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ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


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【第48話】黒鉄の要塞落ちる


 魔将軍(ましょうぐん)バルゴスが塵(ちり)となって消滅(しょうめつ)し、静寂(せいじゃく)が戻(もど)った大広間(おおひろま)。


 不落(ふらく)と呼(よ)ばれた『黒鉄(くろがね)の要塞(ようさい)』の心臓部(しんぞうぶ)は、今(いま)や完全(かんぜん)にシオンの支配下(しはいか)に置(お)かれていた。


 床(ゆか)を埋(う)め尽(つ)くす重装兵(じゅうそうへい)たちの亡骸(なきがら)と、四散(しさん)した鋼鉄(こうてつ)の残骸(ざんがい)が、先(さき)ほどまでの蹂躙劇(じゅうりんげき)の凄(すさ)まじさを物語(ものがた)っている。


 シオンは玉座(ぎょくざ)へと歩(あゆ)み寄(よ)り、我(わ)が物顔(ものがお)でその背(せ)もたれに深(ふか)く身体(からだ)を預(あず)けた。


 その堂々(どうどう)たる佇(たたず)まいは、侵入者(しんにゅうしゃ)ではなく、最初(さいしょ)からこの城(しろ)の主(あるじ)であったかのような絶対(ぜったい)的(てき)な風格(ふうかく)を放(はな)っている。


 シオンが不敵(ふてき)な笑(え)みを浮(う)かべて見下(みお)ろすと、傍(かたわ)らに控(ひか)える七人(ななにん)の美女(びじょ)たちは、一斉(いっせい)にその場(ば)に深(ふか)く跪(ひざまず)いた。


 彼女(かのじょ)たちの瞳(ひとみ)に宿(やど)るのは、主(あるじ)への盲目(もうもく)的(てき)な崇拝(すうはい)と、戦(たたか)いを終(お)えたばかりの熱(あつ)い高揚感(こうようかん)である。


 シオンと魂(たましい)の奥底(おくそこ)で交(まじ)わり、その絶対(ぜったい)的(てき)な支配(しはい)を受(う)け入(い)れた彼女(かのじょ)たちにとって、シオンの勝利(しょうり)こそが至上(しじょう)の悦(よろこ)びであり、生(い)きる意味(いみ)そのものとなっていた。


「見事(みごと)な戦(たたか)いぶりだ、これほど早(はや)くバルゴスの軍勢(ぐんぜい)を消(け)し飛(と)ばすとはな。期待(きたい)以上(いじょう)の働(はたら)きだ」


 シオンの低(ひく)く愉(たの)しげな声(こえ)が大広間(おおひろま)に響(ひび)き渡(わた)る。


「勿体(もったい)なきお言葉(ことば)にございます、シオン様(さま)。すべてはあなた様(さま)から授(さず)かった大(おお)いなる力(ちから)と、この身(み)を満(み)たす愛(あい)の結晶(けっしょう)に過(す)ぎませんわ」


 ルビリアとアルテミシアが豊満(ほうまん)な胸元(むねもと)を揺(ゆ)らし、熱(ねつ)っぽい吐息(といき)を漏(も)らしながらシオンを見上(みあ)げる。


 彼女(かのじょ)たちの妖艶(ようえん)な瞳(ひとみ)は、すでに次(つぎ)の「報酬(ほうしゅう)」を求(もと)めて潤(うる)んでいた。


「ふふ、バルゴスの慌(あわ)てた顔(かお)、最高(さいこう)に傑作(けっさく)だったわねぇ。シオン様(さま)の言(い)う通(とお)り、本当(ほんとう)にただの鉄屑(てつくず)みたいに砕(くだ)け散(ち)るなんて」


