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ホスト転生  作者: 阿門 甲斐吽


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【第39話】最強の暗殺者


 魔王(まおう)軍(ぐん)最強(さいきょう)の一角(いっかく)と謳(うた)われた冷徹(れいてつ)な魔女(まじょ)アルテミシアの調教(ちょうきょう)を完了(かんりょう)し、鉄血(てっけつ)の砦(とりで)はその主(あるじ)であるシオンの完全(かんぜん)なる支配(しはい)下(か)に置か(おか)れていた。


 かつては冷徹(れいてつ)な黒(くろ)の鎧(よろい)に身(み)を包(つつ)み、峻厳(しゅんげん)な威容(いよう)を誇(ほこ)っていた魔女(まじょ)は、今(いま)やシオンの私室(ししつ)のふかふかとした絨毯(じゅうたん)の上(うえ)で、一糸(いっし)まとわぬ姿(すがた)のまま彼(かれ)の足元(あしもと)に跪(ひざまず)いている。


 その瞳(ひとみ)に宿(やど)るのは、魔王(まおう)ギルガザードへの忠誠(ちゅうせい)ではなく、ただ一人(ひとり)の絶対(ぜったい)者(しゃ)であるシオンに対(たい)する盲目(もうもく)的(てき)な愛欲(あいよく)と狂信(きょうしん)の光(ひかり)だけだった。


 彼女(かのじょ)の白(しろ)い肌(はだ)には、シオンの「性(せい)の捕食者(ほしょくしゃ)」の魔力(まりょく)が刻(きざ)んだ支配(しはい)の紋様(もんよう)が淡(あわ)く脈動(みゃくどう)しており、主(あるじ)が視線(しせん)を向(む)けるだけで、その身体(からだ)を歓喜(かんき)にビクビクと震(ふる)わせる。


「アルテミシア。お前(まえ)のその魔力(まりょく)、そしてこの砦(とりで)の軍勢(ぐんぜい)……すべて俺(おれ)のために使(つか)え。魔王(まおう)を討(う)ち果(はた)すための牙(きば)となるのだ」


 玉座(ぎょくざ)に深(ふか)く腰掛(こしか)けたシオンが冷淡(れいたん)に言(い)い放(はな)つと、アルテミシアは恍惚(こうこつ)とした表情(ひょうじょう)のまま、シオンの靴(くつ)の先(さき)にその艶(つや)やかな唇(くちびる)を寄(よ)せ、恭(うやうや)しく口(くち)づけをした。


「仰(おお)せののままに、私(わたし)の素晴(すば)らしい主(あるじ)、シオン様(さま)。この命(いのち)も、我(わ)が魔力(まりょく)も、すべてはあなた様(さま)のもの。魔王(まおう)ギルガザードなどという、あなた様(さま)の足元(あしもと)にも及(およ)ばぬ愚者(ぐしゃ)に、我(わ)がかつての同胞(どうほう)たちに、真(しん)なる支配(しはい)の悦(よろこ)びを教(おし)えて差(さ)し上(あ)げましょう……っ」


 彼女(かのじょ)の脳髄(のうずい)は完全(かんぜん)に最適(さいてき)化(か)されていた。


 かつての誇(ほこ)り高(たか)き魔女(まじょ)としての知識(ちしき)や戦闘(せんとう)技術(ぎじゅつ)はそのままに、その精神(せいしん)の拠(よ)り所(どころ)だけがシオンへの絶対(ぜったい)服従(ふくじゅう)へと書(か)き換(か)えられているのだ。


 自(みずか)らの意志(いし)で快楽(かいらく)の奴隷(どれい)となることを選(えら)んだ彼女(かのじょ)は、むしろその背徳(はいとく)的(てき)な状況(じょうきょう)に、この上(うえ)ない幸福(こうふく)を感(かん)じていた。


「頼(たの)もしいことだ。では、手始(てはじ)めに魔王(まおう)軍(ぐん)の動向(どうこう)を教(おし)えよ。ルビリアを失(うしな)い、さらにお前(まえ)までが音信(おんしん)不通(ふつう)となったのだ。向(む)こうもただでは済(す)ませまい」


 シオンが彼女(かのじょ)の赤(あか)く乱(みだ)れた髪(かみ)を乱暴(らんぼう)に掴(つか)み、その顔(かお)を持(も)ち上(あ)げる。


 アルテミシアは痛(いた)みにすら甘美(かんび)な快楽(かいらく)を覚(おぼ)え、熱(あつ)い吐息(といき)を漏(も)らしながら滑(なめ)らかに語(かた)り始(はじ)めた。


