↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/70

【第45話】新たなる主人


 アルテミシアとリーナが同時(どうじ)に魔力(まりょく)を送(おく)り込(こ)むと、地下(ちか)監獄(かんごく)を閉(と)ざしていた重厚(じゅうこう)な鉄(てつ)の扉(とびら)が、内側(うちがわ)から解錠(かいじょう)された。


 防衛(ぼうぎょ)システムを麻痺(まひ)された扉(とびら)は、警報(けいほう)を発(はっ)することすら許(ゆる)されず、音(おと)もなく左右(さゆう)へと開(ひら)かれていく。


「突入(とつにゅう)しろ!」


 シオンの号令(ごうれい)が下(くだ)った瞬間(しゅんかん)、前衛(ぜんえい)の三(さん)人(にん)が弾(はじ)かれたように飛(と)び出(だ)した。


 薄暗(うすぐら)い監獄(かんごく)の内部(ないぶ)には、重(じゅう)装甲(そうこう)兵(へい)たちが十(じゅう)数(すう)名(めい)、武器(ぶき)を構(かま)えて待(ま)ち受(う)けていたが、彼女(かのじょ)たちの敵(てき)ではなかった。


「シオン様(さま)の前(まえ)を塞(ふさ)ぐ雑魚(ざこ)どもが、身(みの)の程(ほど)を知(し)れ!」


 銀(ぎん)の毛並(けな)みを翻(ひるがえ)してフェンリルのセレナが、神速(しんそく)の踏(ふ)み込(こ)みとともに爪(つめ)を振(ふ)るう。


 分厚(ぶあつ)い鋼鉄(こうてつ)の装甲(そうこう)が、まるで生木(なまき)を引(ひ)き裂(さ)くかのように容易(たやす)く両断(りょうだん)され、血飛沫(ちしぶき)とともに警備兵(けいびへい)たちが崩(くず)れ落(お)ちた。


「そこを動(うご)くんじゃないよ」


 ルビリアが放(はな)った精神魅了(せいしんみりょう)の魔術(まじゅつ)が、反撃(はんげき)を試(こころ)みようとした兵(へい)たちの五感(ごかん)を狂(くる)わせる。


 彼(かれ)らが戦意(せんい)を喪失(そうしつ)して武器(ぶき)を構(かま)えたまま立(た)ちすくむ。その背後(はいご)から地(ち)を這(は)うような速度(そくど)で接近(せっきん)したルナリスの鋭(するど)い戦斧(せんぷ)が兵(へい)の首(くび)へと炸裂(さくれつ)する。


 わずか十(じゅう)数(すう)秒(びょう)。


 緊迫(きんぱく)した空間(くうかん)には、物言(もの)わぬ肉塊(にくかい)と化(か)した兵士(へいし)たちが転(ころ)がっていた。


 完璧(かんぺき)なまでの連携(れんけい)と圧倒(あっとう)的(てき)な戦力(せんりょく)。


 シオンの愛(あい)に染(そ)まり、その絶対(ぜったい)的(てき)な覇気(はき)に当(あ)てられた彼女(かのじょ)たちの戦闘(せんとう)力(りょく)は、シオンと交(まじ)わることで得(え)られたバフ効果(こうか)で以前(いぜん)の力(ちから)を遥(はる)かに凌駕(りょうが)していた。


「素晴(すば)らしい手際(てぎわ)だ。行(い)くぞ、シェリア」


「はい……っ、シオン様(さま)!」


 シオンは漆黒(しっこく)の外套(がいとう)に返(かえ)り血(ち)の一(いっ)滴(てき)すら浴(あ)びることなく監獄(かんごく)の奥(おく)へと進(すす)む。


 そのすぐ隣(となり)を、シェリアが先導(せんどう)する。


 監獄(かんごく)の最奥(さいおう)は、隣接(りんせつ)する魔導(まどう)溶解(ようかい)炉(ろ)の熱気(ねっき)が流(なが)れ込(こ)み、息苦(いきぐる)しいほどの高温(こうおん)に満(み)ちていた。


