↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/70

【第46話】鋼鉄の四天王


 地下監獄(ちかかんごく)の冷(つめ)たい空気(くうき)を激(はげ)しく揺(ゆ)るがす不気味(ぶきみ)な重低音(じゅうていおん)は、確実(かくじつ)にこの『黒鉄(くろがね)の要塞(ようさい)』の主(あるじ)である魔将軍(ましょうぐん)バルゴスの怒(いか)りと、その巨体(きょたい)が放(はな)つ威圧感(いあつかん)を体現(たいげん)していた。


 シオンの鋭(するど)い命令(めいれい)を受(う)けたリーナとアルテミシアは、即座(そくざ)に魔力(まりょく)を同調(どうちょう)させ、救出(きゅうしゅつ)されたダークエルフ一族(いちぞく)の足元(あしもと)に巨大(きょだい)な転送術式(てんそうじゅつしき)を展開(てんかい)する。


 術式(じゅつしき)から放(はな)たれたまばゆい紫黒色(しこくしょく)と青白い(あおじろい)光(ひかり)の渦(うず)が監獄内(かんごくない)を眩(まぶ)しく照(て)らし、衰弱(すいじゃく)していたダークエルフたちは、長老(ちょうろう)をはじめ子供(こども)たちに至(いた)るまで、一瞬(いっしゅん)のうちに要塞(ようさい)の外(そと)の安全(あんぜん)な場所(ばしょ)へと転送(てんそう)された。


 後(あと)に残(のこ)ったのは、鉄格子(てつごうし)の前(まえ)に佇(たたず)む絶対(ぜったい)の支配者(しはいしゃ)シオンと、彼(かれ)の愛(あい)に染(そ)まる六人(ろくにん)の美女(びじょ)たちだけだ。


 一族(いちぞく)を無事(ぶじ)に避難(ひなん)させ、人質(ひとじち)という最後(さいご)の足枷(あしかせ)を完全(かんぜん)に消(け)し去(さ)ったシェリアの瞳(ひとみ)には、もはや迷(まよ)いなど微塵(みじん)もなかった。


 かつてないほど濃厚(のうこう)な愛欲(あいよく)と、盲目的(もうもくてき)なまでの忠誠心(ちゅうせいしん)、速度(そくど)を増(ま)した宿敵(しゅくてき)への容赦(ようしゃ)なき殺意(さつい)がその瞳(ひとみ)の奥(おく)で渦巻(うずま)いていた。


「行(い)くぞ。間抜(まぬ)けな鉄屑(てつくず)に、本当(ほんとう)の支配者(しはいしゃ)が誰(だれ)であるかを教(おし)えてやる」


 シオンの冷徹(れいてつ)な一言(ひとこと)とともに、一同(いちどう)は地下監獄(ちかかんごく)を後(あと)にし、薄暗(うすぐら)い通路(つうろ)へと飛(と)び出(だ)した。


 すでに要塞内(ようさいない)は裏切(うらぎ)り者(もの)の侵入(しんにゅう)を察知(さっち)した警報(けいほう)が鳴(な)り響(ひび)く。


 通路(つうろ)には、バルゴス直属(ちょくぞく)の精鋭(せいえい)である重装甲兵(じゅうそうこうへい)たちが、武器(ぶき)を構(かま)えて次々(つぎつぎ)と姿(すがた)を現(あらわ)していた。


 だが、シオンの絶対(ぜったい)的(てき)な覇気(はき)と同調(どうちょう)し、交(まじ)わりのバフによって極限(きょくげん)まで身体能力(しんたいのうりょく)を引(ひ)き上(あ)げられた彼女(かのじょ)たちの前(まえ)では、迫(せま)り来(く)る鉄(てつ)の軍勢(ぐんぜい)などただの肉塊(にくかい)の予備軍(よびぐん)に過(す)ぎなかった。


 前衛(ぜんえい)のセレナが神速(しんそく)の踏(ふ)み込(こ)みから繰(く)り出(だ)す鋭(するど)い爪(つめ)が、重装甲兵(じゅうそうこうへい)の分厚(ぶあつ)い鋼鉄(こうてつ)を容易(たやす)く引(ひ)き裂(さ)いていく。


 両断(りょうだん)された鎧(よろい)から血飛沫(ちしぶき)が舞(ま)うのと同時(どうじ)に、妖艶(ようえん)に佇(たたず)むルミナリアが濃厚(のうこう)な幻術(げんじゅつ)を放(はな)ち、後方(こうほう)から支援(しえん)しようとした兵(へい)たちの五感(ごかん)を狂(くる)わせた。


 彼(かれ)らが虚空(こくう)に向(む)かって滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に武器(ぶき)を振(ふ)り回(まわ)すその背後(はいご)から、ルナリスが、鋭(するど)い戦斧(せんぷ)を容赦(ようしゃ)なく振(ふる)う。


