シオンの絶対的な号令のもと、黒鉄の要塞へ向けた隠密救出作戦が即座に発動された。
大浴場での淫靡な狂乱から一転、要塞の手前に広がる不気味な黒土の荒野には、張り詰めた緊張感が漂っている。
上空を覆う厚い暗雲は陽の光を完全に遮り、魔王軍四天王の一人、魔将軍バルゴスが支配する拠点の不落のシルエットを不気味に浮かび上がらせていた。
その荒野の影に身を潜めるのは、シオンと彼に従う七人の美女たちだ。
衣服を整え、それぞれの戦闘装束に身を包んだ彼女たちの視線は、すべて中心に立つ一人の男、シオンへと注がれている。
「シオン、前方に見えるのが黒鉄の要塞の全容よ。外壁には何層もの防御結界が張られていて、無理に接近すれば即座に高火力の魔導砲の餌食になってしまうわ」
魔導士リーナが、瞳の奥を鋭く光らせながら、手元の魔導書を広げて周囲の魔力波動を解析する。
魔導士としての冷静な分析力は健在だが、その立ち姿はシオンの斜め後ろにぴったりと寄り添い、主を立てることを最優先にしていた。
「クク、そんな見せかけだけの防壁、私たちの前には存在しないも同然ですわ、シオン様」
サキュバスのルビリアと黒耀の魔女アルテミシアが、漆黒のドレスの裾を揺らしながら妖艶に微笑む。
ルビリアが細い指先を突き出し、要塞を覆う見えない結界の「歪み」を正確になぞってみせた。
「かつて私がバルゴスと共同で構築した術式回路です。私とリーナさんの魔力を同調させれば、敵の警戒網に一切引っかかることなく、内側から防壁の機能を一時的に完全沈黙させられます。すべてはシオン様が進む道を開くため……」
「よし、アルテミシア、リーナ。お前たちの魔力で即座にその防壁を征圧しろ。まずは裏口を抉り出すぞ」
シオンが命じると、二人は互いの手を重ね合わせて詠唱を開始した。
漆黒の魔力と青白い魔導光が絡み合い、要塞の外壁に張られた強固な結界の一角に、人間一人が容易に通れるほどの小さな「穴」が音もなく開いていく。
「見事だ。……シェリア、案内しろ。お前の一族が囚われている地下監獄への最短ルートは頭に入っているな?」
シオンが視線を移すと、ダークエルフの王女シェリアが、深く、深く頭を垂れた。
その褐色肌の肢体は隠密用の漆黒の軽装に包まれており、魔王軍最凶と恐れられた暗殺者の風格を取り戻している。
しかし、その瞳に宿る光は、かつてのように義務感と絶望に縛られたものではなかった。
自分の一族を救うために自らリスクを背負い、先導してくれるシオンへの、狂おしいほどの恋慕と絶対の忠誠。
それが彼女の刃をさらに鋭く研ぎ澄ませていた。
「はい、シオン様。バルゴスはダークエルフの持つ高い魔力を要塞の動力源として絞り取るため、最下層にある『魔導溶解炉』の地下監獄に一族全員を幽閉しています。私に付いてきてください……あなたの影となり、必ずや一族の元へとご案内いたします」
「フッ、お前の案内なら信頼できる。行くぞ」
シオンの不敵な笑みとともに、一同は開けられた結界の穴を通り、要塞の内部へと音もなく侵入した。
要塞の内部は、鋼鉄の壁で囲まれた冷徹な空間だった。
いたる所に魔導ランプが灯り、バルゴスが誇る重装甲兵たちが等間隔で巡回している。
常人であれば一歩進むことすら不可能な厳重な警戒網だが、シオンたちの前ではただの障害物にもならなかった。
「私の幻術からは、誰逃れられないわよぉ」
妖精族のルミナリアが、透明な羽をパタパタと震わせながら、巡回中の兵士たちへ両手をかざす。
彼女が放った極彩色の鱗粉が通路に広がると、重装甲兵たちは一瞬で虚空を見つめたまま硬直した。
シオンたちが目の前を通り過ぎても、幻術によってその姿を認識することすらできないのだ。
「ふん、いつでも首を噛みちぎる準備はできているぞ、シオン様」
「私とルナリスも、シオン様のために道を塞ぐ雑魚どもをいつでも引き裂いてみせます!」
長い銀髪を揺らすフェンリルのセレナと、尾をせわしなく揺らすウルフ族のルナリスが、獣特有の身体能力で音もなくシオンの左右を固める。
彼女たちの意識は、シオンの覇気と同調するように静かに脈打っており、圧倒的な戦意を内に秘めていた。
シェリアの完璧な先導により、一行は一度も警報を鳴らされることなく、要塞の最深部へと続く重厚な鉄の扉の前へと到達した。その先から漏れ聞こえてくるのは、不気味に響く魔力の駆動音と、かすかな悲鳴は、ダークエルフたちのものだった。
「この扉の先が、地下監獄です」
シェリアの身体が、怒りと悲しみで僅かに震える。
一族の命を弄び、自らを暗殺者として使い潰そうとした魔王軍への怒り。
それを察したシオンは、彼女の肩を不意に引き寄せ、その耳元で優しく囁いた。
「怯えるな、シェリア。お前の一族の運命は、もう魔王軍の手の中にはない。この俺がすべてを支配し、救い出すと決めたんだ。お前はただ、俺の横でその結末を見ていればいい」
シオンの男としての圧倒的な抱擁力と、絶対的な自信に満ちた言葉が、シェリアの胸の奥を激しく焦がした。彼女は顔を赤らめ、熱い吐息を漏らしながらシオンを見上げる。
「ああ……シオン様……。私は、本当にあなたに救われました……」
恐怖の調教ではなく、男としての器量で女の心を完全に奪い去る。
シオンのその魅力こそが、彼女たちを無敵の軍勢へと変える真の源泉だった。
「アルテミシア、リーナ、扉の封印を解け。セレナ、ルナリス、ルミナリアは突入と同時に内部の看守を制圧しろ。シェリアは俺と共に一族の解放に向かうぞ」
「御意、我が愛しき主シオン様」
七人の美女たちの声が重なり、要塞の最深部に絶対の覇王の進撃が開始される。
ダークエルフ、シェリアの一族の救出、そして四天王バルゴスの破滅への狂想曲が、ついにその幕を開けたのだった。
第45話へ続く