 ルミナリアが自身(じしん)の唇(くちびる)に指(ゆび)を当(あ)て、くねらせるようにして身体(しんたい)を震(ふる)わせる。


 彼女(かのじょ)の幻術(げんじゅつ)によって五感(ごかん)を狂(くる)わされ、同士討(どうしう)ちを演(えん)じた兵士(へいし)たちの末路(まつろ)を思(おも)い出(だ)し、無邪気(むじゃき)に微笑(ほほえ)んでいた。


「シオン、要塞(ようさい)に残存(ざんぞん)する魔導兵器(まどうへいき)の管理権限(かんりけんげん)、すべて私(わたし)の『魔導解析(まどうかいせき)』によって完全(かんぜん)に掌握(しょうあく)。これでこの要塞(ようさい)は、いつでもシオンの手足(てあし)として機能(きのう)するわ」


 リーナが瞳(ひとみ)を怪(あや)しく光(ひか)らせ、淡々(たんたん)と、しかし誇(ほこ)らしげに報告(ほうこく)する。


「ふん、当然(とうぜん)の結果(けっか)ね。あんな鈍重(どんじゅう)な連中(れんちゅう)、シオン様(さま)の敵(てき)ではなかったわ。……でも、これで一族(いちぞく)の無念(むねん)も少(すこ)しは晴(は)れたわね、シェリア」


 ルビリアが、隣(となり)に跪(ひざまず)くダークエルフの王女(おうじょ)シェリアに視線(しせん)を向(む)けた。


 シェリアは未(いま)だにシオンの足元(あしもと)で微(かす)かに身体(しんたい)を震(ふる)わせていた。


 その目元(めもと)には涙(なみだ)の跡(あと)が残(のこ)っているが、その表情(ひょうじょう)にあるのは絶望(ぜつぼう)ではなく、永(なが)きにわたる呪縛(じゅばく)から解放(かいほう)された純粋(じんすい)な歓喜(かんき)と、シオンへの狂信(きょうしん)的(てき)な愛(あい)だった。


「はい……。本当(ほんとう)に、夢(ゆめ)のようです。一族(いちぞく)を脅迫(きょうはく)し、私(わたし)を道具(どうぐ)のように扱(あつか)ってきたバルゴスが、これほど無様(ぶざま)に消(き)え去(さ)るなんて……」


 シェリアはシオンの膝(ひざ)にそっと両手(りょうて)をかけ、まるで縋(すが)り付(りつ)くようにして顔(かお)を近(ちか)づける。


「シオン様(さま)……私(わたし)はもう、あなた様(さま)なしでは息(いき)をすることすらできません。この肉体(にくたい)も、一族(いちぞく)に伝(つた)わる暗殺(あんさつ)の技術(ぎじゅつ)も、すべてをあなた様(さま)の道具(どうぐ)としてお使(つか)いください。どのような命(めい)であっても、私(わたし)は喜(よろこ)んで血(ち)の海(うみ)に飛(と)び込(こ)みましょう」


 シオンはクフフと低(ひく)く笑(わら)い、シェリアの長(なが)い銀髪(ぎんぱつ)を愛(いと)おしそうに撫(な)で上(あ)げた。


「良(よ)い心(こころ)がけだ、シェリア。お前(まえ)たちの闇(やみ)に潜(ひそ)む力(ちから)は、これからの戦(たたか)いで大(おお)いに役(やく)に立(た)つ。まずは、この要塞(ようさい)の外(そと)に逃(にが)しておいたお前(まえ)の一族(いちぞく)をすべて呼(よ)び戻(もど)せ。俺(おれ)の配下(はいか)として、新(あら)たなる影(かげ)の軍隊(ぐんたい)を組織(そしき)する」


「仰(おお)せのままに、我(わ)が唯一(ゆいいつ)の主(あるじ)、我(わ)が神(かみ)よ……」


 シェリアは至福(しふく)の表情(ひょうじょう)を浮(う)かべ、シオンの手(て)に自身(じしん)の頬(ほお)を擦(す)り寄(よ)せた。


 その姿(すがた)は、魔王軍(まおうぐん)最凶(さいきょう)の暗殺者(あんさつしゃ)と恐(おそ)れられた冷徹(れいてつ)な面影(おもかげ)はなく、完全(かんぜん)に調教(ちょうきょう)された忠実(ちゅうじつ)な牝(めす)そのものであった。