「はい……。魔王(まおう)ギルガザードはすでに、私(わたし)の異変(いへん)を察知(さっち)しているはずです。あの男(おとこ)は猜疑(さいぎ)心(しん)の塊(かたまり)。ですが、まさか私(わたし)がこのように、あなた様(さま)の愛(あい)の毒(どく)に染(そ)まって裏切(うらぎ)ったとは夢(ゆめ)にも思(おも)っていないでしょう。おそらく、何者(なにもの)かの奇襲(きしゅう)を受(う)け、私(わたし)が戦死(せんし)したか、あるいは捕(と)らえられたと考(かんが)えているはず。そして……あの男(おとこ)が次(つぎ)に送(おく)り込(こ)んでくるであろう『刺客(しかく)に心当(こころあ)たりがございます」


 アルテミシアの言葉(ことば)に、シオンは微(かす)かに眉(まゆ)を動(うご)かした。


「ほう?次(つぎ)の生贄(いけにえ)の名(な)を聞(き)かせてもらおうか」


「魔王(まおう)直属(ちょくぞく)の隠密(おんみつ)部隊(ぶたい)を率(ひき)いる影(かげ)の暗殺者(あんさつしゃ)『漆黒(しっこく)の死神(しにがみ)の異名(いみょう)を持(も)つ、ダークエルフの王女(おうじょ)シェリアにございます」


 その名(な)を聞(き)いたシオンの口元(くちもと)に、残虐(ざんぎゃく)で淫靡(いんび)な笑(え)みが浮(う)かぶ。


「ダークエルフの王女(おうじょ)、か。それはまた、極上(ごくじょう)の玩具(おもちゃ)になりそうだな」


「はい、シオン様(さま)。シェリアは極(きわ)めて冷酷(れいこく)にして、頑(かたく)なまでの矜持(きょうじ)を持(も)つ女(おんな)。一族(いちぞく)を魔王(まおう)に人質(ひとじち)に取(と)られ、影(かげ)から魔王(まおう)軍(ぐん)を支(ささ)える汚(よご)れ仕事(しごと)を一手(いって)に引(ひ)き受(う)けております。その戦闘(せんとう)能力(のうりょく)は、不意打(ふいう)ちや暗殺(あんさつ)という点(てん)においては、この私(わたし)をもしのぐほど。ですが……」


 アルテミシアはシオンの膝(ひざ)に豊(ゆた)かな胸(むね)を押(お)し付(つ)け、上目遣(うわめづか)いで主(あるじ)の顔(かお)を見(み)つめた。


「彼女(かのじょ)のその頑(かたく)なな誇(ほこ)り、一族(いちぞく)を想(おも)うがゆえの強固(きょうこ)な意志(いし)こそ、シオン様(さま)の楔(くさび)で打(う)ち砕(くだ)かれたとき、どれほど美(うつく)しい悲鳴(ひめい)に変(か)わるか……。想像(そうぞう)するだけで、私(わたし)の身体(からだ)がまた、疼(うず)いてしまいます……っ」


 調教(ちょうきょう)され尽(つ)くした魔女(まじょ)は、今(いま)やシオンの次(つぎ)なる獲物(えもの)を誘(さそ)い込(こ)むための忠実(ちゅうじつ)な猟犬(りょうけん)と化(か)していた。


 自分(じぶん)をこれほどの快楽(かいらく)で満(み)たしてくれた主(あるじ)のために、新(あら)たな女(おんな)を提供(ていきょう)し、その女(おんな)が自分(じぶん)と同(おな)じようにドロドロに溶(と)かされ、屈服(くっぷく)していく様(さま)を見(み)たいという、歪(ゆが)んだ独占(どくせん)欲(よく)と加虐(かぎゃく)心(しん)が彼女(かのじょ)の中(なか)で首(くび)をもたげていた。


「ククク……いい心掛(こころが)けだ、アルテミシア。お前(まえ)がそこまで言(い)うのなら、そのシェリアという女(おんな)、徹底(てってい)的に(てきに)『教育(きょういく)』してやらねばな。その誇(ほこ)り高(たか)い身体(からだ)に、誰(だれ)が本当(ほんとう)の主人(あるじ)であるかを叩(たた)き込(こ)んでやる」