 シェリアもまた、シオンの影(かげ)として一切(いっさい)の無駄(むだ)がない動(うご)きで二振(ふたふ)りの短剣(たんけん)を振(ふ)るい、重装兵(じゅうそうへい)の隙間(すきま)を的確(てきかく)に貫(つらぬ)いていく。


 かつて魔王軍(まおうぐん)最凶(さいきょう)と恐(おそ)れられた彼女(かのじょ)の刃(やいば)は、主(あるじ)であるシオンに勝利(しょうり)を捧(ささ)げるためだけに、以前(いぜん)よりもさらに冷酷(れいこく)に、さらに鋭(するど)く研(と)ぎ澄(す)まされていた。


 わずか数分(すうふん)。


 文字通(もじどお)りの蹂躙劇(じゅうりんげき)を繰(く)り広(ひろ)げ、シオンの漆黒(しっこく)の外套(がいとう)に返(かえ)り血(ち)の一滴(いってき)すら浴(あ)びせることなく通路(つうろ)を突(つ)き進(すす)んだ一行(いっこう)は、ついに要塞(ようさい)の中央(ちゅうおう)に位置(いち)する大広間(おおひろま)の巨大(きょだい)な鉄扉(てっぴ)の前(まえ)へと到達(とうたつ)した。


 シオンが不敵(ふてき)な笑(え)みを浮(う)かべて扉(とびら)を豪快(ごうかい)に蹴(け)り開(あ)けると、そこには圧倒的(あっとうてき)な質量(しつりょう)を持(も)った絶望(ぜつぼう)の光景(こうけい)が広(ひろ)がっていた。


 大広間(おおひろま)の奥(おく)、鋼鉄(こうてつ)を幾重(いくえ)にも溶接(ようせつ)して作(つく)られた禍々(まがまが)しい玉座(ぎょくざ)に、その男(おとこ)は鎮座(ちんざ)していた。


 魔王軍(まおうぐん)四天王(してんのう)の一人(ひとり)、魔将軍(ましょうぐん)バルゴス。


 全身(ぜんしん)を常人(じょうじん)の数倍(すうばい)はある巨大(きょだい)な漆黒(しっこく)の鎧(よろい)に包(つつ)み、手(て)には身(み)の丈(たけ)を超(こ)える大質量(だいしつりょう)の戦鎚(せんつい)を握(にぎ)りしめている。


 その装甲(そうこう)の隙間(すきま)から覗(のぞ)く目(め)は、人質(ひとじち)を奪(うば)われ、すべての計算(けいさん)を狂(くる)わされたことへの怒(いか)りと驚愕(きょうがく)で真(ま)っ赤(か)に血走(ちばし)っていた。


「ネズミめ、まさか我(わ)が警戒網(けいかいもう)を完璧(かんぺき)に潜(くぐ)り抜(ぬ)け、あの地下監獄(ちかかんごく)の結界(けっかい)を力任(ちからまか)せに粉砕(ふんさい)するとはな……! だが、ダークエルフどもをどこへ隠(かく)そうと、この俺(おれ)の不落(ふらく)の要塞(ようさい)から生(い)きて出(で)られると思(おも)うなよ!」


 バルゴスの地鳴(じな)りのような咆哮(ほうこう)が大広間(おおひろま)の壁(かべ)を激(はげ)しく震(ふる)わせる。


 凄(すさ)まじい魔圧(まあつ)が空間(くうかん)を支配(しはい)するが、シオンはそれを真正面(ましょうめん)から浴(あ)びながらも、最高(さいこう)に愉(たの)しげな笑(え)みを浮(う)かべて一歩(いっぽ)前(まえ)へと出(で)る。


「クフフ、不落(ふらく)の要塞(ようさい)だと? 見(み)せかけだけの鉄屑(てつくず)を並(なら)べただけの檻(おり)が、この俺(おれ)を閉(と)じ込(こ)められると本気(ほんき)で思(おも)っているのか。バルゴス、お前(まえ)の言(い)う絶対(ぜったい)の装甲(そうこう)など、俺(おれ)の前(まえ)には存在(そんざい)しないも同然(どうぜん)だ。人質(ひとじち)という安(やす)っぽいカードを失(うしな)ったお前(まえ)に、何(なに)が残(のこ)されている?」


「黙(だま)れ、小悪党(こあくとう)が! 我(わ)が鋼鉄(こうてつ)の軍勢(ぐんぜい)と、この圧倒的(あっとうてき)な破壊力(はかいりょく)の前(まえ)には、貴様(きさま)らの小細工(こざいく)など無意味(むいみ)だということをその身(み)に刻(きざ)んでくれるわ!」


 バルゴスが怒(いか)り狂(くる)って戦鎚(せんつい)を床(ゆか)に叩(たた)きつけると、激(はげ)しい地響(じひび)きとともに大広間(おおひろま)の壁(かべ)が左右(さゆう)へと開(ひら)き、そこから要塞(ようさい)の動力源(どうりょくげん)と直結(ちょっけつ)した巨大(きょだい)な『魔導重砲(まどうじゅうほう)』の砲口(ほうこう)が不気味(ぶきみ)に姿(すがた)を現(あらわ)した。


