(まきゅう)に、虚(むな)しく響(ひび)き渡(わた)る。





第(だい)52話(わ)へ続(つづ)く





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