 そこに広(ひろ)がる無数(むすう)の鉄格子(てつごうし)の向(む)かい側(がわ)に、彼女(かのじょ)が何(なに)よりも大切(たいせつ)にしていた同胞(どうほう)たちの姿(すがた)があった。


 ダークエルフたちは、一様(いちよう)に衰弱(すいじゃく)し、壁(かべ)に繋(つな)がれた禍々(まがまが)しい枷(かせ)によって魔力(まりょく)を絶(た)え間(ま)なく吸(す)い取(と)られている。


 その中(なか)には、幼(おさな)い子供(こども)や、かつて一族(いちぞく)を率(ひき)いていた年老(としおい)いた長老(ちょうろう)の姿(すがた)もあった。


「みんな……!無事(ぶじ)なのね……っ!」


 シェリアが鉄格子(てつごうし)に駆(か)け寄(よ)り、涙(なみだ)を浮(う)かべて声(こえ)をかける。


「お、王女(おうじょ)、シェリア……? なぜ、ここに……。魔王(まおう)軍(ぐん)に逆(さか)らえば、お前(まえ)も……」


 弱々(よわよわ)しく顔(かお)を上(あ)げた長老(ちょうろう)が、信(しん)じられないというように目(め)を見開(みひら)いた。


 その混乱(こんらん)の中(なか)、ダークエルフたちの視線(しせん)は、シェリアの後(うし)ろからゆっくりと歩(あゆ)み寄(よ)ってくるシオンへと集(あつ)まった。


「シェリア、これが国(くに)を失(うしな)い、魔王(まおう)軍(ぐん)の家畜(かちく)に成(な)り下(さ)がったお前(まえ)の一族(いちぞく)か」


 ダークエルフたちは、その男(おとこ)から放(はな)たれる、魔王(まおう)すらも圧倒(あっとう)しかねない凄(すさ)まじい魔(ま)圧(あつ)と、底知(そこし)れない支配者(しはいしゃ)の器量(きりょう)に本能(ほんのう)的(てき)な恐怖(きょうふ)を覚(おぼ)え、思(おも)わず身(み)をすくませた。


「シオン様(さま)……はい。これが、私(わたし)の守(まも)りたかったすべてです」


 シェリアはシオンの前(まえ)で跪(ひざまず)き、すがるような瞳(ひとみ)で見上(みあ)げた。


 一族(いちぞく)の命運(めいうん)が、今(いま)この男(おとこ)の双肩(そうけん)にかかっている。


 シオンの気分(きぶん)一(ひと)つで、彼(かれ)らの命(いのち)など簡単(かんたん)に消(け)し飛(と)ばせることを、彼女(かのじょ)は誰(だれ)よりも理解(りかい)していた。


 シオンはふっと鼻(はな)で笑(わら)うと、おもむろに右手(みぎて)を突(つ)き出(だ)した。


 その手(て)の平(ひら)に、濃密(のうみつ)な紫黒(しこく)色(しょく)の魔力(まりょく)が収束(しゅうそく)していく。


「リーナ、アルテミシア。一族(いちぞく)を縛(しば)っている術式(じゅつしき)結界(けっかい)の核(かく)を指定(してい)しろ。一気(いっき)に砕(くだ)く」


「すでに解析(かいせき)は完了(かんりょう)しております、シオン様(さま)。中央(ちゅうおう)の魔導(まどう)礎石(そせき)へ、その強大(きょうだい)な魔力(まりょく)を叩(たた)き込(こ)んでください!」


 アルテミシアの言葉(ことば)が終(お)わるよりも早(はや)く、シオンの放(はな)った魔力(まりょく)が監獄(かんごく)の術式(じゅつしき)回路(かいろ)を直撃(ちょくげき)した。


