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ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


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【第47話】鉄屑の終焉


「殺(ころ)せぇッ! 侵入者(しんにゅうしゃ)どもを一人(ひとり)残(のこ)らず叩(たた)き潰(つぶ)せぇッ!」


 魔将軍(ましょうぐん)バルゴスの狂(くる)ったような咆哮(ほうこう)が、大広間(おおひろま)の堅牢(けんろう)な壁(かべ)を激(はげ)しく震(ふる)わせる。


 頼(たの)みの綱(つな)であった『魔導重砲(まどうじゅうほう)』を戦闘開始(せんとうかいし)前(まえ)に無力化(むりょくか)された四天王(してんのう)の焦燥(しょうそう)は、凄(すさ)まじいものだった。


 バルゴスが玉座(ぎょくざ)から立(た)ちあがると同時(どうじ)に大広間(おおひろま)の左右(さゆう)に控(ひか)えていた重装甲歩兵部隊《じゅうそうこうほへいぶたい》が、一斉(いっせい)に武器(ぶき)を構(かま)えてシオンたちへと殺到(さっとう)する。


 要塞(ようさい)の防衛(ぼうえい)システムを完全(かんぜん)に掌握(しょうわく)された今(いま)、バルゴスに残(のこ)されたのは、物量(ぶつりょう)による力押(ちからお)しの戦略(せんりゃく)だけであった。


 しかし、シオンの背後(はいご)に控(ひか)える美女(びじょ)たちの表情(ひょうじょう)に、動揺(どうよう)の色(いろ)は一切(いっさい)なかった。


 それどころか、彼女(かのじょ)たちの瞳(ひとみ)に宿(やど)っているのは、主(あるじ)であるシオンと交(まじ)わったことで得(え)られた魂(たましい)の奥底(おくそこ)から湧(わ)き上(あ)がる、圧倒的(あっとうてき)な全能感(ぜんのうかん)と悦楽(えつらく)の余韻(よいん)だ。


 シオンの絶対(ぜったい)的(てき)な覇気(はき)と同調(どうちょう)し、限界(げんかい)を超(こ)えて跳(は)ね上(あ)がった戦闘(せんとう)バフは、彼女(かのじょ)たちの肉体(にくたい)と魔力(まりょく)をかつてない領域(りょういき)へと引(ひ)き上(あ)げていた。


「シオン様(さま)、ここは私(わたし)たちにお任(まか)せを。ゴミ掃除(そうじ)に、主(あるじ)の手(て)を煩(わずら)わせる必要(ひつよう)はありません」


 白銀(はくぎん)の毛並(けな)みを美(うつく)しく翻(ひるがえ)し、フェンリルのセレナが先陣(せんじん)を切(き)って地(ち)を蹴(け)った。


 その踏(ふ)み込(こ)みの衝撃(しょうげき)だけで、大広間(おおひろま)の屈強(くっきょう)な石床(いしゆか)がクモの巣状(すじょう)にひび割(わ)れる。


 セレナの身体(しんたい)は神速(しんそく)の領域(りょういき)へと達(たっ)していた。


 重装兵(じゅうそうへい)たちがその姿(すがた)を視認(しにん)したときには、すでに彼(かれ)らの分厚(ぶあつ)い鋼鉄(こうてつ)の鎧(よろい)ごと、その肉体(にくたい)は容赦(ようしゃ)なく引(ひ)き裂(さ)かれていた。


 凄(すさ)まじい速度(そくど)で繰(く)り出(だ)される獣爪(じゅうそう)の風圧(ふあつ)だけで、後方(こうほう)に控(ひか)えていた兵士(へいし)たちまでが木(こ)の葉(は)のように吹(ふ)き飛(と)ばされていく。


