氷の荒野に、無数の蹄の音が地鳴りのように響き渡る。
魔王ギルガザードの懐刀、魔女アルテミシアが率いる「黒耀騎士団」の突撃は、見る者を圧倒する漆黒の暴力そのものだった。
一騎一騎が禍々しい魔力を放ち、白銀の雪原を黒く塗りつぶしていく。
しかし、突撃する精鋭たちの足元で、大地が不気味に桃色へと脈動した。
「集え、シオン様の敵を永劫の檻へ誘え。『淫凍の結界』!」
城壁の上で両手を掲げる巫女サクヤの詠唱と共に、無数の巨大な桃色の氷柱が爆発的に突き出す。
愛欲の魔力と混ざり合ったサクヤの氷は、触れた者の精神を強制的に魅了状態へ叩き落とす絶望の檻。
「くっ……何だ、この光は……身体が、熱い……!?」
先頭を走る漆黒の騎兵たちが、氷柱に触れた瞬間、次々と落馬した。
冷徹無比だった彼らの瞳が、一瞬にして快楽の毒に侵され、激しく混濁していく。
かつて魔王に捧げたはずの忠誠心は、シオンの濃厚な魔力の前に一瞬で書き換えられ、ただその場に跪いていく。
「動揺するな。陣形を崩さず、そのまま踏み潰せ」
後方からアルテミシアの冷徹な声が飛ぶ。
彼女の細い指先から放たれた黒い雷撃が、サクヤの氷柱を容赦なく破壊し、騎兵の進路をこじ開けた。
「さすがは魔王の懐刀。ですが、シオン様の防衛ラインはそれだけではありませんよ」
背後から妖艶な声が響く。
アルテミシアが視線を向けると、そこには寝返った魔族の兵を率いるヴァルグリム、そしてその影から躍り出たフェンリルのセレナが待ち構えていた。
「裏切り者どもが……!」
「裏切りではない。私は、真の主に巡り合えただけだ!」
ヴァルグリムの漆黒の大剣が、黒耀騎士団の副団長の首を一撃で撥ね飛ばす。
シオンから濃密な魔力供給を受けて強化されたヴァルグリムの力は、かつての比ではなかった。
セレナもまた、鋭い爪で黒い鎧を次々と引き裂き、血の赤と雪の白、そして愛欲の桃色が入り混じる戦場を作り出していく。
だが、黒耀騎士団の真の脅威はアルテミシア本人だった。
彼女が呪文を唱えると、空間そのものが歪み、無数の黒い魔力弾が戦場全体へと降り注ぐ。
圧倒的な破壊力が、寝返った魔族の兵たちを容赦なく圧殺していった。
「やはり、最終防衛ラインまで来ましたね」
砦の深奥、本殿へと続く最後の門の前で、リーナがルナリスとルミナリアを従えて立ちはだかった。
「シオンから、ここを通すなと言われているの。悪いけど、ここで止まってもらうわ」
リーナの指示により、ルナリスとルミナリアが同時に強力な魔術を展開する。
二人の放つ光の障壁と、アルテミシアの黒い雷撃が激しく衝突し、大気が悲鳴を上げた。
「これほどの戦力を隠し持っていたとはな。だが、私の前ではすべて無意味だ」
アルテミシアは表情一つ変えず、さらに魔力を練り上げる。
その冷徹な威圧感に、リーナたちも息を呑んだ。
その時、本殿の奥から、ゆっくりとした足音が響いてきた。
「そこまでにしろ、アルテミシア」
現れたのは、絶対の支配者、シオン。
その傍らには、薄衣を纏い、蕩けた瞳でシオンの服の裾を握りしめるルビリアの姿があった。
「ルビリア……本当に、見る影もなく成り下がったな」
アルテミシアの冷たい視線がルビリアを射抜く。
しかし、ルビリアはシオンの腕に胸を押し付けながら、くすくすと狂気じみた話し声を上げた。
「ふふ……かわいそうなアルテミシア。成り下がった? 違うわ。私は、この世で最高の幸福を知ったのよ。シオン様の指先、その声、そのすべてが、私の身体を極上の快楽で満たしてくれる……。お前のその冷たい誇りも、シオン様の能力の前では、ただの調教のスパイスに過ぎないわ」
「下劣なサキュバスめ。人間の術など、私の理性が弾き返す」
アルテミシアがシオンに向けて右手を掲げ、最大出力の黒雷を放とうとした。
だが、シオンは一歩も動かず、ただその妖艶な瞳でアルテミシアを真っ直ぐに見つめた。
「理性を過信するな、魔女。お前が冷徹であればあるほど、それが崩壊した時の快楽は深くなる」
シオンの「性の捕食者」の能力が、アルテミシアの発動した魔術の術式を直接逆流させる。
アルテミシアの放った黒雷が、シオンの手前で禍々しい桃色の愛欲の毒へと反転し、彼女自身の肉体へと突き刺さった。
「な……に……っ!?」
アルテミシアの白い肌が、一瞬にして熱を帯びる。
脳髄を直接灼かれるような、経験したことのない強烈な快感が全身の神経を駆け巡った。
一切の感情を持たなかったはずの魔女の瞳が、激しく揺らぎ、潤んでいく。
「くっ……あ、はぁ……っ! 私の……魔力が……っ! 何だ、この、熱さは……っ!」
アルテミシアは自らの豊かな胸を掻きむしるようにして、その場に膝を突いた。
鎧の内側から、自覚すらできないほどの熱い蜜が溢れ出し、冷徹な魔女の理性を音を立てて削り取っていく。
「いい表情だ、アルテミシア。お前のその冷たい誇りを、今から俺の愛欲で完全に溶かし尽くしてやる」
シオンは跪くアルテミシアの顎を乱暴に持ち上げ、獰猛な笑みを浮かべた。
黒耀騎士団の無敵の連撃は止まり、戦場は完全にシオンの支配下へと堕ちていく。
第37話へ続く