 人間(にんげん)の街(まち)など一撃(いちげき)で焦土(しょうど)に変(か)える極大(きょくだい)の破壊兵器(はかいへいき)が、ガチガチと重々(おもおも)しい音(おと)を立(た)ててシオンたちへと照準(しょうじゅん)を合(あ)わせる。


「シオン様(さま)、あれは要塞(ようさい)の総魔力(そうまりょく)を注(そそ)ぎ込(こ)んだ一撃(いちげき)です。まともに受(う)ければいかに私(わたし)たちの障壁(しょうへき)でも防(ふせ)ぎきれません……! 」


 リーナが手元(てもと)の魔導書(まどうしょ)を広(ひろ)げて周囲(しゅうい)の魔力波動(まりょくはどう)を解析(かいせき)しながら叫(さけ)ぶ。


 しかし、シオンはそのリーナの前(まえ)に手(て)を差(さ)し伸(の)べ、どこまでも余裕(よゆう)に満(み)ちた態度(たいど)でゆっくりと振(ふ)り返(かえ)る。


「案(あん)ずるな、リーナ。アルテミシア、準備(じゅんび)はいいな?」


「ふふ、もちろんでございますわ、我(わ)が愛(いと)しき主(あるじ)。この要塞(ようさい)の術式回路(じゅつしきかいろ)は、私(わたし)がバルゴスと共同(きょうどう)で構築(こうちく)したもの。すでに半分(はんぶん)以上(いじょう)が私(わたし)の指先(ゆびさき)の中(なか)にありますもの」


 アルテミシアが漆黒(しっこく)のドレスの裾(すそ)を揺(ゆ)らしながら妖艶(ようえん)に微笑(ほほえ)み、細(ほそ)い指先(ゆびさき)を突(つ)き出(だ)して要塞(ようさい)のエネルギーの「歪(ゆが)み」を正確(せいかく)になぞってみせた。


 彼女(かのじょ)とリーナの魔力(まりょく)を同調(どうちょう)させ、防衛(ぼうぎょ)システムを麻痺(まひ)させたあの技術(ぎじゅつ)は、今(いま)や要塞(ようさい)の心臓部(しんぞうぶ)そのものを内側(うちがわ)から蝕(むしば)んでいたのだ。


 バルゴスが引(ひ)き金(がね)を引(ひ)くよりも早(はや)く、魔導重砲(まどうじゅうほう)の砲口(ほうこう)に集(あつ)まっていた莫大(ばくだい)な魔力(まりょく)エネルギーが、制御(せいぎょ)を完全(かんぜん)に失(うしな)って術式回路(じゅつしきかいろ)を逆流(ぎゃくりゅう)し始(はじ)めた。


「な、何(なん)だと!? 魔導砲(まどうほう)が作動(さどう)せん……馬鹿(ばか)な、術式回路(じゅつしきかいろ)が書(か)き換(か)えられているだと!?」


 驚愕(きょうがく)に目(め)を見開(みひら)くバルゴスの視線(しせん)の先(さき)で、魔導重砲(まどうじゅうほう)は内側(うちがわ)から不気味(ぶきみ)な爆発音(ばくはつおん)を立(た)て、激(はげ)しい火花(ひばな)を散(ち)らしながら完全(かんぜん)に沈黙(ちんもく)した。


 シオンの狡猾(こうかつ)な戦略(せんりゃく)は、戦闘(せんとう)が始(はじ)まる遥(はる)か前(まえ)から、この要塞(ようさい)の絶対(ぜったい)的(てき)な優位性(ゆういせい)を奪(うば)い去(さ)っていたのだ。


「お前(まえ)が自慢(じまん)するその玩具(おもちゃ)は、もうただの鉄屑(てつくず)だ。さあ、次(つぎ)は本体(ほんたい)の番(ばん)だな」


 シオンが冷酷(れいこく)に告(つ)げると、その背後(はいご)から六人(ろくにん)の美女(びじょ)たちが一斉(いっせい)に強烈(きょうれつ)な殺気(さっき)を爆発(ばくはつ)させた。


 シェリアを脅(おど)して利用(りよう)し、一族(いちぞく)を家畜(かちく)として使(つか)い潰(つぶ)そうとした魔王軍(まおうぐん)への怒(いか)り。


 それを晴(は)らし、自(みずか)らを救(すく)い出(だ)してくれたシオン様(さま)への絶対(ぜったい)的(てき)な愛(あい)を証明(しょうめい)するため、シェリアが二振(ふたふ)りの短剣(たんけん)を構(かま)えてバルゴスの眼前(がんぜん)へと立(た)ちはだかる。


「バルゴス、お前(まえ)が我(わ)が一族(いちぞく)に与(あた)えた屈辱(くつじょく)、そしてシオン様(さま)の手(て)を煩(わずら)わせた罪(つみ)……その命(いのち)を以(もっ)て、今(いま)すぐ償(つぐな)わせる!」


 



第(だい)47話(わ)へ続(つづ)く







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。