「ふふ、みんな一列(いちれつ)に並(なら)んでねぇ。気持(きも)ちのいい夢(ゆめ)を見(み)せてあげるから」


 妖艶(ようえん)に佇(たたず)むルミナリアが濃厚(のうこう)な幻術(げんじゅつ)の鱗粉(りんぷん)を放(はな)つ。


 紫色(むらさきいろ)の霧(きり)となって大広間(おおひろま)に急速(きゅうそく)に広(ひろ)がった鱗粉(りんぷん)は、殺到(さっとう)する兵士(へいし)たちの五感(ごかん)を一瞬(いっしゅん)で掌握(しょうあく)した。


 重装兵(じゅうそうへい)たちは突然(とつぜん)、目(め)の前(まえ)の景色(けしき)が真(ま)っ暗(くら)な奈落(ならく)へと変(か)わった錯覚(さっかく)に陥(おちい)り、パニックとなって虚空(こくう)に向(む)かって滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に武器(ぶき)を振(ふ)り回(まわ)し始(はじ)める。


 同士討(どうしう)ちを始(はじ)める兵士(へいし)たち。


 その隙間(すきま)を、超低空(ちょうていくう)の踏(ふ)み込(こ)みで接近(せっきん)したルナリスが、戦斧(せんぷ)を華麗(かれい)に一閃(いっせん)させた。


 鈍(にぶ)い破壊音(はかいおん)とともに、幻術(げんじゅつ)に囚(とら)われた兵士(へいし)たちの首(くび)が宙(ちゅう)を舞(ま)い、大広間(おおひろま)は一瞬(いっしゅん)にして物言(ものい)わぬ肉塊(にくかい)の山(やま)へと変貌(へんぼう)していく。


 完璧(かんぺき)なまでの蹂躙劇(じゅうりんげき)。


 その最前線(さいぜんせん)で、最(もっと)も苛烈(かれつ)な殺気(さっき)を放(はな)ちながら戦場(せんじょう)を舞(ま)っているのは、ダークエルフの王女(おうじょ)シェリアだった。


 一族(いちぞく)を奴隷(どれい)のように扱(あつか)い、自身(じしん)を脅迫(きょうはく)し続(つづ)けたバルゴスへの憎悪(ぞうお)。


 そして何(なに)より、絶望(ぜつぼう)の淵(ふち)から自分(じぶん)を丸(まる)ごと庇護(ひご)し、救(すく)い出(だ)してくれたシオンへの狂信(きょうしん)的(てき)な愛(あい)が、彼女(かのじょ)を最強(さいきょう)の暗殺者(あんさつしゃ)へと回帰(かいき)させていた。


「シオン様(さま)が見(みて)おられる……私(わたし)のすべては、あの御方(おかた)のために!」


 シェリアの身体(しんたい)がブレるような速度(そくど)で敵陣(てきじん)の中心(ちゅうしん)へと突入(とつにゅう)する。


 二振(ふたふり)りの短剣(たんけん)はまるで生(い)き物(もの)のように重装兵(じゅうそうへい)の強固(きょうこ)な兜(かぶと)の隙間(すきま)、装甲(そうこう)の継(つ)ぎ目(め)を正確無比(せいかくむひ)に貫(つらぬ)き、一撃必殺(いちげきひっさつ)の死(し)を量産(りょうさん)していく。


 かつて魔王軍(まおうぐん)最凶(さいきょう)と恐(おそ)れられた暗殺者(あんさつしゃ)の技術(ぎじゅつ)に、シオンのバフが加(くわ)わった今(いま)の彼女(かのじょ)は、まさに戦場(せんじょう)を支配(しはい)する死神(しにがみ)そのものであった。


 リーナの正確(せいかく)なバックアップと、アルテミシアの妖艶(ようえん)に広(ひろ)がる魔力(まりょく)を受(う)け、数百(すうひゃく)の重装兵(じゅうそうへい)たちはわずか数分(すうふん)のうちに全滅(ぜんめつ)した。


