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ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


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【第44話】一族の奪還


 シオンの絶対(ぜったい)的な号令(ごうれい)のもと、黒鉄(くろがね)の要塞(ようさい)へ向(む)けた隠密(おんみつ)救出(きゅうしゅつ)作戦(さくせん)が即座(そくざ)に発動(はつどう)された。


 大浴場(だいよくじょう)での淫靡(いんび)な狂乱(きょうらん)から一転(いってん)、要塞(ようさい)の手前(てまえ)に広(ひろ)がる不気味(ぶきみ)な黒土(くろつち)の荒野(こうや)には、張(は)り詰(つ)めた緊張(きんちょう)感(かん)が漂(ただよ)っている。


 上空(じょうくう)を覆(おお)う厚(あつ)い暗雲(あんうん)は陽(ひ)の光(ひかり)を完全(かんぜん)に遮(さえぎ)り、魔王(まおう)軍(ぐん)四天王(してんのう)の一人(ひとり)、魔(ま)将軍(しょうぐん)バルゴスが支配(しはい)する拠点(きょてん)の不落(ふらく)のシルエットを不気味(ぶきみ)に浮(う)かび上(あ)がらせていた。


 その荒野(こうや)の影(かげ)に身(み)を潜(ひそ)めるのは、シオンと彼(かれ)に従(したが)う七(なな)人(にん)の美女(びじょ)たちだ。


 衣服(いふく)を整(ととの)え、それぞれの戦闘(せんとう)装束(しょうぞく)に身(み)を包(つつ)んだ彼女(かのじょ)たちの視線(しせん)は、すべて中心(ちゅうしん)に立(た)つ一(ひと)人(り)の男(おとこ)、シオンへと注(そそ)がれている。


「シオン、前方(ぜんぽう)に見(み)えるのが黒鉄(くろがね)の要塞(ようさい)の全容(ぜんよう)よ。外壁(がいへき)には何(なん)層(そう)もの防御(ぼうぎょ)結界(けっかい)が張(は)られていて、無理(むり)に接近(せっきん)すれば即座(そくざ)に高(こう)火力(かりょく)の魔導(まどう)砲(ほう)の餌食(えじき)になってしまうわ」


 魔導(まどう)士(し)リーナが、瞳(ひとみ)の奥(おく)を鋭(するど)く光(ひか)らせながら、手元(てもと)の魔導(まどう)書(しょ)を広(ひろ)げて周囲(しゅうい)の魔力(まりょく)波動(はどう)を解析(かいせき)する。


 魔導(まどう)士(し)としての冷静(れいせい)な分析(ぶんせき)力(りょく)は健在(けんざい)だが、その立(た)ち姿(すがた)はシオンの斜(なな)め後(うし)ろにぴったりと寄(よ)り添(そ)い、主(あるじ)を立(た)てることを最(さい)優先(ゆうせん)にしていた。


「クク、そんな見(み)せかけだけの防壁(ぼうへき)、私(わたし)たちの前(まえ)には存在(そんざい)しないも同然(どうぜん)ですわ、シオン様(さま)」


  サキュバスのルビリアと黒耀(こくよう)の魔女(まじょ)アルテミシアが、漆黒(しっこく)のドレスの裾(すそ)を揺(ゆ)らしながら妖艶(ようえん)に微笑(ほほえ)む。


 ルビリアが細(ほそ)い指先(ゆびさき)を突(つ)き出(だ)し、要塞(ようさい)を覆(おお)う見(み)えない結界(けっかい)の「歪(ゆが)み」を正確(せいかく)になぞってみせた。


「かつて私(わたし)がバルゴスと共同(きょうどう)で構築(こうちく)した術式(じゅつしき)回路(かいろ)です。私(わたし)とリーナさんの魔力(まりょく)を同調(どうちょう)させれば、敵(てき)の警戒(けいかい)網(もう)に一切(いっさい)引(ひ)っかかることなく、内側(うちがわ)から防壁(ぼうへき)の機能(きのう)を一時(いちじ)的(てき)に完全(かんぜん)沈黙(ちんもく)させられます。すべてはシオン様(さま)が進(すす)む道(みち)を開(ひら)くため……」


「よし、アルテミシア、リーナ。お前(まえ)たちの魔力(まりょく)で即座(そくざ)にその防壁(ぼうへき)を征圧(せいあつ)しろ。まずは裏口(うらぐち)を抉(えぐ)り出(だ)すぞ」