 凄(すさ)まじい爆音(ばくおん)とともに、ダークエルフたちを縛(しば)り、その命(いのち)を削(けず)り続(つづ)けていた「枷(かせ)」が内側(うちがわ)から一斉(いっせい)に粉砕(ふんさい)される。


 金属(きんぞく)の破片(はへん)が飛(と)び散(ち)り、解放(かいほう)された同胞(どうほう)たちがその場(ば)にへたり込(こ)む。


「あ、ああ……魔力(まりょく)を吸(す)い取(と)る呪(のろ)いが、消(き)えた……?」


「嘘(うそ)だろ、人間(にんげん)の男(おとこ)が、四天王(してんのう)の施(ほどこ)した一(いっ)級(きゅう)結界(けっかい)を力任せ(ちからまかせ)に壊した(こわした)というのか……!?」


 驚愕(きょうがく)に震(ふる)える一族(いちぞく)の者(もの)たちを前(まえ)に、シオンは歩(あゆみ)を進(すす)め、長老(ちょうろう)の前(まえ)に立(た)った。


 単(たん)なる加虐(かぎゃく)的(てき)な悪党(あくとう)であれば、ここで新(あら)たな隷属(れいぞく)を強(し)いるだろう。


 しかし、シオンの瞳(ひとみ)にあるのは、自(みずか)らの傘下(さんか)に入(はい)った者(もの)を丸(まる)ごと庇護(ひご)する、覇王(はおう)としての圧倒(あっとう)的(てき)な男(おとこ)の魅力(みりょく)だった。


「シェリアの同胞(どうほう)よ、よく聞(き)け。お前(まえ)たちを脅(おど)し、利用(りよう)してきた魔王(まおう)軍(ぐん)の時代(じだい)は、今(いま)この瞬間(しゅんかん)を以(もっ)て終(お)わった。今日(きょう)からお前(まえ)たちの命(いのち)は、この俺(おれ)、シオンがあずかる」


 シオンは不敵(ふてき)で、かつ絶対(ぜったい)的(てき)な安心(あんしん)感(かん)を与(あた)える笑(え)みを浮(う)かべ、シェリアの肩(かた)を抱(だ)き寄(よ)せた。


「俺(おれ)の女(おんな)であるシェリアが、一族(いちぞく)の行(ゆ)く末(すえ)を憂(うれ)いて暗(くら)い顔(かお)をしているのが気(き)に入(い)らん。だから、お前(まえ)たちを救(すく)い出(だ)した。これからは魔王(まおう)軍(ぐん)の脅威(きょうい)に怯(おび)える必要(ひつよう)はない。俺(おれ)の庇護(ひご)のもとで、一族(いちぞく)の再興(さいこう)を果(は)たすがいい。その代(か)わり、お前(まえ)たちの持(も)つ魔力(まりょく)と技術(ぎじゅつ)のすべてを、俺(おれ)のために捧(ささ)げろ。異論(いろん)はあるか?」


 その言葉(ことば)は、過酷(かこく)な奴隷(どれい)契約(けいやく)などではなかった。


 絶望(ぜつぼう)の奈落(ならく)の底(そこ)にいた彼(かれ)らに差(さ)し伸(の)べられた、あまりにも強大(きょうだい)で、あまりにも甘美(かんび)な「救済(きゅうさい)」の手(て)だった。


 人質(ひとじち)を取(と)って脅(おど)すバルゴスとは格(かく)が違(ちが)う、本物(ほんもの)の強者(きょうしゃ)の度量(どりょう)。


「おお……ああ……っ、なんという御方(おかた)だ……」


 長老(ちょうろう)は涙(なみだ)を流(なが)し、その場(ば)に平伏(へいふく)した。


 それに続(つづ)くように、ダークエルフたちが一斉(いっせい)にシオンに向(む)かって頭(あたま)を垂(た)れる。


「我(わ)が一族(いちぞく)の新(あら)たな主(あるじ)、シオン様(さま)……! この御恩(ごおん)、命(いのち)が尽(つ)きるまで忘(わす)れません。ダークエルフの忠誠(ちゅうせい)は、今(いま)この瞬間(しゅんかん)から、あなた様(さま)だけのものです!」