 大広間(おおひろま)を埋(う)め尽(つ)くすのは、おびただしい血(ち)の海(うみ)と、引(ひ)き裂(さ)かれた鋼鉄(こうてつ)の残骸(ざんがい)だけだ。


 その凄惨(せいさん)な光景(こうけい)の中(なか)を、シオンは漆黒(しっこく)の外套(がいとう)をひるがえし、絶対(ぜったい)的(てき)な王(おう)の歩調(ほちょう)でバルゴスの玉座(ぎょくざ)へと歩(あゆ)みを進(すす)める。


「馬鹿(ばか)な……馬鹿(ばか)な馬鹿(ばか)な馬鹿(ばか)なッ! 我(われ)が誇(ほこ)る黒鉄(くろがね)の精鋭(せいえい)が、たった数人(すうにん)で、これほど容易(たやす)く……! 貴様(きさま)ら、一体(いったい)何(なに)をした!」


 バルゴスが信(しん)じられないというように目(め)を見開(みひら)く、全身(ぜんしん)の鎧(よろい)をガタガタと震(ふる)わせる。


 人質(ひとじち)を奪(うば)われ、要塞(ようさい)のシステムを乗(の)っ取(と)られ、自慢(じまん)の軍勢(ぐんぜい)すらも消(け)し飛(と)ばされた四天王(してんのう)。その姿(すがた)は、あまりにも無様(ぶざま)で、滑稽(こっけい)だった。


「クフフ、まだ理解(りかい)できないか、バルゴス。お前(まえ)の並(なら)べた鉄屑(てつくず)も、お前(まえ)自身(じしん)の存在(そんざい)も、この俺(おれ)の征服欲(せいふくよく)を満(み)たすための退屈(たいくつ)しのぎに過(す)ぎない!」


 シオンはバルゴスの目(め)の前(まえ)で立(た)ち止(ど)まり、最高(さいこう)に愉(たの)しげな、そして底知(そこし)れぬほど邪悪(じゃあく)な笑(え)みを浮(う)かべた。


 その背後(はいご)では、戦(たたか)いを終(お)えた六人(ろくにん)の美女(びじょ)たちが、まるで神(かみ)を崇(あが)めるかのような盲目(もうもく)的(てき)な視線(しせん)でシオンの背中(せなか)を見(み)つめ、バルゴスに冷酷(れいこく)な視線(しせん)を突(つ)き刺(さ)している。


「おのれぇぇッ! 人間(にんげん)風情(ふぜい)が、この俺(おれ)を、魔王軍(まおうぐん)四天王(してんのう)を舐(な)めるなァァッ!」


 極限(きょくげん)の怒(いか)りと屈辱(くつじょく)により、バルゴスの理性(りせい)が完全(かんぜん)に弾(はじ)け飛(と)んだ。


 バルゴスは身(み)の丈(たけ)を超(こ)える巨大(きょだい)な戦鎚(せんつい)を両手(りょうて)で握(にぎ)りしめ、要塞(ようさい)の全魔力(ぜんまりょく)をその身(み)に強引(ごういん)に上乗(うわの)せして跳躍(ちょうやく)した。漆黒(しっこく)のフルプレートアーマーが咆哮(ほうこう)を上(あ)げ、大質量(だいしつりょう)の一撃(いちげき)がシオンの頭上(ずじょう)へと振(ふ)り下(お)ろされる。


 空間(くうかん)そのものが自重(じじゅう)で歪(ゆが)むような、四天王(してんのう)としての意地(いじ)をかけた一撃(いちげき)。


 まともに受(う)ければ、要塞(ようさい)の半分(はんぶん)が崩壊(ほうかい)しかねないほどの破壊力(はかいりょく)。


 しかし、シオンは避(よ)ける素振(そぶ)りすら見(み)せず、ただ不敵(ふてき)に笑(わら)ったまま、おもむろに右手(みぎて)を突(つ)き出(だ)した。


 その手(て)のひらに、濃密(のうみつ)な紫黒色(しこくしょく)の魔力(まりょく)が一瞬(いっしゅん)で収束(しゅうそく)していく。


「消(き)え失(う)せろ、鉄屑(てつくず)」


 シオンの冷徹(れいてつ)な一言(ひとこと)とともに、手(て)のひらから放(はな)たれたのは、光(ひかり)さえも吸(す)い込(こ)むような暗黒(あんこく)の衝撃波(しょうげきは)だった。