「素晴(すば)らしいです、シオン様(さま)……っ。すでに砦(とりで)の周辺(しゅうへん)には、彼女(かのじょ)と思(おも)われる影(かげ)の動向(どうこう)が報告(ほうこく)されております。おそらく、本隊(ほんたい)が動(うご)く前(まえ)に、シェリア自身(じしん)が単独(たんどく)で潜入(せんにゅう)し、私(わたし)の安否(あんぴ)を確認(かくにん)すると同時(どうじ)に、砦(とりで)の主(あるじ)となったあなた様(さま)の首(くび)を狙(ねら)ってくるはずです」


「ならば、こちらから網(あみ)を張(は)って待(ま)つだけのこと。この砦(とりで)の防衛(ぼうえい)権(けん)をお前(まえ)に任(まか)せる。泳(およ)がせ罠(わな)にハメ、俺(おれ)の私室(ししつ)までその足(あし)で歩(ある)いてこさせるのだ」


「お任(おまか)せください。私(わたし)のすべてを賭(か)けて、彼女(かのじょ)をあなた様(さま)のベッドへと誘(さそ)い込(こ)みます」


 アルテミシアは深(ふか)く一礼(いちれい)し、シオンの許(ゆる)しを得(え)て立(た)ち上(あ)がると、その妖艶(ようえん)な肢体(したい)に再(ふたた)び漆黒(しっこく)の鎧(よろい)を纏(まと)わせた。


 外見(がいけん)は元(もと)の冷徹(れいてつ)な魔女(まじょ)そのものだが、その鎧(よろい)の下(した)の肉体(にくたい)は、すでにシオンの種(たね)と蜜(みつ)で汚(よご)れ、精神(せいしん)は狂信(きょうしん)に染(そ)まりきっている。


 シオンは私室(ししつ)の窓(まど)から、暗雲(あんうん)が立(た)ち込(こ)める魔界(まかい)の空(そら)を見(み)つめた。


 淫魔(いんま)ルビリア、魔女(まじょ)アルテミシア、そして次(つぎ)はダークエルフの暗殺者(あんさつしゃ)か。


 強大(きょうだい)な女(おんな)たちが自(みずか)らの力(ちから)に屈(くっ)し、愛欲(あいよく)の奴隷(どれい)へと堕(お)ちていく様(さま)は、シオンの征服(せいふく)欲(よく)をこの上(うえ)なく満(み)たしていた。


 数日(すうじつ)後(ご)。


 鉄血(てっけつ)の砦(とりで)の夜(よる)は、不気味(ぶきみ)なほどの静寂(せいじゃく)に包(つつ)まれていた。


 アルテミシアが意図(いと)的(てき)に作(つく)った防衛(ぼうえい)網(もう)の「隙間(すきま)」を縫(ぬ)って、一筋(ひとすじ)の細(ほそ)い影(かげ)が、音(おと)もなく本殿(ほんでん)の回廊(かいろう)を駆(か)け抜(ぬ)けていく。


 しなやかな肢体(したい)を闇(やみ)に溶(と)け込(こ)ませる黒(くろ)い特殊(とくしゅ)な装束(しょうぞく)。


 頭部(とうぶ)を覆(おお)うフードの隙間(すきま)から覗(のぞ)くのは、褐色(かっしょく)を帯(お)びた神秘(しんぴ)的(てき)な肌(はだ)と、獲物(えもの)を狙(ねら)う鋭(するど)い極光(きょっこう)を放(はな)つ紫(むらさき)の瞳(ひとみ)。


 そして、特徴(とくちょう)的(てき)な長(なが)い耳(みみ)。


 魔王(まおう)軍(ぐん)最強(さいきょう)の暗殺者(あんさつしゃ)、ダークエルフの王女(おうじょ)シェリアであった。


(アルテミシアの気配(けはい)が、この奥(おく)からする……。だが、おかしい。妙(みょう)に魔力(まりょく)が乱(みだ)れている……。一体(いったい)、この砦(とりで)で何(なに)が起(お)きているというのだ)


 シェリアは手(て)にした短剣(たんけん)を逆手(さかて)に握(にぎ)り直(なお)し、細心(さいしん)の注意(ちゅうい)を払(はら)いながら、シオンの待(ま)つ私室(ししつ)の扉(とびら)へと手(て)をかけた。


 自(みずか)らが、二度(にど)と引(ひ)き返(かえ)せない快楽(かいらく)の檻(おり)へと足(あし)を踏(ふ)み入(い)れようとしていることなど、知(し)る由(よし)もない。





第(だい)40話(わ)へ続く(つづく)





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