 シオンが命(めい)じると、二(ふた)人(り)は互(たが)いの手(て)を重(かさ)ね合(あ)わせて詠唱(えいしょう)を開始(かいし)した。


 漆黒(しっこく)の魔力(まりょく)と青白(あおじろ)い魔導(まどう)光(こう)が絡(から)み合(あ)い、要塞(ようさい)の外壁(がいへき)に張(は)られた強固(きょうこ)な結界(けっかい)の一角(いっかく)に、人間(にんげん)一(ひと)人(り)が容易(ようい)に通(とお)れるほどの小(ちい)さな「穴(あな)」が音(おと)もなく開(ひら)いていく。


「見事(みごと)だ。……シェリア、案内(あんない)しろ。お前(まえ)の一族(いちぞく)が囚(とら)われている地下(ちか)監獄(かんごく)への最短(さいたん)ルートは頭(あたま)に入(はい)っているな?」


 シオンが視線(しせん)を移(うつ)すと、ダークエルフの王女(おうじょ)シェリアが、深(ふか)く、深(ふか)く頭(あたま)を垂(た)れた。


 その褐色(かっしょく)肌(はだ)の肢体(したい)は隠密(おんみつ)用(よう)の漆黒(しっこく)の軽装(けいそう)に包(つつ)まれており、魔王(まおう)軍(ぐん)最凶(さいきょう)と恐(おそ)れられた暗殺者(あんさつしゃ)の風格(ふうかく)を取(と)り戻(もど)している。


 しかし、その瞳(ひとみ)に宿(やど)る光(ひかり)は、かつてのように義務(ぎむ)感(かん)と絶望(ぜつぼう)に縛(しば)られたものではなかった。


 自分(じぶん)の一族(いちぞく)を救(すく)うために自(みずか)らリスクを背負(せお)い、先導(せんどう)してくれるシオンへの、狂(くる)おしいほどの恋慕(れんぼ)と絶対(ぜったい)の忠誠(ちゅうせい)。


 それが彼女(かのじょ)の刃(やいば)をさらに鋭(するど)く研(と)ぎ澄(す)ませていた。


「はい、シオン様(さま)。バルゴスはダークエルフの持(も)つ高(たか)い魔力(まりょく)を要塞(ようさい)の動力(どうりょく)源(げん)として絞(しぼ)り取(と)るため、最下層(さいかそう)にある『魔導(まどう)溶解(ようかい)炉(ろ)』の地下(ちか)監獄(かんごく)に一族(いちぞく)全員(ぜんいん)を幽閉(ゆうへい)しています。私(わたし)に付(つ)いてきてください……あなたの影(かげ)となり、必(かなら)ずや一族(いちぞく)の元(もと)へとご案内(あんない)いたします」


「フッ、お前(まえ)の案内(あんない)なら信頼(しんらい)できる。行(い)くぞ」


 シオンの不敵(ふてき)な笑(え)みとともに、一同(いちどう)は開(あ)けられた結界(けっかい)の穴(あな)を通(とお)り、要塞(ようさい)の内部(ないぶ)へと音(おと)もなく侵入(しんにゅう)した。


 要塞(ようさい)の内部(ないぶ)は、鋼鉄(こうてつ)の壁(かべ)で囲(かこ)まれた冷徹(れいてつ)な空間(くうかん)だった。


 いたる所(ところ)に魔導(まどう)ランプが灯(とも)り、バルゴスが誇(ほこ)る重(じゅう)装甲(そうこう)兵(へい)たちが等(とう)間隔(かんかく)で巡回(じゅんかい)している。


 常人(じょうじん)であれば一(いっ)歩(ぽ)進(すす)むことすら不可能(ふかのう)な厳重(げんじゅう)な警戒(けいかい)網(もう)だが、シオンたちの前(まえ)ではただの障害(しょうがい)物(ぶつ)にもならなかった。


「私(わたし)の幻術(げんじゅつ)からは、誰(だれも)逃(のが)れられないわよぉ」


 妖精(ようせい)族(ぞく)のルミナリアが、透明(とうめい)な羽(ハね)をパタパタと震(ふる)わせながら、巡回(じゅんかい)中(ちゅう)の兵士(へいし)たちへ両手(りょうて)をかざす。


 彼女(かのじょ)が放(はな)った極彩色(ごくさいしき)の鱗粉(りんぷん)が通路(つうろ)に広(ひろ)がると、重(じゅう)装甲(そうこう)兵(へい)たちは一瞬(いっしゅん)で虚空(こくう)を見(み)つめたまま硬直(こうちょく)した。