 バルゴスが命(いのち)を賭(と)して放(はな)った戦鎚(せんつい)の一撃(いちげき)は、シオンの魔力(まりょく)の奔流(ほんりゅう)に触(ふ)れた瞬間(しゅんかん)、まるでガラス細工(ざいく)のようにあっけなく粉々(こなごな)に砕(くだ)け散(ち)った。


 それだけではない。


 衝撃波(しょうげきは)はそのままバルゴスの巨大(きょだい)な肉体(にくたい)を直撃(ちょくげき)し、彼(かれ)が絶対(ぜったい)の自信(じしん)を持(も)っていた漆黒(しっこく)のフルプレートアーマーを、内側(うちがわ)の肉体(にくたい)ごと一瞬(いっしゅん)で消滅(しょうめつ)させていく。


「が、は……あ、あり得(え)ん……この俺(おれ)が、人間(にんげん)に……魔王(まおう)様(さま)……っ」


 最期(さいご)の言葉(ことば)を残(のこ)し、魔王軍(まおうぐん)四天王(してんのう)の一人(ひとり)、魔将軍(ましょうぐん)バルゴスは塵(ちり)となって虚空(こくう)へと消(き)え去(さ)った。


「さすがはシオン様(さま)……完璧(かんぺき)なまでの勝利(しょうり)ですわ」


 ルビリアとアルテミシアが歓喜(かんき)に身体(からだ)を震(ふる)わせながらシオンの傍(かたわ)らに寄(よ)り添(そ)い、その逞(たくま)しい腕(うで)に自分(じぶん)たちの胸(むね)を押(お)し付(つ)けるようにして抱(だ)きついた。


 リーナもまた、興奮(こうふん)で頬(ほお)を紅潮(こうちょう)させながら、シオンの首(くび)に腕(うで)を回(まわ)して抱(だ)きしめる。


 フェンリルのセレナ、ルナリス、ルミナリアもシオンに駆(か)け寄(よ)り。


 シェリアは、宿敵(しゅくてき)の消滅(しょうめつ)を見届(みとど)けた後(あと)、すぐさまシオンの足元(あしもと)へと跪(ひざまず)いた。


 その瞳(ひとみ)には、涙(なみだ)とともに、もはや信仰(しんこう)に近(ちか)い熱(あつ)い情熱(じょうねつ)が宿(やど)っている。


「シオン様(さま)……感謝(かんしゃ)いたします。これで、我(わ)が一族(いちぞく)の無念(むねん)は晴(は)らされました。この命(いのち)、この魂(たましい)のすべてを、永遠(えいえん)にあなた様(さま)に捧(ささ)げます……!」


 シオンは跪(ひざまず)くシェリアを優(やさ)しく立(た)ち上(あ)がらせると、その濡(ぬ)れた唇(くちびる)に深(ふか)い口(くち)づけを落(お)とした。


「フッ、お前(まえ)の一族(いちぞく)の力(ちから)と技術(ぎじゅつ)、これからたっぷりと俺(おれ)のために使(つか)ってもらうぞ、シェリア」


「はい……喜(よろこ)んで、我(わ)が神(かみ)よ……」


 シェリアはうっとりとした表情(ひょうじょう)でシオンの胸(むね)に顔(かお)を埋(う)め、歓喜(かんき)の吐息(といき)を漏(も)らす。





第(だい)48話(わ)へ続(つづ)く





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