プログレスの率いる五千の精鋭を文字通り灰にしたシオンと七人の美女たちは、燃え盛る大地を突き進み、焦熱の火山地帯の最深部へと到達していた。
目の前にそびえ立つのは、赤黒い溶岩が滝のように流れ落ちる、不気味に脈動する巨大な岩山。
火炎公爵フレアロードの居城『爆炎の魔宮』である。
周囲の熱気はプログレスと交戦した境界線の比ではなく、ただそこに佇むだけで衣服が自然発火しかねない極限の環境だった。
だが、シオンを先頭に歩む彼女たちの肌には、一滴の汗すら浮かんでいない。
アルテミシアの背中、ルミナリアの下腹部、リーナの額、ルナリスの両腕、セレナの胸元、シェリアの首筋、ルビリアの太もも。
それぞれの秘部で妖しく脈動する紫黒色の『刻印』が、周囲の超高熱をそっくりそのまま、彼女たちを突き動かす悦楽の魔力へと変換していた。
先ほどの蹂躙劇で主への絶対の忠誠を証明し、さらなる全能感に満たされた彼女たちは、その瞳に濃密な欲情と残忍な光を宿し、次なる獲物を求めていた。
「クフフ、ずいぶんと歓迎されているようだな」
シオンが嘲笑を浮かべた瞬間、魔宮の巨大な城門が轟音を立てて開き、中から溢れ出んばかりの熱気と共に、一人の魔族が姿を現した。
全身を流動する溶岩の鎧で固め、頭上には燃え盛る炎の冠を戴く巨漢。
彼こそが、魔王軍の四天王が一角、火炎公爵フレアロード。
その背後には、先の軍勢を遥かに凌ぐ、火炎の魔獣や岩石巨兵で構成された一万の近衛兵団が、厳重な陣形を敷いて控えている。
「プログレスを瞬殺したと思えば……バルゴスを破り、我が領地を侵す不届き者が、よもや人間の男だったとはな」
フレアロードの声は、まるで火山が噴火するかのような重低音となって空間を震わせた。
その双眸は、シオンの後ろに控える七人の美女たちを冷酷に見据える。
「そこの女ども!……放つ魔力が尋常ではないな。だが、我が焦熱の絶対領域においては、いかなる敵が来ようとも我が炎の苗床に過ぎん。人間風情にその身を委ねた愚行、我が爆炎の露となって悔いるが良い!」
「面白い。お前のその傲慢が、いつまで保つか見ものだな」
シオンは不敵に微笑み、一歩後ろへと下がった。
「お前たち、その自称・絶対の炎の魔族に、俺の与えた力がどれほどのものなのか存分に見せてやれ」
「御意。主の敵に、容赦なき絶望を」
アルテミシアが冷徹な声を響かせ、先陣を切って跳躍した。
背中の刻印から噴き出した紫黒色の光翼が、火山地帯の赤い空を侵食するように広がる。
彼女が神速で大剣を振り下ろすと、最前線にいた岩石巨兵の集団が、一撃で粉々に砕け散った。
「私の呪詛からは、誰れであろうと逃れないわよ?」
セレナが胸元の刻印を激しく発光させ、両手を掲げる。
彼女の指先から放たれたのは、熱気さえも凍りつかせるような、黒紫色の波動だった。
フレアロードが使役する火炎の精霊たちは、その呪いを受けたとたん、自らの炎を制御できずに暴走し、周囲の味方を巻き込みながら次々と自爆していった。
「あはは! どんどん燃えちゃえ、いや、溶けちゃえー!」
ルミナリアが下腹部の刻印を明滅させ、周囲の溶岩の川そのものを自身の魔力で乗っ取った。
彼女の操作によって逆流した溶岩の津波が、フレアロードの近衛兵団を容赦なく呑み込んでいく。
炎の耐性を持つはずの魔兵たちが、シオンの「支配の毒」が混ざった溶岩に触れた瞬間、肉体だけでなく精神まで腐食させられ、悶絶の声を上げて消滅していく。
ルナリスの拳が空気を爆裂させ、シェリアの影の双剣が光を切り裂く。
リーナの遠隔爆撃が魔宮の防壁を正確に撃ち抜き、ルビリアの魅了の魔眼が敵の指揮官たちを狂わせ、同士討ちを始めさせる。
わずか十数分のうちに、一万を誇ったフレアロードの近衛兵団は、影も形もなく壊滅していた。
「な、何が、何が起きている……!? 我が精鋭たちが、これほど容易く……!」
フレアロードの顔が、驚愕と恐怖で歪む。
自身の絶対的な優位性が、たった七人の女たちの手によって、信じられないほどの速度で蹂躙されていく。
しかも、彼女たちの攻撃の根底にある魔力は、かつて感じたことのない、底なしの階層から湧き出るような淫靡で冷酷な「支配」の波動だった。
「クフフ、四天王とやらの実力も、この程度か」
シオンがゆっくりと、歩み寄る。
その圧倒的な覇気を前に、フレアロードは本能的な恐怖を覚え、思わず後退りした。
「お、おのれぇ! 舐めるなよ、人間風情がぁぁッ!」
フレアロードは絶叫し、自身の全魔力を解放した。
魔宮全体から爆炎が吹き荒れ、彼の右腕に超巨大な火炎の球体が形成される。
火山地帯のすべての熱量を集約した、一国を文字通り消滅させうる一撃。
「死ねぇーいッ!」
放たれた究極の爆炎が、シオンを完全に呑み込んだかに見えた。
だが、凄まじい爆発の煙が晴れた中心で、シオンは傷一つなく、ただ愉悦の笑みを浮かべて立っていた。
彼の右手には、フレアロードの放った最大火力の炎が、小さな紫黒色の球体へと圧縮され、弄ばれるように転がっている。
「な、何だと……!? 我が最大火力の炎を、素手で……!?」
「言ったはずだ、おまえのその傲慢さがいつまで保つのかと。お前のその強固な肉体とプライドが、俺の毒にどこまで耐えられるのか今からじっくりと試してやる」
シオンの瞳が、漆黒の支配の光を放ちフレアロードの絶望に満ちた絶叫が、崩壊を始めた爆炎の魔宮に、虚しく響き渡る。
第52話へ続く