 セレナが静(しず)かにシオンの前(まえ)に進(すす)み出(で)て、その鋭(するど)い嗅覚(きゅうかく)で大広間(おおひろま)の外(そと)の空気(くうき)を探(さぐ)るように鼻(はな)を鳴(な)らした。


「シオン様(さま)、バルゴスを討(う)ち取(と)ったことで、この地域(ちいき)の魔王軍(まおうぐん)の勢力図(せいりょくず)は完全(かんぜん)に崩壊(ほうかい)します。しかし、これで他(ほか)の四天王(してんのう)たちも黙(だま)ってはいないでしょう。すでに、私(わたし)たちの存在(そんざい)に気(き)づき始(はじ)めている気配(けはい)があります」


 シオンは玉座(ぎょくざ)の肘置(ひじお)きを指先(ゆびさき)でリズミカルに叩(たた)きながら、満足(まんぞく)げに口元(くちもと)を歪(ゆが)めた。


「それでいい。むしろ、向(む)こうから這(は)い出(で)てきてくれた方(ほう)が手間(てま)が省(はぶ)けるというものだ。バルゴスは四天王(してんのう)の中(なか)でも最弱(さいじゃく)の脳無(のうな)しだったが、残(のこ)りの三人(さんにん)はもう少(すこ)し楽(たの)しませてくれるだろうな」


 リーナが要塞(ようさい)に残(のこ)されていた魔導端末(まどうたんまつ)を操作(そうさ)し、魔王軍(まおうぐん)の内部資料(ないぶしりょう)を大広間(おおひろま)の中央(ちゅうおう)に投影(とうえい)した。


「シオン様(さま)、次(つぎ)なる標的(ひょうてき)の候補(こうほ)ですが、ここから北(きた)に位置(いち)する『焦熱(しょうねつ)の火山地帯(かざんちたい)を統治(とうち)する、火炎公爵(かえんこうしゃく)フレアロード。あるいは、西(にし)の『深淵(しんえん)の海(うみ)』を支配(しはい)する、妖術師海王(ようじゅつしかいおう)リヴァイア。この二者(にしゃ)が、現在(げんざい)最(もっと)も警戒(けいかい)を強(つよ)めております」


 シオンは投影(とうえい)された地図(ちず)をじっと見(み)つめ、不敵(ふてき)な笑(え)みを深(ふか)くした。


「火炎公爵(かえんこうしゃく)に、海王(かいおう)か。どちらを先(さき)に絶望(ぜつぼう)の淵(ふち)に叩(たた)き落(お)としてやるか……。まずは、この黒鉄(くろがね)の要塞(ようさい)を完全(かんぜん)に我(わ)が物(もの)とし、戦力(せんりょく)を整(ととの)える」


 その時(とき)、シオンのレベルが上(あ)がり新(あら)たな能力(のうりょく)が解放(かいほう)される。


 「バルゴスを倒(たお)したことで俺(おれ)のレベルが上(あが)がったようだ。お前(まえ)たちの肉体(にくたい)に、もっと深(ふか)く、俺(おれ)の新(あら)たな力(ちから)を刻(きざ)み込(こ)んでやろう」


 その言葉(ことば)を聞(き)いた女(おんな)たちの身体(しんたい)が、一斉(いっせい)に甘(あま)やかな歓喜(かんき)で震(ふる)えた。


 シオンの支配(しはい)がさらに深(ふか)まることを、彼女(かのじょ)たちの魂(たましい)が激(はげ)しく渇望(かつぼう)している。






第(だい)49話(わ)へ続(つづ)く






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