【第4話】支配者の誕生!
ダンジョンの静寂は、無機質な足音によって破られた。
異変に気づき戻ってきたのは、先ほど俺たちが向こうへ行かせた剣士だった。
その顔には、驚愕と、言いようのない怯えが張り付いている。
彼が見たのは、無能の烙印を押されていたはずのシオンが、パーティーの主力であるリーナを抱き寄せ、巨大なボスモンスターを屠った直後の光景だ。
「……リーナ? シオン? お前ら、一体何をしたんだ」
剣士の言葉に、リーナは俺の腕の中からゆっくりと身を離した。
彼女の頬は微かに紅潮し、俺の肩を支える手には、先ほどまでの冷徹さではなく、どこか依存めいた熱が宿っている。
俺はリーナの腰を軽く叩き、彼女を後ろへ促してから、剣士の方を振り返った。
ホストとして鍛え上げた営業スマイル。
それは今、冷笑に近い形となって俺の口元に浮かんでいる。
「何をしたか、だと? 見れば分かるだろう」
俺は床に転がるボスの残骸を顎で示した。
剣士は言葉を失い、さらに背後からやってきた残りのメンバーも、揃って絶句している。
彼らにとって、シオンはパーティーの重荷でしかなかったはずだ。
それが今や、ボスの核を砕き、リーナを支配下に置いている。
この状況は、彼らの狭い常識を根底から覆すものだろう。
「シオン、貴様……リーナに何をした!?」
剣士が剣を抜き放ち、俺へと切っ先を向ける。
彼らの動揺は心地よい。
だが、今はまだここで争うべきではない。
俺の固有スキル『性の捕食者』は、まだ発動したばかりで、この身体のキャパシティを底上げし続ける必要がある。
俺はリーナを一瞥した。
彼女は俺の視線に応えるように、冷やかな視線を剣士へと向けた。
「やめなさい。シオンは、私を助けてくれたのよ」
リーナの声は、どこまでも澄んでいた。
しかし、その言葉には剣士たちを拒絶する響きが含まれている。
彼女は俺にすがりつくように一歩踏み出し、パーティー全体を見下ろした。
「あんたたちは、これまでシオンをゴミのように扱ってきたわよね。でも、本当のゴミはあんたたちだったのよ」
俺は心の中で小さく喝采を送った。
いいぞ、リーナ。
最高のヒロインだ。
彼女の変貌ぶりは、俺の狙い通りだ。
この調子でいけば、彼女は完全に俺の「指名客」として、一生俺の隣で魔力を捧げ続けることになるだろう。
剣士たちは、リーナの態度に圧倒され、剣を収めるしかなかった。
このパーティーの主導権は、完全に俺の側へと移った。
帰り道、ダンジョンの出口を目指す道中で、俺はゆっくりと周囲の空気を観察した。
リーナは俺のすぐ横を歩き、時折俺を見つめては、満足げに微笑む。
彼女の魔力回路が、俺との接触によってかつてないほど活発に循環しているのを感じる。
俺の身体の痛みは完全に消え去り、かつて神楽咲紫苑として持っていた感覚以上の鋭敏さが、全身を駆け巡っている。
「ねえ、シオン」
リーナが俺の袖を掴んだ。
ダンジョンの出口付近まで来ると、彼女は急に声を潜めて囁いた。
「これから、どうするつもり? このパーティーを去るの?」
俺は空を見上げた。
ダンジョンの外には、夜空が広がっているはずだ。
異世界の夜空も、きっと新宿のネオンよりは少しだけマシなはずだ。
「去る? いや、そんなもったいないことはしない」
俺は彼女の耳元で甘く囁いた。
「この無能な連中を、俺の『下僕』としてこき使いながら、頂点まで登り詰めるんだ。君という最高のパートナーを連れて、な」
リーナは真っ赤になりながら、それでも嬉しそうに頷いた。
彼女にとって、俺の言葉は麻薬だ。
一度味わえば、二度と手放せない。
地上へと戻ると、冷たい夜風が俺たちの火照った身体を冷やした。
ここからが、俺のホスト人生の本当の始まりだ。
かつて歌舞伎町で積み上げた伝説は、ほんの序章に過ぎない。
このファンタジーの世界で、俺は最強のカリスマとして、すべての女たちの心を、そして能力を、我がものにする。
パーティーのメンバーたちが、所在なげに俺たちの後ろを歩いている。
彼らはまだ気づいていない。
自分たちが、これから俺という「神」に支配される運命にあることを。
俺は空を見上げ、深く息を吸い込んだ。
「さあ、飲みに行こうか。勝利の祝杯だ」
そう言って、俺はリーナの手を引いた。
背後の剣士が何か言いたげにしているが、俺には関係ない。
俺の夜は、これからもっと深く、もっと濃密になっていく。
月の光りが俺の影を長く伸ばす。
その影の中に、新たな世界の支配者が立っていた。
第5話へ続く




