表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

【第19話】狼族の牙とホスト


 (きば)(もり)(きた)鬱蒼(うっそう)(しげ)樹木(じゅもく)隙間(すきま)から、月光(げっこう)(するど)(きば)のように()()領域(りょういき)――そこがウルフ(ぞく)縄張(なわば)りだ。


 周囲(しゅうい)からは数十対(すうじゅうつい)()えるような(あか)(ひとみ)が、俺たちを包囲(ほうい)するように(ひかり)(はな)っている。


 (けもの)(ひく)(うな)(ごえ)が、空気(くうき)(ふる)わせていた。

  

「……シオン、(かこ)まれてるわ。(かず)()えば五十(ごじゅう)……いや、それ以上(いじょう)ね。ウルフ(ぞく)()れは、一人(ひとり)(きず)つけば(のこ)りの全員(ぜんいん)(くる)ったように(おそ)いかかってくる。(たたか)うなら、相当(そうとう)覚悟(かくご)必要(ひつよう)よ」

  

 リーナが(つえ)(にぎ)りしめ、いつでも魔法(まほう)(はな)てるよう(かま)える。


 エルザは(けん)(つか)()をかけ、緊張(きんちょう)身体(からだ)強張(こわば)らせていた。


 (おれ)は、そんな彼女(かのじょ)たちの(うし)ろから、あえて一人(ひとり)()れの中央(ちゅうおう)へと(あゆ)()た。

  

「シオン!? 正気(しょうき)か! 一人(ひとり)()()むなんて……」

  

 アルベルトの悲鳴(ひめい)にも()(こえ)()に、(おれ)()()まった。


 すると、()れを()って、銀色(ぎんいろ)毛並(けな)みを(ほこ)巨大(きょだい)獣人(じゅうじん)(あらわ)れた。


 (かれ)はウルフ(ぞく)族長(ぞくちょう)(きば)()()しにして(おれ)見下(みお)ろす。


 その体格(たいかく)はレオナの二倍(にばい)(ちか)くあり、(ただよ)わせる殺気(さっき)(するど)刃物(はもの)のようだ。

  

「……レオナに(そそのか)された(まよ)()か。(ひょう)(めす)骨抜(ほねぬ)きにされたと()いていたが、まさかここまで無謀(むぼう)(おとこ)とはな。貴様(きさま)(のど)()いちぎれば、レオナは()(さけ)ぶだろうよ」

  

 族長(ぞくちょう)地面(じめん)()り、驚異(きょうい)(てき)(はや)さで(おれ)(ふところ)へと()()んでくる。


 その(つめ)(くう)()き、(かぜ)(おれ)(ほお)(かす)めた。


 普通(ふつう)なら(くび)()んでいる距離(きょり)だ。


 だが、レオナとの(あい)によって()()れた「野生(やせい)直感(ちょっかん)」は、(かれ)(うご)きの予兆(よちょう)を、筋肉(きんにく)のわずかな痙攣(けいれん)からすべて()()っていた。

  

 (おれ)最小限(さいしょうげん)(うご)きでそれを回避(かいひ)し、(かれ)(うで)(つか)むと、そのまま(ふところ)へと(はい)()んだ。


 そして、心臓(しんぞう)鼓動(こどう)(もっと)(はげ)しく脈打(みゃくう)場所(ばしょ)に、(おれ)(てのひら)をそっと()える。

  

「……(ころ)必要(ひつよう)はない。(きみ)も、ただ(つよ)さを証明(しょうめい)したくて、()れの(みな)(まも)りたくて、その(きば)()いでいるだけなんだろう?」

  

 (おれ)(こえ)は、(かれ)耳元(みみもと)(やさ)しく、しかし確固(かっこ)たる支配(しはい)(ひび)きを()って()()んだ。


 族長(ぞくちょう)(おれ)(てのひら)から(なが)れる「(ねつ)」に()れ、一瞬(いっしゅん)だけ(うご)きを()めた。


 (おれ)(かれ)()きしめるようにして、その荒々(あらあら)しい闘争心(とうそうしん)を、(おれ)の「営業(えいぎょう)」の(かた)へと(なが)()んでいく。

  

「……な、なんだこの(あたた)かさは。……(ちから)が、()けていく……」

  

 (おれ)(かれ)耳元(みみもと)で、甘美(かんび)(ささや)きを(つづ)けた。


 (かれ)(いま)まで体験(たいけん)したことのない、絶対的(ぜったいてき)(やす)らぎと、支配(しはい)されることの(よろこ)び。


 ()れの戦士(せんし)たちは、族長(ぞくちょう)(おれ)(むね)(なか)大人(おとな)しくなっていく様子(ようす)()て、混乱(こんらん)し、武器(ぶき)()ろした。


 (かれ)らは強者(きょうしゃ)には(したが)うが、これほど「魅了(みりょう)」する強者(きょうしゃ)()たことがなかったからだ。

  

(きみ)たちはもう、(たたか)わなくていい。(おれ)という(あたら)しい主人(しゅじん)が、この(もり)のすべてを(うるお)わせてやる。(たたか)いよりも、もっと(あま)く、もっと刺激的(しげきてき)(よろこ)びを(おし)えよう」

  

 族長(ぞくちょう)(ひとみ)から攻撃的(こうげきてき)(あか)(ひかり)()え、(ふか)陶酔(とうすい)(いろ)宿(やど)る。


 (おれ)(かれ)(かた)(つよ)(たた)き、周囲(しゅうい)()(かこ)んでいたウルフ(ぞく)戦士(せんし)たちに()かって微笑(ほほえ)んだ。


 (かれ)らもまた、(おれ)(まと)うオーラに()てられ、次々(つぎつぎ)とその()(ひざ)をついていく。

  

「シオン……! あんた、本当(ほんとう)()(もの)ね。(ちから)でねじ()せるんじゃなくて、(こころ)そのものを支配(しはい)しちゃったわ」

  

 リーナが(あき)れを(とお)()して感嘆(かんたん)(こえ)()らす。


 エルザもアルベルトも、(しん)じられないものを()()で俺たちを()つめていた。


 アルベルトは(ふる)えながら、(ひざ)をつくウルフ(ぞく)()れを指差(ゆびさ)して(わら)()した。

  

「……ああ、もう降参(こうさん)だ。(ひょう)(つぎ)(おおかみ)かよ。シオン、お(まえ)、この(もり)のすべての(おんな)、いや!(すべ)ての()(もの)(とりこ)にする()か?」

  

「アルベルト。(おれ)は『対象(たいしょう)』を(えら)ばない。(おれ)というホストの魅力(みりょく)(おぼ)れたいと(ねが)うすべての存在(そんざい)を、(あい)してやるだけだ」

  

 夜明(よあ)けの(ひかり)が、(もり)隙間(すきま)から()()んできた。


 それは、(おれ)たちの勝利(しょうり)と、(あたら)しい秩序(ちつじょ)夜明(よあ)けを()げる(ひかり)だ。


 (ひょう)獣人(じゅうじん)とウルフ(ぞく)


 数十年(すうじゅうねん)もの(あいだ)(にく)()っていた(かれ)らが、(いま)(おれ)という共通(きょうつう)の「主人(しゅじん)」の(もと)で、(しず)かに(かお)見合(みあ)わせている。

  

 この(もり)(あらそ)いは(いま)()わりを(むか)えた。



  

(だい)20()(つづ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