【第13話】荒野の暴君
王都を支配下に収めた俺たちは次に未知なる大陸の深淵を目指すことになった。
王都の城門を背に、広大な大地を見下ろす高台に立った時、風の匂いが変わったことを肌で感じた。
ここから先は、俺の噂も届いていないであろう未開の地だ。
だからこそ、期待に胸が高鳴る。
「王都の全てを手に入れておきながら本当に、行っちゃうのね。」
馬車の御者台で手綱を握るリーナが、少しだけ感慨深げに空を見上げた。
彼女の魔力は、俺との絆によって以前とは比較にならないほど洗練されている。
今の彼女なら、単独で小国一つを更地にするほどの威力を持っているだろう。
だが、彼女は俺の傍から離れようとはしない。
それが彼女にとっての、何よりも幸せな選択だと分かっているからだ。
「だからこそ、次に進むんだよ。一つの場所に留まっていては、ホストとしての芸が錆び付く。それに、世界はもっと広くて、もっと面白い」
俺の隣には、エルザの姿もあった。
彼女は王女としての立場を一時的に離れ、俺の旅に同行することを決意した。
国政のことは信頼できる側近に任せ、今はただ、一人の女として俺の背中を追いかけている。
その覚悟こそが、俺を惹きつけてやまない。
「シオン。あなたがどこへ行こうと、私はあなたのものよ。この命、この力、すべてあなたに捧げると決めたの。王女としての私ではなく、あなたを愛する一人の女としてね」
エルザの力強い言葉に、俺は満足げに微笑んだ。
彼女のような完璧な存在が、こうして俺にすべてを委ねてくれる。
これこそが、ホストとしての至上の報酬だ。
俺は彼女の肩を抱き寄せ、馬車の屋根の上で心地よい振動を感じながら、西の空を見つめていた。
旅の途中、俺たちは王都のギルド支部へ立ち寄った。
そこで提示されたのは、未踏の大地にある『忘却の迷宮』という名の超難関ダンジョン攻略の依頼だった。
大陸の奥深くに眠るこの遺跡は、かつての文明の遺物と膨大な魔力を秘めているという。
報酬の額も破格だが、何より俺の飢えた魂を満足させる刺激に満ちている。
ダンジョンへ向かう道中、俺たちは『黄砂の荒野』と呼ばれる難所へと足を踏み入れた。
そこには、王都のモンスターとは比べ物にならないほど凶悪な魔獣たちが生息している。
だが、俺たちにとっては絶好の狩場だ。
俺たちの連携を見せつけ、その力をさらに磨き上げるための、最高の舞台だ。
「シオン、前方から巨大な魔力の反応よ。……あれは、砂嵐の中に潜む『荒野の暴君』ね」
リーナが鋭く警告する。
砂嵐の向こうから、地響きとともに現れたのは、全身が鋼のような鱗に覆われた巨大なサソリ型の魔獣だった。
その毒針は、一突きで軍隊をも壊滅させるほどの威力を持っている。
馬を操るアルベルトが恐怖で凍りついているのが、馬車の内側からでも伝わってくる。
「いいぞ。その暴君を調教してやろうか。リーナ、魔力を貸してくれ。エルザ、加護を俺に」
俺は馬車から飛び降り、砂嵐の中へと突進した。
暴君の巨大な鋏が俺を狙う。
だが、今の俺にはそれらすべてがスローモーションに見える。
俺は鋏の隙間をすり抜け、その巨大な頭部へと飛び乗った。
そして、俺のスキル『性の捕食者』を、直接その核へと注ぎ込む。
「……喰らえ。俺の、愛をな」
魔獣が激しくのたうち回る。
だが、やがてその動きは嘘のように大人しくなった。
俺の魔性が、魔獣の凶暴な本能を根底から書き換え、俺に対する絶対的な服従心へと変えてしまったのだ。
砂嵐が止む。
俺の前で、暴君が従順な愛犬のように大人しくうずくまっている。
リーナとエルザが感嘆の声を上げる。
アルベルトが馬車から呆然と俺を見つめている。
「……信じられない。あの暴君を、手懐けるなんて」
「手懐けたんじゃない。俺のファンにしてやったのさ」
俺は魔獣の頭を撫でた。
魔獣が恍惚とした表情を浮かべ、俺にすり寄ってくる。
この大陸を渡るための、最高の足が手に入った。
これで、ギルドの依頼である『忘却の迷宮』への到達もさらに加速する。
俺たちは、新しい「相棒」と共に、荒野の果てにあるダンジョンを目指すことにした。
そこには、まだ見ぬ強力な魔獣たちが潜んでいるはずだ。
地平線の向こうから、沈みゆく太陽が真っ赤な光を投げかける。
ダンジョンが、俺たちの到来を待っている。
そんな予感が、確信へと変わっていく。
俺は暴君の背に腰を下ろし、リーナとエルザを隣に招いた。
この世界のどこまで行こうとも、俺は止まらない。
全てを手に入れるその日まで、俺は走り続ける。
……さて、『忘却の迷宮』では、どんな強敵がお俺を待っているのか!
考えるだけで、血が騒ぐ。
この悦びに満ちた瞬間を、永遠に更新し続けること。
それこそが、神楽咲紫苑の生き様だ。
第 14話へ続く