 シオンたちが目(め)の前(まえ)を通(とお)り過(す)ぎても、幻術(げんじゅつ)によってその姿(すがた)を認識(にんしき)することすらできないのだ。


「ふん、いつでも首(くび)を噛(か)みちぎる準備(じゅんび)はできているぞ、シオン様(さま)」


「私(わたし)とルナリスも、シオン様(さま)のために道(みち)を塞(ふさ)ぐ雑魚(ざこ)どもをいつでも引(ひ)き裂(さ)いてみせます!」


 長(なが)い銀髪(ぎんぱつ)を揺(ゆ)らすフェンリルのセレナと、尾(お)をせわしなく揺(ゆ)らすウルフ族(ぞく)のルナリスが、獣(けもの)特有(とくゆう)の身体(しんたい)能力(のうりょく)で音(おと)もなくシオンの左右(さゆう)を固(かた)める。


 彼女(かのじょ)たちの意識(いしき)は、シオンの覇気(はき)と同調(どうちょう)するように静(しず)かに脈打(みゃくう)っており、圧倒(あっとう)的(てき)な戦意(せんい)を内(うち)に秘(ひ)めていた。


 シェリアの完璧(かんぺき)な先導(せんどう)により、一行(いっこう)は一度(いちど)も警報(けいほう)を鳴(な)らされることなく、要塞(ようさい)の最深部(さいしんぶ)へと続(つづ)く重厚(じゅうこう)な鉄(てつ)の扉(とびら)の前(まえ)へと到達(とうたつ)した。その先(さき)から漏(も)れ聞(きこ)こえてくるのは、不気味(ぶきみ)に響(ひび)く魔力(まりょく)の駆動(くどう)音(おん)と、かすかな悲鳴(ひめい)は、ダークエルフたちのものだった。


「この扉(とびら)の先(さき)が、地下(ちか)監獄(かんごく)です」


 シェリアの身体(しんたい)が、怒(いか)りと悲(かな)しみで僅(わず)かに震(ふる)える。


 一族(いちぞく)の命(いのち)を弄(もてあそ)び、自(みずか)らを暗殺者(あんさつしゃ)として使(つか)い潰(つぶ)そうとした魔王(まおう)軍(ぐん)への怒(いか)り。


 それを察(さっ)したシオンは、彼女(かのじょ)の肩(かた)を不意(ふい)に引(ひ)き寄(よ)せ、その耳元(みみもと)で優(やさ)しく囁(ささや)いた。


「怯(おび)えるな、シェリア。お前(まえ)の一族(いちぞく)の運命(うんめい)は、もう魔王(まおう)軍(ぐん)の手(て)の中(なか)にはない。この俺(おれ)がすべてを支配(しはい)し、救(すく)い出(だ)すと決(き)めたんだ。お前(まえ)はただ、俺(おれ)の横(よこ)でその結末(けつまつ)を見(み)ていればいい」


 シオンの男(おとこ)としての圧倒(あっとう)的(てき)な抱擁(ほうよう)力(りょく)と、絶対(ぜったい)的(てき)な自信(じしん)に満(み)ちた言葉(ことば)が、シェリアの胸(むね)の奥(おく)を激(はげ)しく焦(こ)がした。彼女(かのじょ)は顔(かお)を赤(あか)らめ、熱(あつ)い吐息(といき)を漏(も)らしながらシオンを見上(みあ)げる。


「ああ……シオン様(さま)……。私(わたし)は、本当(ほんとう)にあなたに救(すく)われました……」


 恐怖(きょうふ)の調教(ちょうきょう)ではなく、男(おとこ)としての器量(きりょう)で女(おんな)の心(こころ)を完全(かんぜん)に奪(うば)い去(さ)る。


 シオンのその魅力(みりょく)こそが、彼女(かのじょ)たちを無敵(むてき)の軍勢(ぐんぜい)へと変(か)える真(しん)の源泉(げんせん)だった。


「アルテミシア、リーナ、扉(とびら)の封印(ふういん)を解(と)け。セレナ、ルナリス、ルミナリアは突入(とつにゅう)と同時(どうじ)に内部(ないぶ)の看守(かんしゅ)を制圧(せいあつ)しろ。シェリアは俺(おれ)と共(とも)に一族(いちぞく)の解放(かいほう)に向(む)かうぞ」


「御意(ぎょい)、我(わ)が愛(いと)しき主(あるじ)シオン様(さま)」


 七(なな)人(にん)の美女(びじょ)たちの声(こえ)が重(かさ)なり、要塞(ようさい)の最深部(さいしんぶ)に絶対(ぜったい)の覇王(はおう)の進撃(しんげき)が開始(かいし)される。


 ダークエルフ、シェリアの一族(いちぞく)の救出(きゅうしゅつ)、そして四天王(してんのう)バルゴスの破滅(はめつ)への狂想曲(きょうそうきょく)が、ついにその幕(まく)を開(あ)けたのだった。




第(だい)45話(わ)へ続(つづ)く







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