 一族(いちぞく)の歓喜(かんき)の声(こえ)が響(ひび)く中(なか)、シェリアの胸(むね)の内(うち)は、爆発(ばくはつ)せんばかりの熱(あつ)い感情(かんじょう)で満(み)たされていた。


 恐怖(きょうふ)や快楽(かいらく)の調教(ちょうきょう)を超(こ)えて、シオンという男(おとこ)の圧倒(あっとう)的(てき)な器量(きりょう)、そして自分(じぶん)たちのためにリスクを背負(せお)ってくれたその優(やさ)しさと男気(おとこぎ)に、魂(たましい)の奥深(おくふか)くまで完全(かんぜん)に魅了(みりょう)されていた。


「シオン様(さま)……ああ、シオン様(さま)……! 私(わたし)は、本当(ほんとう)にあなたにすべてを捧(ささ)げてよかった……! あなたこそが、私(わたし)の、私(わたし)の一族(いちぞく)の、絶対(ぜったい)の神(かみ)です……!」


 シェリアはシオンの足元(あしもと)にすがりつき、歓喜(かんき)の涙(なみだ)を流(なが)しながらその甲(こう)に口(くち)づけを落(お)とした。


 その瞳(ひとみ)には、かつてないほど濃厚(のうこう)な愛欲(あいよく)と、盲目(もうもく)的(てき)なまでの忠誠(ちゅうせい)心(しん)が宿(やど)っている。


 だが、その感動(かんどう)的(てき)な光景(こうけい)を破(やぶ)るように、監獄(かんごく)の天井(てんじょう)から不気味(ぶきみ)な振動(しんどう)が伝(つた)わってきた。


 要塞(ようさい)全体(ぜんたい)を揺(ゆ)るがすような重低音(じゅうていおん)。


 バルゴスが人質(ひとじち)の奪還(だっかん)と、裏切者(うらぎりもの)の存在(そんざい)に気(き)づいたのだ。


「フッ、どうやら間抜(まぬ)けな鉄屑(てつくず)が、ようやく我(わ)が家(や)のネズミに気(き)づいたようだな」


 シオンは天井(てんじょう)を見上(みあ)げ、最高(さいこう)に愉(たの)しげな笑(え)みを浮(う)かべた。


 人質(ひとじち)を奪(うば)われ、すべての計算(けいさん)を狂(くる)わされた四天王(してんのう)バルゴスが、これからどんな絶望(ぜつぼう)の表情(ひょうじょう)を浮(う)かべるのか。


 それを想像(そうぞう)するだけで、彼(かれ)の征服(せいふく)欲(よく)は激(はげ)しく昂(たかぶ)る。


「リーナ、アルテミシア、一族(いちぞく)を安全(あんぜん)な場所(ばしょ)まで連(つ)れて行(い)け。残(のこ)りの者(もの)は俺(おれ)に続(つづ)け。……さあ、バルゴス。お前(まえ)が自慢(じまん)する鋼鉄(こうてつ)の装甲(そうこう)が、俺(おれ)たちの前(まえ)でどこまで耐(た)えられるか、試(ため)してやろうじゃないか」


「御意(ぎょい)、我(わ)が愛(いと)しき主(あるじ)シオン様(さま)!!」


 六(ろく)人(にん)の美女(びじょ)たちの咆哮(ほうこう)が、地下(ちか)監獄(かんごく)を震撼(しんかん)させる。


 魔王(まおう)軍(ぐん)四天王(してんのう)バルゴスの破滅(はめつ)、そして要塞(ようさい)の完全(かんぜん)陥落(かんらく)へ向(む)けて、進撃(しんげき)の足音(あしおと)が大(おお)きく鳴(な)り響(ひび)いた。




第(だい)46話(わ)へ続(つづ)く





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。